先週の150円割れを目指す円高から一転。利上げペース加速への注目は続く
ドル円は、ベッセント財務長官発言(※1)の裏付けを思わせるような2日の日本銀行の高田創審議委員の予想以上のタカ派発言(※2)によって、あっさり155円を割れ、8日には152円台後半まで円高の動きとなりました。
(※1)「過度な円安対処のため日本は断固とした市場・金融政策上の措置を講じることを強く支持する」
(※2)「連続利上げの可能性や0.25%以上の利上げ幅など『機動的に対応していく必要がある』」
ドル円の円安への反発の動きが鈍かったため、この地合いがこのまま続けば、年初来の円高値である1月の152.10円近辺を更新し、150円割れが視野に入るような動きでした。しかし、先週11日の米8月消費者物価指数(CPI)を受けて円高は一服となりました。
米8月CPIは前年比+3.4%とほぼ予想通りだったため、発表後154円台半ばの円安になったものの、その後は伸び悩み、153円台前半へ円高となりました。しかし、コアCPIの前月比が+0.3%と予想(0.2%)を上回ったことから、9月利上げ期待が高まり、低下していた米金利も上昇し、153円台後半の円安に戻しました。
米金利の上昇の割には、ドル円は頭の重たい動きでした。しかし、サウジアラビアの原油パイプラインが攻撃を受けて稼働停止との報道で原油が急騰しインフレ懸念が高まる中、米10年債利回りが一時大台の5%を付ける展開に。ドル円も一時155.00円の円安を付けました。その後は伸び悩み、154円割れに反落する場面もありましたが155円前後で推移しています。
原油上昇でインフレ懸念が強まり、年内複数回の利上げ観測が高まったことも米長期金利を押し上げている原因のようです。米長期金利の上昇は日本の金利にも影響し、新発10年債利回りは、15日に3.035%と30年ぶりの高水準で終えました。
先週は150円を目指す円高の勢いがありました。米8月雇用統計が予想を上回ってもドル円の円安への動きは抑制されていました。ところが、米8月コアCPIの前月比が予想を上回ったことや、サウジアラビアのパイプラインが稼働停止となったことから原油が一段高となり、インフレ懸念が強まり、米長期金利が上昇し、ドル高地合いが強まりました。
トランプ大統領が9日の共和党大会で、中間選挙に勝てば国民の成人全員に5,000ドル(約77万円、総額は約1.3兆ドル〈約200兆円〉規模)を給付すると述べ、財政赤字拡大懸念から米長期金利の上昇を後押ししたようです。
米連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げへの警戒はあるものの、日銀の利上げとその後の利上げペース加速への警戒もあるため、ドル円も155円を超えてどんどん円安が進むような動きはためらっているようです。
米連邦準備制度理事会(FRB)の9月利上げは9割を超える確率となっており、市場は利上げをほぼ織り込んでいます。12月利上げも5割の確率となっており、市場は年内追加利上げがあるかどうかに注目しています。
ウォーシュFRB議長は8月のジャクソンホール会議で「やるべき仕事がある」と明言したように、直近のCPIが3%を超えており、足元の原油が100ドルを超え、米10年債利回りが5%を超えるような動きの中、追加利上げの姿勢を貫けるのかどうか市場は注目しています。
11月に中間選挙を控えているため、トランプ大統領の意向を忖度(そんたく)し、年内追加利上げの可能性を示さず慎重姿勢に回れば、市場は失望し、トリプル安になる可能性もあるため警戒したいと思います。
日米金融会合後のドル円レンジの行方。警戒すべき隠れた円高材料
ウォーシュFRB議長が追加利上げを示唆すれば、円安に弾みがつきますが、翌日から日銀会合(17~18日)が始まるため、日銀の結果を見極めるまでは円安も抑制的な動きになることが予想されます。日銀の9月利上げもほぼ織り込まれているため、市場は今後の利上げペースを注目しています。
今回の利上げによって、これまでの半年に1回から3カ月に1回と早めたこの利上げペースを続けるような姿勢を示すのかどうか注目です。慎重姿勢に終始し、利上げペースを早める姿勢が伝わらなければ、失望感から円安に動くことが予想されます。
また、審議委員の投票行動も市場に影響を与える可能性があります。高田審議委員は0.50%の大幅利上げを主張して0.25%の利上げに反対するかもしれませんが、利上げペースの加速との思惑から円高要因になる可能性があります。
たとえ利上げ決定でも他の審議委員の中の反対数が多ければ、利上げペースは加速しないのではないかとの思惑から円安要因になるかもしれません。
日米とも9月に利上げとなれば、金利差は変わらないことから、追加利上げの姿勢の強弱によって円は振らされそうです。
ただ、円の材料として留意する点があります。ベッセント財務長官が、「胴元である」から負けないと豪語し、「私には情報の非対称性がある」と述べていたことです。「情報の非対称性」とは、「異なる経済主体の間で持っている情報の量や質に差がある状態」のことです。
ベッセント財務長官は日銀の金融政策についての情報を持っているという見方もありますが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のポートフォリオの変更に関する情報かもしれないとの見方もあります。
この見方を後押ししたのは、GPIFが8月31日に、経営委員会を8月21日に開催したことを公表したことです。8月としては異例の開催で、3月の経営委員会では「見直しの検討は必要ない」と判断したばかりであったので、GPIFが資産構成を見直す検討を始めたのではないかとの観測が強まりました。
現状の基準で許容されている範囲内で資産配分比率を変更すれば、約30兆円が外貨資産から円資産に向かう(円高要因)可能性があるとの見方です。この観測がくすぶり続くことも予想され、日銀会合が終わってもドル円の頭を重たくする可能性があるかもしれません。
一方で、トランプ大統領は、イランとの紛争が11月の中間選挙までには終わらないとの見方になってきているようです。もし、そうだとすると紛争の長期化は原油を高止まりさせ、インフレ懸念は続くため、ドル円の150円割れは時間がかかるかもしれません。
今週の日米金融会合が終わった後に、160円以下になったドル円が155~160円のレンジになるのか、それとも150~155円のレンジになるのかどうか注目したいと思います。