物議をかもした幻の株主優待
まず近年に物議をかもした株主優待の事例について振り返っておきたい。不動産分譲や管理を手掛けるREVOLUTION(8894)の幻の株主優待だ。
同社は2024年10月23日に株主優待制度の新設を発表。4月末と10月末を基準日として2,000株以上の保有かつ株主名簿に2回連続で記載されている株主に年間12万円(半期6万円)のQUOカードPay(ペイ)を贈るという内容だった。初回の株主優待は2025年4月30日時点の株主名簿から判定するとしていた。
REVOLUTIONは2024年11月20日、初回の株主優待の対象となる株主数が最大で2,695人となると開示した。優待の内容からすると年間で3億6,000万円以上の費用が必要になるとともに、「財源は確保している」と説明した。12月24日には特例措置として、2025年1月末時点の株主名簿にある株主も初回の株主優待の対象にすると発表した。
株主に衝撃が走ったのは2025年3月11日だ。特例措置の導入で目先の株主優待の権利を得る株主が9,930人、費用も11億9,000万円にも膨らみ、当初想定を「大幅に上回る」として株主優待の廃止を決めた。結果的に株主優待の新設を発表したものの実施せず、「幻」となってしまった。
留意すべきは業績と優待導入の目的、ヒントは長期保有優遇の設定
では個人投資家が株主優待を見極めるためには何が重要なのだろうか。資本市場の研究や日本の競争力を高めるための政策提言を目的とする東京大学応用資本市場研究センター(UTCMR)フェローの大野麻衣子氏は「トラックレコードとしての業績面の確認、何のための株主優待なのか企業の目的に留意する必要がある」と指摘する。
近年はQUOカードやデジタルギフトなど企業が比較的コストを抑えられる株主優待が増えているが、それでも企業にとっては費用がかかる。大野フェローは企業業績からみた「安定性、継続性の確認が必要」だと指摘する。
個人投資家が見極める一つのヒントとしては「長期保有」の設定があるか否かだ。「長期保有優遇の設定があれば、会社側が長期で(株主と)対応していくという姿勢をくみ取れる」とみる。
企業に対しては「会社側も優待の導入を含めてどういう会社を目指すのか、全体像を市場全体にクリアかつ真摯(しんし)に説明する必要もある」と語る。会社の戦略に沿うか、株主にどのような付き合い方をしてほしいかといった丁寧な説明が必要と説く。企業は補足説明で詳細に情報開示し、投資家にもよく読み込んでほしいと呼びかける。
ある市場関係者は「企業が株主優待を導入すると優待の権利を得る最低単位での投資が増える」と指摘する。結果として株主数が急速に増え、「優待の内容によっては事前想定よりコストが増える可能性がある」とする。別の市場関係者からは「企業は株主優待にかかるコストがどれほどになっているか、投資家にきちんと示すべきではないか」との声も聞かれる。
新興グロースの上場企業で戦略的な株主優待の活用を提言
一方、UTCMRの大野フェローは規模の小さい新興グロース市場の上場企業こそ株主優待を戦略的に有効活用するべきと提言している。東京大学応用資本市場研究センターが2025年9月10日に発行した第一号のフラッシュレポートだ。
新興企業向けの市場であるグロース市場の上場企業は規模が小さく、一定の規模と流動性を求める機関投資家の投資基準を満たしにくい。企業側に目を向けるとインベスター・リレーションズ(IR)体制において人材面やコスト面での制約や課題を抱える傾向がある。
高い成長可能性を持つ企業が集まる市場であるものの、伴走する株主が少ない。市場の特性や企業の規模・課題を考慮し、投資家との接点の一つとして株主優待の活用を提言した。
規模と成長ステージに合わせた株主優待の段階的活用が肝要
同レポートでは企業の規模・成長ステージによって株主優待の導入や柔軟な制度設計を通じた運用が肝要とも指摘している。企業の規模が小さい第一ステージは株主接点の構築期として株主優待が株主数の確保や株式の流動性向上に機能するとみる。BtoC型企業であれば自社製品やサービス割引型の優待が投資家の間で話題になり、注目を集めてIRの代替につながるとする。
企業の規模がやや拡大した第二ステージは機関投資家の投資参入を見据えた株式流動性の一段の向上が重要な課題となる。長期で保有する株主を対象にした優遇制度の導入、配当とのバランスを踏まえた設計と財務面を考慮した柔軟な資本設計が重要とする。
企業の規模が機関投資家の投資対象の規模にまで成長した第三ステージではガバナンスの観点から再評価が必要となり、配当や自社株買いを中心とした株主還元戦略への移行が求められるとまとめた。
グロース企業の優待新設、「事業理解の浸透」「長期のファン形成」など明記も
2026年1月から8月までの期間で適時開示情報を基に株主優待の「導入」や「新設」といったキーワードを機械的に集計すると、2割強がグロース市場の企業だった。株主優待制度の導入の目的に「株主に事業への理解を深めていただく」や「中長期的に支援いただける株主層の拡充」「長期的なファン形成」など明記している企業がある。
株主優待は配当や自社株買いといった株主還元策に比べて自由度の高い設計が可能で、内容もさまざまだ。個人投資家の関心は「お得さ」に向かいやすいが、企業の導入目的や背景にまで目を向けることが企業と長期的に向き合う上で重要だ。