消費と投資が落ち込み、失業率は上昇

 本連載では、景気動向を巡る統計や中国政府による政策や措置については適宜アップデートし、分析を加えてきましたが、やはり実際に現場に赴いて、臨場感や空気感に身を委ねることで初めて見えてくることもあります。

 本稿では、「出張報告」として、現場を歩き、現地の人々と会話をしながら、私のアンテナに引っ掛かり、昨今の景気動向を捉える上で示唆に富むと感じた五つのテーマを取り上げます。以下、9月15日に中国国家統計局が発表した8月(1~8月)の主要統計結果を掲載した上で、デフレ、不動産、若年層、自動化、AIというキーワードから中国経済の現在地を掘り起こしていきます。

 8月の統計を見る限り、工業生産はなんとか持ち直しており、貿易も堅調に推移しているように見受けられるものの、消費と投資は引き続き落ち込んでおり、失業率も上昇傾向にある現状が見て取れます。

  8月 7月
工業生産 5.2% 4.5%
小売売上 0.4% 0.6%
固定資産投資 ▲7.2%
(1~8月)
▲6.7%
(1~7月)
不動産開発投資 ▲19.9%
(1~8月)
▲19.2%
(1~7月)
不動産を除いた固定資産投資 ▲4.2%
(1~8月)
▲3.7%
(1~7月)
貿易(輸出/輸入)人民元建て 19.8%
(18.6%/21.7%)
19.2%
(17.8%/21.2%)
失業率(調査ベース、農村部除く) 5.3% 5.2%
若年層失業率(在校生除く)   17.9%
消費者物価指数(CPI) 0.8% 0.5%
生産者物価指数(PPI) 3.8% 3.5%
出典:中国国家統計局の発表を基に筆者作成。▲はマイナスを示す

(1)デフレスパイラルは引き続き中国経済の足かせに

 8月の消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)は7月に比べると上昇しています。世界的なエネルギー価格の上昇などが背景にあると思われますが、私が現地で感じたのは、レストランやスーパーマーケットなどを含め、価格が相当抑えられていることです。

 ある夜、それなりの四川料理レストランで、三人でお酒を少々口にしながら、回鍋肉や水煮魚など定番料理を5種類ほど頼み、おなかいっぱい食べましたが、合計金額は250元(約5,000円)でした。

 特に、自動車と住宅を巡る価格の低下は改めて顕著でした。中国の国内新車販売における新エネルギー車(NEV:EVやPHEVなど)の割合は、2026年8月時点で約66%に達し、新車の3台に2台はNEVとなりました。

 そんな中、今回現地でお世話になった運転手(50代、男性)は、ボルボのガソリン車を愛用していたのですが、「5年前に買ったときは30万元(約600万円)だったが、今では18万元(約360万円)で買えてしまう」と漏らし、大損をしたと嘆いていました。BYDを含めたEVでも、近年、価格が大幅に下がるという現象は広範に起きていると実感しました。

 モノが安く買えることの恩恵を受ける人々がいることも事実ですが、物価下落を引き金に、企業収益が減り、個人所得が下がれば、個人消費にも影響し、経済がデフレスパイラルという悪循環に陥るリスクは引き続き顕在化していくと思われます。

(2)不動産不況を巡る人々の複雑な心理と困惑

 デフレスパイラルとも大いに関係しますが、不動産不況がますます深刻化しています。上記の図表にあるように、1~8月、不動産開発投資は前年同期比で19.9%減、減少率は統計をさかのぼれる1995年以降で最大でした。新築住宅の販売面積も13%減となり、減少率は1〜7月の12.7%から拡大しています。

 そんな中、一般市民たちは住宅とどう向き合っているのか。

 私が今回現地の人々と会話した限り、心境は「複雑」で、そこには困惑感も漂っていました。まず、既に持ち家を(複数)保持している人々からすれば、都市部を含めて、住宅価格があからさまに低下する中(数%~数十%まで)、資産価値が減ってしまった、これから回復する局面も見込めないという観点から嘆いていました。

 一方、これから住宅を購入しようとしている人々からすれば、「バブルは崩壊していない。価格はまだまだ下がる」という「希望的観測」もあり、買い渋っている感もありました。

 中国の人々にとって、不動産、住宅というのは単なる「住む家」でも「資産」ではなく、婚姻、メンツなどにも関わる「処世術」の側面が強くあります。その意味で、不動産は引き続き中国経済や国民にとってのテーマであり続けるのは必至でしょう。

 ただ、資産価値の低下、買い渋りを含め、この状況がダラダラ続くのは中国経済にとっては不安要素といえるのは間違いありません。広い視点から「中国人民と不動産」をモニタリングしていく必要があると改めて実感した次第です。