10円玉の内訳、95%は銅
図1のとおり、私たちが使っている10円玉のデザインは、1959(昭和34)年から続いています。表面には平等院鳳凰堂と唐草、裏面には常磐木(ときわぎ)が描かれています。また、直径は23.5ミリメートル、重さは4.5グラムです。いずれも、通貨の単位および貨幣の発行などに関する法律施行令で定められています。
図1:10円玉について
同法令で定められているとおり、素材は青銅です。銅を主成分として、亜鉛とスズを混ぜた合金です。その割合は銅95%、亜鉛3~4%、スズ1~2%です。仮に亜鉛を3%、スズを2%として計算すると、1個の10円玉に銅が4.275グラム、亜鉛が0.135グラム、スズが0.090グラム含まれることになります。
10円玉は、日本国内で10円の価値を持つ「貨幣」です。スーパーやコンビニエンスストアなどで支払いに使えば、その価値はいつでも10円です。
しかし、視点を変えて、10円玉を「ほぼ銅、残りの少しが亜鉛とスズ」という金属の塊として見ると、別の顔が見えてきます。
2026年に10円玉が10円を超えた
10円玉1個の「金属としての価値」を試算しました。図2は、1974年以降の10円玉に含まれる各種金属の国際相場とドル円相場および、法令で定められた品位・量目(銅4.275グラム、亜鉛0.135グラム、スズ0.090グラムと仮定)に基づき試算した結果です。
図2:10円玉を構成する金属の価値(筆者試算)単位:円/個
1970年代半ばから2000年代前半まで、10円玉1個を構成する金属の価値は、おおむね1~3円程度で推移していました。新興国が台頭した2000年代前半から同半ばの間に発生したコモディティ(国際商品)相場の全面高時に4円近辺まで上昇したものの、額面である10円に達することはありませんでした。
その後は、リーマンショック(2008年)直後の安値を割れることなく小幅に上下しました。そして2020年代に入ると様子が一変しました。10円玉1個を構成する金属の価値は4円台、5円台、6円台へと切り上がり、2026年にはついに10円を超えました。筆者の試算では、足元の価値は10円台半ばに達しています。
もちろん、これは「10円玉を溶かせば利益を得られる」という話ではありません。貨幣損傷等取締法で定められているとおり、貨幣を損傷しまたは鋳つぶしたり、それらを目的として集めたりすることは法律で禁じられています(罰則あり)。
また、この試算で得られた価値は、10円玉1個を構成する金属の価値を各種金属の国際相場とドル円相場で計算した理論上の価値です。製造費や流通コストなどを含めた10円玉そのものの原価ではないことにも、留意が必要です。
とはいえ、「10円玉1個を構成する金属の価値が10円を超えた」という事象は一見に値します。世界で起きている大きな変化が、私たちの手のひらにある身近な硬貨にまで到達していることを、明確に示すためです。
AI・EVブームや円安などが要因
図3は、10円玉を構成する金属の国際相場とドル円相場の推移を示しています。
2010年を100として指数化すると、銅、亜鉛、スズの国際相場は、足元ではいずれも100を大きく上回っています。特にスズの上昇が目立っています。また、近年はドル円相場が大きく円安方向に振れています。
各種金属の国際相場の大幅上昇と急激な円安が重なっていることが、円に換算した10円玉の金属としての価値を、大きく押し上げていると言えます。
図3:10円玉を構成する各種金属の国際相場とドル円相場 2010年を100として指数化
金属相場を押し上げている「需要面」のテーマとして、人工知能(AI)や電気自動車(EV)などの世界的なブームが挙げられます。データセンター、送電網、半導体など、電動化が進む分野が拡大し、銅をはじめとする各種金属の需要が増える思惑が強まっています。
また、リーマンショック後に目立っている、金融緩和策を通じた中央銀行による資金供給の拡大が、投機資金の流出入を促し、ひいては各種金属相場を下支えしているとみられます。
同時に、「供給面」にも注目します。2010年ごろ以降、世界的な民主主義の後退、自由度の低下、分断の深化、それらをきっかけとした資源や通貨を武器として用いる動きが目立っています。V-Dem研究所(スウェーデン)が試算・公表する自由民主主義指数の世界平均は、2010年ごろから目立った低下傾向を示しています。
こうした供給懸念を大きくする動きは、各種金属相場を下支えする一因になっていると考えられます。
需要増加観測、供給減少懸念、円安という、複数の要因が同時に作用した結果が、「10円が10円を超える」という事象となり、私たちの目の前に現れていると言えます。