原油相場は「戦時下のレンジ」

 図1は、2026年のNY原油先物価格の推移です。2月28日に中東情勢が悪化したことをきっかけに、原油相場を取り巻く環境は変化しました。

図1:NY原油先物価格(2026年 中心限月 日次平均 2026年9月11日まで) 単位:ドル/バレル

図1:NY原油先物価格(2026年 中心限月 日次平均 2026年9月11日まで) 単位:ドル/バレル
出所:Investing.comのデータを基に筆者作成

 それまで60ドル前後で推移していた価格は上昇し、その後はおおむね70~110ドルの範囲で推移しています。筆者はこの価格帯を「戦時下のレンジ」と呼んでいます。足元では7月につけた70ドル近辺を底に反発し、9月には100ドル近辺まで上昇しました。

 原油価格を押し上げる材料には、米国の利上げ確率低下、中東情勢の再悪化、米国原油在庫の減少、ホルムズ海峡の航行コスト増加観測、OPECプラスの協調減産の継続観測などがあります。

 一方、世界経済悪化による需要減少、中東情勢の鎮静化期待、米国の利上げ確率上昇などは下落要因です。こうした上下両方の圧力が同時にかかっているため、一方向に動くのではなく、一定のレンジの中で上下する展開になっています。

図2:NY原油先物価格(中心限月 月間平均 2026年9月は11日まで) 単位:ドル/バレル

図2:NY原油先物価格(中心限月 月間平均 2026年9月は11日まで) 単位:ドル/バレル
出所:Investing.comのデータを基に筆者作成

 図2のとおり、2月28日を境に原油相場の水準感が変わったといえます。2000年以降の長期推移を見ると、70~110ドルは高い部類に入ります。中東情勢や供給環境が劇的に改善しない限り、「戦時下のレンジ」が続く可能性があると、筆者は考えています。

「第二のホルムズ海峡」の現実

 中東産原油の供給を考える際、ホルムズ海峡とともに確認しておきたい海上交通の要衝があります。図3で示した、アラビア半島の西側に位置する紅海とインド洋に面するアデン湾を結ぶバブ・エル・マンデブ海峡です。同海峡は「第二のホルムズ海峡」と報じられることがあります。

図3:二つの重要航路、サウジアラビア、イスラム武装組織 など

図3:二つの重要航路、サウジアラビア、イスラム武装組織 など
出所:各種資料およびmap chartを用いて筆者作成

 ホルムズ海峡については、イランと米国が実質的に封鎖したり、もう一つの当事国であるオマーンが航行のルール策定に関わったりするなど、事実上の封鎖が続いています。

 同時に、バブ・エル・マンデブ海峡周辺では、イスラエルと対立し、イランから支援を受けているとされるイエメンのイスラム武装組織「フーシ派」による特定の国に関わる船舶を対象とした妨害活動が目立ちはじめています。アラビア半島の東と西の双方で、原油輸送をめぐるリスクが大きくなっています。

 この構図に大きな影響を受けている国があります。世界有数の産油国であるサウジアラビアです。同国は主にアラビア半島の東側と西側から原油を輸出できますが、東側のホルムズ海峡と西側のバブ・エル・マンデブ海峡の双方でリスクが生じているため、一方がもう一方の代替ルートにならない可能性が高まっています。

 図4が示す、両海峡を通過したタンカー数を見ると、2023年10月のハマスによるイスラエル奇襲以降、バブ・エル・マンデブ海峡を通過したタンカーの数が激減していることが分かります。

 そして2026年2月末に始まったイラン戦争をきっかけに、ホルムズ海峡を通過したタンカーの数が記録的な減少に見舞われていることも分かります。

図4:主要な海上の要衝を通過したタンカーの数(21日間平均 2026年9月6日まで) 単位:隻

図4:主要な海上の要衝を通過したタンカーの数(21日間平均 26年9月6日まで) 単位:隻
出所:Port Watchのデータより筆者作成

 二つの要衝で同時に原油輸送をめぐるリスクが発生していることは、中東産原油の輸送を難しくしたり、航行コストを増加させたりする要因になり得ます。

サウジ減産で供給余力が縮小

 輸送面だけでなく、産油国の供給にも大変な変化が生じています。図5が示す通り、サウジアラビアの原油生産量はイラン戦争が勃発して以降、大きく減少しています。世界屈指の産油国である同国の原油生産量の減少は、世界の原油市場が供給減少リスクに対応するための余力に関わる大きな問題です。

図5:サウジアラビアの原油生産量 単位:千バレル/日量

図5:サウジアラビアの原油生産量 単位:千バレル/日量
出所:米エネルギー情報局(EIA)のデータより筆者作成

 とある産油国で供給障害が発生した場合、別の産油国が増産をしたり、在庫を取り崩したりして、不足分を補う動きが加速します。しかし現在は、イラン戦争の勃発を機に、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡という、大変に重要な二つの航路をめぐるリスクが大きくなっています。

 こうした状況において、「輸出できないのであれば生産しない・できない」という動きがサウジアラビアの原油生産量の減少傾向を加速させていると考えられます。このことは、両海峡をめぐる状況が同戦争勃発前の状態に戻るまで続く可能性があることを示唆しているといえます。