相続した株を売るつもりなら、できるだけ早期に名義変更を

 先日のコラムでもお伝えしましたが、上場企業の株を相続した場合、その株は通常、亡くなった人の名義で証券会社に「保護預かり」という形で保管されています(株だけでなく、投資信託や債券も同じです)。

 亡くなった人名義の株を売却したり、相続人自身の所有にしたりする場合には、原則として「名義変更」の手続きが必要となります。亡くなった人の名義のままで株を売却することはできません。

 もし相続した株をそのまま保有するつもりであれば、特段の問題は生じないのですが、株を売却するつもりであれば、できるだけ早く名義変更の手続きを済ませることを推奨します。

 なぜなら、相続した株を名義変更の手続きを経て売却するまでの間に、株価が大きく変動してしまえば、相続税の納税資金ねん出の計画も狂ってしまうかもしれないからです。

株価が大きく下落するとどうなるか?

 例えば親から相続した株が1万株、相続時の株価は1,000円とします。時価で計算すると1,000万円です。

 このうち、相続税の納税資金として400万円が必要なため、1万株のうち4,000株を売却するつもりでした(売却により生じる譲渡所得税はいったん割愛します)。

 ところが、自身の証券口座を開設しておらず、開設手続きや名義変更に時間がかかり、自身の口座に株を移管して売却できるようになったのは、相続が生じてから3カ月後でした。

 その間、マーケットが大きく下落し、相続した株の株価も1,000円だったものが500円に下がってしまいました。

 その結果、400万円の資金をねん出するために必要な売却株数が、当初もくろんでいた4,000株では足りず、8,000株に増えてしまう、ということになってしまうのです。

 仮に、リーマンショック級の下落が生じて、株価が300円まで下がってしまったとすると、相続した全ての株を売却しても、必要な資金を確保できないことになってしまいます。

名義変更まで半年以上かかるケースもある!

 もし、相続人が複数いる場合、遺産分割協議書(誰がどの財産を相続するかを相続人の間で話し合って決めた結果を記した書面)を作成する必要があります。

 ただ、このためには亡くなった方の財産の洗い出しや、相続税評価額の計算、そして相続人間の意見調整など、さまざまなプロセスが必要となります。筆者も税理士として相続の業務に関わることが多いのですが、この遺産分割協議書がまとまるまで、相続が発生してから半年以上かかることはザラにあります。

 証券会社に預けてある、亡くなった方名義の株だけを、他の財産に先んじて遺産分割協議で行き先を決めることもできますが、それが難しいケースもあるでしょう。

 さらには、相続人間の仲が良くなかったりすると、意見がまったくまとまらず、結局は調停手続きに移行してしまうこともあります。こうなると、相続人のうち誰がどの株を相続するかが決まるまで、年単位の時間がかかってしまいます。

 株式投資をしている方ならお分かりの通り、1年、2年経過すると個別銘柄の株価が3分の1とか5分の1まで下落してしまうことも決して珍しくありません。

相続が起こる前から準備をしておこう

 このように、株を相続する場合は、名義変更の手続きをして相続人自身が売却できるようになるまで、かなりの時間を要してしまうことが多く、その間の株価の変動により、思わぬ影響を受けてしまいかねません。

 そこで、できれば生前に、相続がいざ起こったときにスムーズに相続人に株を相続させられるような準備をしておくことをお勧めします。

 一つは遺言書の準備です。遺言書とは、自分が亡くなった後、自分の財産(相続財産)を誰に渡すかをあらかじめ決めておくことができる文書です。

 遺言書が準備されていて、さらに遺言書中に遺言執行者(遺言に書かれた内容を踏まえ、各種手続きを実行する権限を持つ人)を決めておけば、遺言執行者が証券会社へ株の名義変更の手続きを進めてくれるため、相続が実際に生じてから名義変更までの期間をかなり短縮できます。

 もう一つは、被相続人が株を保有している証券会社に、あらかじめ相続人となる人が証券口座を開いておくことです。

 もし相続が発生してから相続人が故人と同じ証券会社の口座を開設しようとすると、それだけで日数のロスが生じてしまい、株価変動のリスクにさらされることになります。

 ですから被相続人となる人の生前に、相続人となる人も、同じ証券会社に口座を開設しておくことをお勧めします。

 相続による名義変更が完了するまでの間に株価が上がっていれば問題ありませんが、株価が大きく下がってしまうリスクをできるだけ軽減するために、事前の準備をしっかりしておきましょう。