大人になる前に身につけてほしい「期待値」の感覚
トウシル:前編では、会社の先輩や同僚に期待値の話をしても理解してもらえなかった経験が、自分の強みに気付くきっかけになったと伺いました。その経験は、娘さんへの教育にもつながっているんでしょうか?
某さん:かなり大きいですね。期待値って別に難しい話ではないと思うんですけど、普段から触れていないと感覚として理解しにくいんだと思います。
だから自分に子どもができたら、小さい頃から期待値に触れさせたいとずっと思っていました。大人になってから突然教えるより、子どもの頃から当たり前にしておく方がいいと思ったんです。
トウシル:いきなり「期待値とは……」と授業を始めたわけではないですよね(笑)。
某さん:もちろんです(笑)。ボードゲームやマージャンのような遊びを通じて、自然に触れさせることから始めました。
例えば人生ゲームでも、「この数字が出れば得をするけど、出なかったら損するよね。じゃあ結局得か損かどっちだと思う?」みたいに話しています。その場ですぐ、正確に計算できなくてもいいんですよ。「どうなれば得なのか」について、判断する局面で考える癖がつくだけでも違うと思っています。
トウシル:お金の勉強というより、結果がどうなるかを考える練習なんですね。
某さん:そうですね。知識として詰め込むだけではなく、実際に体験した方が身につきやすいと思っています。いろいろな経験の中で、自然と損得や期待値を考えられるようになってほしいですね。
小学1年生から始めた「パパ証券」とサイコロ1,000回
トウシル:その実践の一つが、著書『5歳から始める金融・投資の勉強法』にも登場する「パパ証券」ですね。
某さん:はい。親子で行う、いわゆる「バーチャル証券」のようなものです。僕がExcel上につくった仮想の証券会社で、高配当株を買ったことにして運用成績を記録しています。
【「パパ証券」の主なルール】
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トウシル:配当が出れば、お小遣いが増えるんですね。
某さん:そうなんです。大事なのは株を持たせることより、長い期間ずっと値動きを見てもらうことなんですよ。上がったり下がったりしながら資産がどう変化するのかを、経験として覚えてほしいと思っています。
トウシル:パパ証券に加えて、夏休みの課題も金融教育につなげたそうですね。どんなことをやったんですか?
某さん:小学2年生の夏休みに、2個のサイコロを1,000回振りました。出た目の合計を、毎回全て記録していくんです。
2個のサイコロを振った場合、確率上は合計=7が最も出やすくなります。しかし短い範囲だけを見ると、7が何度も続くこともあれば、しばらく出ないこともあるんですよ。
それでも回数を重ねていけば、少しずつ本来の確率に近づいていきます。短期では偏りが起こっても、長く続ければ収束していくことを体験してほしかったんです。
トウシル:パチンコで10万円負けても動じなかった某さんの「長い目で見る」感覚にも通じますね。
某さん:はい。理屈だけで確率を教えるより、自分で1,000回振って確かめた方が実感できると思います。
小学5年生で挑戦した会社四季報の通読
トウシル:学年が上がってからは、どんな課題に取り組んでもらったんですか?
某さん:小学5年生の夏休みに、『会社四季報』を最初から最後まで読んでもらいました。パパ証券を始めたころから、「4年生か5年生になったら自分で銘柄を探してもらうからね」と言っていたんです。ちょうど夏休みに自由研究があったので、「四季報を読んでみたら?」と提案しました。やり方は僕が教えると言ったら、本人も「やる」と言ってくれましたね。
トウシル:大人でも四季報を開いた瞬間に閉じる人がいますよ(笑)。小学生に全部読めるものなんでしょうか?
某さん:見るところを絞れば、それほど難しくないんですよ。娘には基本的に三つの条件だけを見てもらいました。
一つ目は配当利回りが2.5%以上あること
二つ目は売上高と営業利益の推移を見ること
三つ目は配当性向が50%以下であること
です。
トウシル:あの膨大な情報量の四季報から、見る場所を三つまで削ったんですね。
某さん:情報が多いから難しく見えるだけなんですよ。投資家によって見る場所も違うので、いろいろな話を聞けば聞くほど迷子になることもあります。
だから僕自身が必要なところを削っていった結果、この三つが残りました。小学生でも使えるぐらいまで簡単にしたかったんです。
トウシル:実際に娘さんが銘柄を選ぶと、どんな結果になりました?
某さん:意外とちゃんとした会社を選べていましたね。少なくとも「これは持たない方がいい」と思う銘柄は、一つも含まれていませんでした。
さらに、どの銘柄が伸びそうか自分なりに格付けもしてもらいました。ただ、この格付けは僕から見ると少し甘かったんです。
僕が普段銘柄を見る時は、先ほどの三つの条件に加えて、企業の特色や直近の決算内容、株価が高いか安いかなども確認しています。娘にはそこまでの話をしていなかったことも、格付けが甘くなった理由の一つだと思います。
それでも三つの条件を見るだけで、小学生でも優良な銘柄を選べると分かったのは大きな収穫でした。最初から全てを完璧にできなくても、まずはそこそこ良い銘柄を選ぶことができていればそれでいいんです。
トウシル:とはいえ、四季報を最初から最後まで見るだけでも大仕事ですよ。
某さん:なので、1日に見る量を決めていました。9,000番台まである銘柄を、「1日500番ずつ進めよう」という感じで、ゴールが見えるようにしたんです。
夏休みの宿題なので、どうせ何か一つはやらなきゃいけません。それなら僕も手伝える四季報をやろうという感じで、最後まで完走できました。