地方証券取引所としての札証の役割

__足元のマーケットや北海道経済をどう見ている。

 円安と金利上昇が大きな打撃となり、日本経済や中小企業にとっては厳しい状況が続いている。北海道でも、資材価格の高騰や人手不足の影響を受け、建築工事を止めざるを得ないケースや、新たな受注が難しくなるケースが出ている。倒産もじわりと増えており、厳しい環境だ。

__1950年の設立以来、札幌証券取引所の役割はどう変わってきた。

 地方証券取引所の多くは、戦前からある資産や土地を引き継ぐ形で再出発した。一方、札証は地元の人たちと北海道、札幌市が資金を出し合い、寄り集まって設立された経緯がある。歴代の理事長には「自分の代で辞めるわけにはいかない」という思いがあり、その使命感がここまで存続する力になってきたのだろう。

 現在は、東京証券取引所がニューヨークやロンドンなどグローバル市場と競争していく一方、地方証券取引所には地方らしく役割を発揮することが求められている。メガバンクと地方銀行で差別化が進んだのと同じ構造だ。

GXで変わる産業構造。「ESG債券市場」開設の狙い

__近年は、GXやESGの推進に力を入れている。

 世の中がGXに動き出す中、半導体大手ラピダスが北海道に進出し、GX拠点として一気に注目を集めるようになった。北海道と札幌は「GX/AI金融・資産運用特区」にも指定され、半導体やデータセンター、ゼロカーボンエネルギーなど関連産業の集積が進んでいる。

 北海道経済は長い間公共投資に依存していたが、産業構造が大きく変わり出したのを実感している。新たな産業が育てば、資本市場の役割も大きくなる。こうした変化の中で、札証が担うべき役割も必然と明確になった。

__GX強化の取り組みとして、2025年9月にはESG債に特化した市場「北海道ESGプロボンドマーケット」を開設した。

 債券の発行者は、評価機関による厳しい要件を満たす必要がある。実態を伴わないままGX事業に取り組んでいるように見せる「グリーンウォッシュ」問題がある中で、こうした社会的信用を得られる仕組みの重要性が増している。企業にはステータスシンボルとして使ってほしい。

__米トランプ政権を中心に反ESGの逆風もある。今後の市場見通しは。

 ESGのトーンがやや下がっているのは確かで、本格的な活性化までには時間がかかりそうだ。

 また、足元では金利上昇で設備投資に慎重な企業も増えており、社債市場全体がかなり伸び悩んでいる面もある。

 ただ、脱炭素やESGの大きな流れ自体は変わらないとみている。AIの普及で電力需要が増えれば、ゼロカーボンエネルギーへの関心が改めて高まる局面がくるはずだ。そうした流れを考えれば、北海道にESG債の市場をもつことは大きな意味がある。

 現在は、北海道電力のトランジションボンド(移行債)2銘柄(計145億円)、札幌市のグリーンボンド1銘柄(60億円)が上場している。長い目で、この市場の意義を訴えていきたい。

「地域課題の解決に向けて、ローカル・ゼブラ企業を育てるエコシステムを確立したい」と話す長野理事長
「地方の資本市場として、GXによる産業構造の転換を後押ししていきたい」と話す長野理事長

地域課題の解決へ、「ローカル・ゼブラ企業」を育てる

__2026年6月、スタートアップのプロ投資家向け市場「Sapporo PRO Frontier Market(札幌プロフロンティアマーケット)」を開設した。狙いは。

 スタートアップといえば、先端技術を活用し、世の中にない需要をつくりだす「ユニコーン企業」がある。一方、地方においては、すでにある社会課題の解決に取り組む企業の存在も重要だ。こうした企業を「ローカル・ゼブラ企業」と位置付け、育てていきたい。

 広大な土地の北海道には、人口減少や買い物難民などまだ解決されていない「困りごと」がたくさんある。これをビジネスとして解決できれば、地域経済にも貢献できる。急成長よりも持続的な成長を目指す考え方は、GXやESGのような社会課題とも親和性が高い。地方にはこうした課題解決型のアプローチが水に合っている。

 プロ向けのスタートアップ市場は、東京、福岡に次ぐ3番目となる。北海道でも起業家は増えており、資本市場につなぐ役割が必要だ。地域の自治体や大学などと連携しながらイノベーションを促し、独自のエコシステムをつくっていきたい。

__スタートアップが成長を目指す上での課題は。

 資金調達とビジネスモデルの磨き上げという二つが、重要な課題だ。ベンチャーキャピタルは一定の期間で投資資金を回収する必要があるため、企業の成長段階と資金の出口がかみ合わないケースがある。一方、資本市場であれば、企業の成長に応じて資金調達できる余地がある。

 また、スタートアップの後期段階で最も重要なのは、ビジネスモデルの磨き上げだ。札幌プロフロンティアマーケットでは、M&A(合併・買収)仲介やコンサルティングなどの会社を「S-Adviser(S-アドバイザー)」として登録している。

 S-アドバイザーは企業の上場準備や審査を担うほか、上場後にビジネスモデルを磨き上げる過程も継続的に支援する。企業にはこの仕組みを活用し、さらなる飛躍のきっかけをつかんでほしい。

個人投資家との対話が、企業を鍛える

__上場企業と個人投資家をつなぐため、担うべき役割は。

 取引所として、今後も企業と投資家がコミュニケーションをとる場を設けることに尽きる。札証でも、毎年個人投資家向けのIRセミナーなどを開催している。登壇する企業を見ていると、投資家からのプレッシャーや市場の厳しさにさらされ、苦労しながらもそのたびに鍛えられていることがよく分かる。

 都内で企業のIRセミナーを開催した際、参加者が鋭い質問を投げかけていたのが印象的だった。自分の資金を投資するからこそ、個人投資家は真剣勝負。資本市場ならではの厳しさと熱量を感じた。

__今後の展望は。

 北海道では今後も、半導体関連企業やデータセンターの集積など、大掛かりなプロジェクトが増えていくだろう。従来はプロジェクトファイナンスやベンチャーキャピタルのような仕組みが中心だったが、今後はこのようなプロジェクトに個人投資家が投資できる仕組みが必要になるかもしれない。北海道らしい取り組みを考えていきたい。