習近平国家主席が国賓として2回目の米国訪問
中国の習近平国家主席が9月23~25日、国賓として米国を訪問しました。先週のレポートでは、習氏訪米や米中首脳会談で注目すべき五つのポイントを取り上げました。本稿では、その5点に基づき、実際の内容はどうだったのかを検証していきたいと思います。
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五つの注目ポイントを検証
(1)トランプ大統領と習近平国家主席の「個人的関係」演出
今回の習近平氏の訪米プロセスを観察し、昨今の米中関係は、両首脳間の「個人的関係」が土台にあるのだという認識を新たにしました。私があえて鍵かっこ「」を付けているのは、ここでいう個人的関係にはあらゆる解釈が可能だからです。
習近平、トランプ両氏が互いのことを心底どう思っているのかに関しては知る由もありませんが、二人のやり取りを観察してきた立場から、私が思うところをいくつか挙げます。
- 国内政治で自らに権力を集中させ、トップダウン型で意思決定をする傾向のある二人には独自の相性が生まれており、コミュニケーションの過程でも一定の「心地よさ」を感じている。
- 習近平氏とトランプ氏は共に、「中華民族の偉大なる復興」と「米国を再び偉大にする」という似通った政治スローガンを掲げているが、米中の国家間関係という意味で言えば、これは覇権争い、国家間競争を意味するものの、両首脳個人の視点からは、「そう考え、語ること、一番を目指すことはリーダーとして当たり前だ」という一種の親近感を抱いている。
- 一方、両首脳が互いに性格や振る舞い、価値観といった次元で互いを敬愛しているわけでは必ずしもなく、習近平氏にとっては、自らを批判せずむしろ称賛し、かつ台湾問題で明言せず、安易にコメントしないトランプ氏を付き合いやすいと感じ、トランプ氏も、一時貿易戦争が勃発したものの、その後追加関税やレアアースの輸出規制で「休戦」し、かつ農産物やボーイング、エネルギーなど米国から購入しようとしてくれる、言い換えれば自身の「ビジネス」に協力姿勢を示す習近平氏を「私のことを理解してくれている人物」と感じている可能性がある。利害関係という次元で、両者の間には一定の親和性がある。
(2)習近平氏が現地で受ける待遇、アジェンダ、成果
習近平氏夫妻が9月23日夕刻にワシントン郊外の空港に到着すると、トランプ氏夫妻が出迎えましたが、これ自体、異例の厚遇だったと言えると思います。また、24日の首脳会談、国賓晩餐会、25日のお茶会、国立公文書館への訪問を含めて、基本的にトランプ大統領が自ら習近平主席に対応していたというのも、厚遇を裏付ける重要な根拠だったと思います。
また、私が注目したのが、習近平氏が9月24日に行われた晩餐会で、「今この瞬間、中国人民は中秋節を祝っている。中国の伝統において、中秋節というのは家族団らんの祝日である。この場を借りて、皆様の中秋節が楽しく、ご家族の皆様が幸せでありますようお祈り申し上げる」と呼びかけたことです。
中秋節は日本の「中秋の名月」「十五夜」に相当しますが、中国人民にとって、中秋節は春節や国慶節と並んで最も重要な祝日です。この「団らん」の日にホワイトハウスに入ることで、米中が「団結」すべきだというメッセージを習氏は訴えようとしたのでしょう。
逆に言えば、トランプ氏もそれを分かっていて、そういう舞台を用意したということです。習氏はこの点非常に満足だったでしょう。
トランプ氏本人による空港での出迎え、正式な首脳会談、国賓晩餐会、非公式なお茶会、そして習近平氏が関心のある公文書館への訪問…2泊3日という限られた時間の中で、バラエティーに富んだ、かつ密なアジェンダが組まれたと言えます。
と同時に、これらの日程やアジェンダが、5月のトランプ氏訪中と一定程度対を成している点も特筆に値すると思います。当時も2泊3日で、公式な首脳会談あり、非公式なお茶会あり、国賓晩餐会あり、そして天壇公園への参観ありという状況でした。
今回、両首脳は米中関係を「尊重、公平、対等に基づいた、建設的な戦略的安定関係」の構築を打ち出しましたが、今回のアジェンダにも、この対等性がにじみ出ていました。中国としては、国力を高めることで、米国と対等な立場、地位を狙うというのは疑いなく国家目標ですから、その意味でも、習近平氏にとって今回の国賓としての訪米は重要だったと言えます。
会談後、米国政府はファクトシートを、中国政府は成果文書をそれぞれ発表しましたが、両国政府の立場や見解が一致した分野、一致しなかった分野を含め、「成果」を文書に落とし込んだ事実は小さくないと思います。
(3)台湾問題
米中関係にとって最も重要で敏感な問題が台湾問題である点については論を待たないでしょう。なぜなら、仮に両国がこの問題でハンドリングを間違えれば、台湾海峡で戦争が起きる可能性があるからです。言うまでもなく、日本にとっても他人事ではありません。
首脳会談において、習近平氏は次のように発言しました。
「中国側が国家の統一と領土の保全を守る立場ははっきりしている。私は、米国側が台湾独立に反対するという正しい立場を堅持し、台湾問題を慎重に処理することを望んでいる。それによって、米中間の戦略的協力と両国関係の発展に確かな基礎を打ち立てることが可能になる」
米国側に対する要求をはっきり伝えています。台湾問題が適切に処理されなければ、米中関係が安定、発展することは難しいという中国側の立場を述べています。
