一人暮らしの高齢母に起きた悲劇
「もっとまじめに、施設について調べればよかったです……」
筆者のもとを訪れたメグミさん(54歳・仮名)は悔しそうに話しました。
メグミさんは夫(56歳)と大学生の長男、高校生の次男の4人家族です。夫婦の世帯年収は約850万円ありますが、住宅ローンが約1,400万円残っており、教育費の負担も重い時期です。
金融資産は約800万円と、子どもの教育費や夫婦の老後資金を考えれば親の介護費用まで負担できる余裕はありません。
そんなメグミさんの母親・カズコさん(80歳・仮名)は、夫を亡くしてから郊外の持ち家で一人暮らしを続けていました。年金収入は月13万3,000円、預貯金は夫が遺してくれた約1,200万円です。カズコさんは一人暮らしながら近所付き合いもあり、金銭的な不安もなく楽しく暮らしていたといいます。
しかし、ある日カズコさんは、自宅で脳梗塞を発症。右半身にまひが残り、入院中に「要介護2」と認定されました。
退院後、これまでのような生活を送ることは難しく、食事や入浴、排せつなどの見守りや、介助が必要に。しかし、仕事と子育てを抱えるメグミさんに、カズコさんを介護する余裕はありません。
病院からは退院後の生活場所を早く決めるよう求められ、メグミさんは慌てて老人ホームを探し始めました。そこで見つけたのが自宅から車で15分ほどの場所にある住宅型有料老人ホームです。
施設のパンフレットに並ぶ魅力的なワード
パンフレットには次のように書かれていました。
| ・月額利用料14万8,000円 ・入居一時金480万円 ・介護が必要な方も安心して暮らせます ・認知症の方もご相談ください |
「母の年金は月13万3,000円。毎月1万5,000円程度の不足であれば、貯蓄もあるし問題ない」
メグミさんはそう考え、ほかの施設と十分に比較しないまま契約しました。
メグミさんの誤算
「これで安心」
そう考えていたメグミさんでしたが、入居後に届いた最初の請求書を見て絶句。請求額は「23万1,000円」と、パンフレットに記載されていた14万8,000円を大きく上回っていたのです。
「なにかの間違いでは……」
請求額に納得がいかないメグミさんは、すぐに施設に問い合わせました。すると担当者いわく、パンフレットに書かれていた月額利用料に含まれていたのは家賃、管理費、食費だけだといいます。
介護保険サービスの自己負担や医療費、薬代、紙おむつ代、洗濯代、居室清掃、通院の付き添いなどは別料金だったのです。
カズコさんの実際の支出は次のようになりました。
| 項目 | 月額 | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| 家賃・管理費・食費 | 14万8,000円 | ||||
| 介護保険サービスの自己負担 | 約2万円 | ||||
| 医療費・薬代 | 約1万8,000円 | ||||
| 通院付き添い | 約1万円 | ||||
| 紙おむつ・日用品など | 約1万4,000円 | ||||
| 洗濯・居室清掃 | 約1万1,000円 | ||||
| 電気・水道代 | 約6,000円 | ||||
| 理美容代 | 約4,000円 | ||||
| 月額支出合計 | 約23万1,000円 | ||||
| ※出典:サービスにかかる利用料 | 介護保険の解説 | 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」 | |||||
年金収入は月13万3,000円なので、これが続くと赤字額は毎月約9万8,000円、年間では約117万6,000円となります。メグミさんが想定していた年間不足額は18万円でしたが、実際には100万円以上になりました。
このままでは10年ほどでカズコさんの預貯金が底を尽いてしまうため、郊外にあった実家を売却せざるを得ません。
入居から10カ月後、認知症の症状が進行して転居要請
思い出の実家を売る決意を固めても、すぐに売れるとは限りません。
「どうしよう……」
今後の資金繰りについて頭を悩ませていたメグミさんに、さらなる悲劇が襲いかかります。
というのも、施設に入居して約半年ほど経ったカズコさんに、認知機能の低下が見られるようになったのです。具体的には、他の入居者の部屋に入ろうとしたり、帰宅しようとして玄関へ向かい、スタッフの制止を振り切ろうとしたり、職員が気づかない間に敷地外へ出てしまい、近隣で発見されたりと、施設の職員を困らせるようになってしまいます。
そして入居から10カ月後、施設長からメグミさんに連絡が入りました。
「申し訳ありませんが、お母様の介護が当施設では難しくなっています。今後の生活場所について相談させてください」