伸和HD、北海道で培った地域密着ノウハウを名古屋へ

 外食チェーンを手掛ける伸和ホールディングス(7118)は、北海道を中心に「炭火居酒屋 炎」など120店舗(2026年3月時点)を展開する。個人経営の店が多く、チェーン店が根付きにくいとされる北海道岩見沢市で、事業を軌道に乗せた実績がある。

 強みは、徹底した地元食材へのこだわりだ。メニューには岩見沢特産のキジ肉や、地元の老舗「安田豆腐店」の油揚げを使った料理などを取りそろえた。生産者との距離も近く、契約するコメ農家の収穫期には店舗で働く従業員を派遣する。食材や産地に愛情を持ち、来店客にも自分の口で語れる人材を育てるためだ。

 こうした取り組みが地元生産者や農協職員らの間で反響を呼び、岩見沢店の客数は年間で延べ約12万人と、地域人口(7万人)を上回るまでに成長した。

 事業拡大に伴い、上場市場も広げている。2023年に東京証券取引所のプロ投資家向け市場「東京プロマーケット」、2024年に札幌証券取引所の新興企業向け「アンビシャス市場」に上場。今年5月には名古屋証券取引所の「ネクスト市場」へ重複上場した。

 今後は、北海道岩見沢で培った地域密着のノウハウを生かし、新たに東海地方で店舗網を広げる。

 今年8月に愛知県東海市内、9月に名古屋市内に、持ち帰り業態の焼鳥店を新規出店した。出店先の総合スーパー「MEGAドン・キホーテUNY」や食品スーパー「ピアゴ」は、愛知で一大勢力を持つユニーの強みを引き継いだ店舗だ。商品開発でも地場の名店とのコラボを検討し、地元住民の心をつかみたい考え。2027年3月をめどに、愛知県内で5店舗体制を目指す。

 佐々木稔之社長は「その土地ならではの名産品をお届けし、名古屋で知名度を高めたい」と意気込む。

株主優待ではオリジナルのジンギスカンなど地元の名品を送る(伸和HD・佐々木稔之社長)

ヤマナカ、「ホーム」で強み磨く。お客さまが株主に

 一方、「ホーム」で強みを磨き、着実な成長を目指す企業もある。

 ヤマナカ(8190)は、愛知、岐阜、三重の東海地方で食品スーパー「ヤマナカ」や「フランテ」など59店舗(2026年3月時点)を展開。名証「メイン市場」に単独上場している。

 同社オリジナルの「ミニお好み焼き」(税込み128円)は、名物商品の一つ。アルミホイルに包まれ、手持ちで手軽に食べられる「名古屋スタイル」を採用。豚肉、イカ、卵、キャベツなど具だくさんで、お昼のプラス一品として地元住民から根強い人気がある。1日に400個販売する店もあるという。

 こうした名物商品をはじめ、生産者の顔が見える野菜、店内加工品など、競合と差別化できる商品を強化することで、「ヤマナカファンを増やしたい」との思いがある。

 お膝元の愛知では、ディスカウントストア大手トライアルホールディングス(141A)(福岡)や食品スーパーのロピア(神奈川)など県外勢が店舗網を拡大。低価格が売りのドラッグストアとも競争が激しくなっている。ヤマナカは価格競争とは異なる路線で商品力を磨き、地元客から選ばれる店づくりを目指している。

 同社の創業は1922年と、100年を超える歴史がある。県外から出店攻勢をかけるスーパーの中にはすぐに撤退するケースもある中、地元に根を張り、長く営業を続けていることも強みだ。

 現在、愛知に本社を置くスーパーで、上場しているのはヤマナカのみ。同社にとっては、「日々向き合うお客さまが、株主でもある」(打田稔執行役員)。選ばれる店づくりや、店舗を通じて築いた顧客との関係が、そのまま企業と株主との関係にもつながる。

 企業と株主が、近い距離でつながる。ヤマナカの事例からは、地方市場の「ホーム」としての役割がみえてくる。

ヤマナカ名物の「ミニお好み焼き」

インサイト、アイビスHD、上場で得た「信用」が事業成長を後押し

 成長過程にある企業にとって、上場は信用力を高め、事業拡大のきっかけをつかむことにもなる。

 北海道を地盤に広告企画やマーケティング事業を手掛けるインサイト(2172)は、2008年に札証アンビシャス市場に上場。上場を機に、以前は取り引きのなかった大手企業との契約がスムーズに決まるようになった。

 売り上げが広告案件の受注に左右されやすかった同社にとって、大手取引先の開拓は事業基盤の安定につながった。支払い条件が手形から現金となるなど、資金繰りも大幅に改善。浅井一会長兼CEOは「上場コストを払ってでも、メリットの方が確実に大きかった」と当時を振り返る。

 その後は、広告の企画提案やマーケティングなど、顧客の課題解決で強みを発揮し事業領域を拡大。現在は、自治体向けにふるさと納税返礼品の商品開発から紹介用ウェブページの作成などを一括して支援するサービスも手掛ける。着実な成長を重ね、2025年には札証本則市場に移行した。

「広告にこだわらず、今後も新たな事業に挑戦していきたい」と話すインサイト・浅井一会長兼CEO

 障がい福祉サービスを手掛けるアイビスホールディングス(9334)も、上場により成長を加速した一社だ。

 同社は障がいなどで一般就労が難しい人向けの訓練を行う「就労継続支援B型」施設を全国で展開している。施設の候補地を探す際は、利用者が自分の足で通えるアクセスの良い立地であることが必須条件だ。「従来は10件中9件が断られていた」という駅近の好立地物件も、2023年に東京プロマーケット、2024年に福岡証券取引所の「福岡プロマーケット」に上場した後は難なく確保できるようになった。

 次のステップとして、今年10月に新興企業向け市場である福証「Qボード」と名証ネクスト市場へ上場する。加藤咲江取締役は「多くの個人投資家に存在を知ってもらい、地域社会から必要とされる企業として成長したい」と意気込む。

 成長段階にある企業は、大企業に比べて知名度や信用力で不利になりやすい。上場によって地域社会や取引先から信頼を得ることが、企業の成長をぐっと後押しすることになる。

 企業にとって、地方に上場する意味は一つではない。地域との関わり方も、市場の使い方もさまざまだ。地方取引所は、こうした企業と地域をつなぎ、成長を支える役割を担っている。