一方で、米中両国政府が発表した成果文書の中に「台湾」(Taiwan)の言葉は見られません。要するに、台湾問題を巡っては「合意事項」として記載することがないということです。
それが、今回の首脳会談で台湾が議論されていないことを意味するわけではありません。むしろ、相当緊張感のあるやり取りがあったのだと私は考えています。習近平氏による要求に対して、トランプ氏が何らかの了承や約束をしたとは思えませんが、「暗黙の了解」のようなものはあった可能性があります。例えば、「台湾海峡で戦争はしない」。
今後の見どころとしては、トランプ大統領が140億ドル相当の台湾への武器売却を承認するかどうかだと思います。その動向次第で、台湾問題が引き金となり、米中関係が再び緊張する可能性も否定できません。
(4)AI対話
5月のトランプ氏訪中の際、米中がAIで対話をしていくという大きな方向性が打ち出されましたが、今回の習近平氏訪米を跨いで、方向性がどう具体化されるかに私も注目していました。
結果としては、米中が、二国間の経済・貿易協議メカニズムの下に「AI対話」を設置することで合意しました。今回の首脳会談に先立ち、中国の何立峰(ホー・リーフォン)副首相と米ベッセント財務長官がそれぞれ協議責任者を務め「第1回会合」を行い、AIのリスクと便益について意見交換を行いました。
さらに、11月末までに次回対話を開催するとともに、AI関連インシデントについて連絡する「専用チャンネル」を設けることでも合意しました。
この合意をもって、米中の政府や企業の間でAIを巡る競争や攻防が緩和するとは到底思えませんが、AIが米中間の競争・輸出規制の対象であるだけでなく、リスク管理や緊急時コミュニケーションを必要とする二国間協議の正式な議題として制度化されつつあることを示す点で、今後の動向に注目すべきだと思います。
(5)関税、レアアース、フェンタニル、貿易、イラン
その他、今回の米中首脳会談で議論された項目についていくつか取り上げたいと思います。
- 相互関税の引き下げ:米中双方は、それぞれ約300億ドル相当の相手国からの輸入品について、より有利な関税上の取り扱いを行う枠組みを進めることで合意。双方とも対象品目の約90%について最恵国待遇(MFN)税率まで引き下げる方向で、米国側では中国製の玩具、家電、乳幼児用品など、中国側では米国産農産物、パーソナルケア製品、医療機器、石炭などが対象となります。具体的な品目リストや実施条件については今後さらに詰める必要があり、双方の国内手続きを経て実施される見込みです。また米中は、「米中貿易委員会」下に農業作業部会も設け、2026年末までに初会合を開催する予定となっています。
- 米国産石炭輸入:米国産石炭も「300億ドル対300億ドル」の相互関税引き下げ枠組みに含まれます。中国商務部は、これによって2027年および2028年の中国による米国産石炭輸入が促進されるとしています。中国側は、米国産石炭が国内市場を補完するとともに、米国の石炭産業に安定した収益と雇用をもたらすとの見方を示しました。現時点では具体的な購入量や購入義務は示されていませんが、中国側として、トランプ氏の要求に寄り添う(費用対効果という意味で)価値のある分野だと考えているのでしょう。
- イラン情勢:「イランは核兵器を開発しない約束を履行すべき。いかなる国または機関も国際水路に通行料を課してはならない」という立場で一致しました。私から見て、イラン問題を巡る一致は今回の訪米における一つの「成果」で、端的に言えば、イラン情勢で奔走しているトランプ大統領に中国側が譲歩したということでしょう。台湾問題でトランプ氏が「暴走」しないために、イラン問題で「貸し」をつくろうとしたとも読めます。
- 貿易戦争・レアアース:追加関税を巡る既存の貿易休戦措置の期限である2026年11月10日を2027年1月10日まで延長しました。一方、米国政府が発表したファクトシートに「レアアースをめぐる供給不足への懸念」と書かれているものの、ここに対して中国側は呼応しませんでした。一定の立場や利害の不一致があるということでしょう。
その他、米中は直行旅客便の増便について引き続き協議することで一致しました。また中国側は、米国系を含む外国金融機関による中国国内での事業展開や支店設置について、法令に基づいて審査・承認を進める方針を示しました。その代わりに、中国側は米国に対しても、中国系金融機関に公平・透明で安定した政策環境を提供するよう求めました。
最後に、今回の訪米で、習近平氏とトランプ氏が共に、米国と中国は「第二次世界大戦期間中、同盟国として、共に戦った」という発言をし、かつ成果文書にまで落とし込んだ意味は小さくないと思います。
習近平氏としては、「米中共通の歴史」を持ち出し、トランプ氏に同調してもらうことで、「過去から未来へと向かう米中関係」というナラティブをつくりたかったのでしょう。
日本にとっては難しい局面です。
日本と米国が現在互いに信頼し合う同盟関係にあることは疑いないですが、日本が中国と往々にしてもめる歴史問題において、トランプ氏が中国の主張や立場に同調するような局面が生まれ、かつトランプ氏の歴史観や世界観が、習近平氏によって形づくられていくのだとした場合、それが日本を取り巻く経済・安全保障にどう影響していくのか(特に台湾問題)。
私たちも真剣に思考、行動すべき局面に差し掛かっているという危機感を強める今日この頃です。