「国際秩序回復」はインフレ退治に有効

 図1の上部は、9月22日に高市早苗首相が国連総会で行った一般討論演説の要約文です。冷戦の安定した時代は過去のものであること、中東情勢とエネルギー安全保障への対応、核軍縮・平和への取り組み、「法の支配」に基づく国際秩序を守る、グローバルサウス・気候変動・防災への貢献、AIの発展と偽情報への対応、そして国連改革などを訴えました。

図1:高市首相の国連総会での一般討論演説および国連事務総長のメッセージの要約

図1:高市首相の国連総会での一般討論演説および国連事務総長のメッセージの要約
出所:各種資料より筆者作成

 世界全体として法の支配が低下している、民主主義が後退している、情勢悪化を受けて物流が不安定化している、AIのマイナス面が拡大している、などの認識を示しました。そして、こうした現状に対し国連の役割が大変に大きくなっているとの認識も示しました。

 国連が役割を果たし、世界全体として法の支配が回復すれば、世界的な秩序が回復することが期待されます。

 その国連の事務総長は、昨年開催された大阪・関西万博の国連のパビリオンで放送されたビデオメッセージで、健やかな地球で、全ての人が平和・尊厳・平等で繁栄する世界を作り上げることは可能であること、こうした未来は自動的に実現するわけではなく、一人一人の努力が必要であることなどを述べました。

 国連が役割を果たすこと、世界中の人々一人一人が考えをもって行動すること、これらが同時進行することによって初めて、国際秩序回復が実現すると言えます。そして、その延長線上で、長期視点のインフレ低下が実現すると、筆者は考えています。

 ここで述べている長期視点のインフレとは、図2で示している、原材料価格高を起点としたインフレである「コストプッシュインフレ」の要因の一つであり、資源武器利用(出し渋り)の横行、マネーストック(通貨供給量)の増加などが原因で起きている、国際協調によって抑制できるインフレを指しています。

 米国の中央銀行に当たる米連邦準備制度理事会(FRB)や日本の日本銀行などの中央銀行による利上げによって鎮静化することが期待されるインフレではありません。インフレにも種類があることに、留意が必要です。

 高市首相の演説や国連事務総長のビデオメッセージなどから考えることができるインフレ対策は、世界中で進行している、「秩序よりもビジネスを優先する動き」が生んだ、資源武器利用の横行とマネーストックの増加を国際協調によって抑え込むことです。

図2:現在発生している長期視点のインフレのイメージ

図2:現在発生している長期視点のインフレのイメージ
出所:筆者作成

インフレは「底上げと上昇」でできている

 図3は、米国、ドイツ、日本の消費者物価指数(CPI)の推移です。日本において、「デフレ期」と呼ばれた1990年ごろから2020年ごろまでの物価が上がらなかった時代を振り返ることができます。

 米国とドイツでは、2020年ごろからCPIの上昇が特に目立つようになりました。日本もそれに追随しました。CPIの上昇が目立つようになったタイミングについて、日本ではウクライナ戦争勃発(2022年)と説明されるケースがありますが、世界的に見れば2020年です。

図3:米国、ドイツ、日本のCPI(消費者物価指数) 2010年=100

図3:米国、ドイツ、日本のCPI(消費者物価指数) 2010年=100
出所:国際通貨基金(IMF)のデータより筆者作成

 図4は、日本の輸入物価指数およびCPI・企業物価指数の推移です。CPIは、いわゆる「川下」と呼ばれる消費者に最も近い領域の物価指数です。企業物価指数や輸入物価指数は、CPIよりも上流に位置する領域の物価指数です。

 企業物価指数や輸入物価指数は、2020年ごろから上昇が目立ち始めました。また、2010年ごろから「底上げ」された状態が続いています。根本的なインフレ対策においては、こうした指数を下げることだけではなく、底上げを解消することも求められます。

図4:日本の輸入物価指数および消費者物価指数・企業物価指数(2020年=100)

図4:日本の輸入物価指数および消費者物価指数・企業物価指数(2020年=100)
出所:日本銀行および総務省統計局のデータを基に筆者作成

 2010年ごろ以降続いている底上げと、2020年以降目立っている上昇の背景に、先ほど述べた国際秩序が後退していることで目立っている、資源武器利用の横行とマネーストックの増加が挙げられると、筆者は考えています。

 そもそも、2010年ごろ以降、取り立てて景気が過熱感を帯びることがなかった中で進行した各種物価関連指数の底上げと上昇は、利上げによって鎮静化できる種類のインフレ(ディマンドプルインフレ)ではなかったと、振り返る必要があると筆者は考えています。

 だからこそ、コストプッシュインフレを鎮静化させるための策が必要であり、そのための策として、秩序よりもビジネスを優先する動きがきっかけで目立ってしまった、資源武器利用の横行とマネーストックの増加を、法の支配の回復・国連改革などを通じて、食い止めなければならないのです。