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【潮流】「死んだ」はずのSaaSが、静かに再評価されるワケ

2026/8/8 7:30

 今年初め、AIエージェントの急速な台頭により「SaaSは死んだ(SaaS is dead)」といった悲観的な声が聞かれるようになりました。しかし、過度な悲観論は収まり、一部の有力SaaSについては再評価の流れも見られるようになりました。国内SaaSの展望について、SaaSアナリストの早船明夫氏が解き明かします。

目次
  1. 業績堅調も、評価は低迷
  2. 「SaaSの死」の本質
  3. 「次に伸びるSaaS」の共通点
  4. SaaSの進化系「BPaaS」
  5. 有望SaaSを見抜く「Rule of 40」

業績堅調も、評価は低迷

早船明夫さんプロフィール

早船明夫さん
株式会社ユーザベースでSPEEDA事業を推進後、独立。SaaS企業・スタートアップ分析note「Next SaaS Media Primary」を運営する株式会社クラフトデータを創業する。国内VCファーストライト・キャピタルの外部パートナー/チーフアナリストも務める。日経新聞、NewsPicksやBusiness Insider Japanなどでも執筆多数

トウシル編集部(以下、トウシル):国内SaaS企業の現状をどう見ていますか?

早船明夫さん(以下、早船):ファンダメンタルズ(業績)は決して悪くありません。特にトップ層に関しては、堅実な成長を続けている会社が多数存在します。

 ただし、株価や時価総額という視点で見ると、市場の評価は芳しくありません。2020年から2021年にSaaS企業への期待がピークにあった時期、国内SaaSの株価売上高倍率(PSR)が平均で16〜20倍もありました。

 しかし、現在は国内SaaSのPSRが平均で2〜3倍程度まで調整されています。これは過去10年間の中でも極めて低い水準です。

 SaaSは「死んだ」のではなく、「過度な期待が剥落し、実力値で評価されるフェーズ」に入ったのだと私は考えています。

大手国内SaaSのPSRの変化(5年前との比較)

  時価総額
(億円)
売上高
(億円)
PSR
(2021年6月末)
PSR
(2026年6月末)
ラクス 3,136 597 23.9 5.3
マネーフォワード 2,236 554 21.9 4
Sansan 1,753 537 19.1 3.3
サイボウズ 1,126 421 6.8 2.7
freee(フリー) 1,121 419 54.1 2.7
出所:クラフトデータ
注:売上高は会社予想。データは6月末時点。PSRは時価総額÷売上高

「SaaSの死」の本質

トウシル:今年初めから「SaaSは死んだ」という悲観論が聞かれるようになり、各社の株価が大きく下落しました。その要因は何でしょうか?

早船:SaaSへの懸念が急速に広がったのは、「AIエージェントによるSaaSリプレイス懸念」が主因です。

 ChatGPTやClaudeなどの急速な進歩によって、「既存のSaaSが不要になるのではないか」という懸念を抱く投資家が増えました。確かに、技術的な進化スピードにはすさまじいものがあります。

 しかし、実務レベルで見たとき、日本の大企業や中堅・中小企業が明日から即座にAIエージェントに業務を全委託できるかといえば、そうではありません。国内SaaS企業において、解約率が急増したり、新規顧客がAIのせいで全く取れなくなったりという事態は、現時点ではほとんど見られません。

 日本の企業文化やITリテラシー、既存の基幹システムとの兼ね合いを考えると、システムが入れ替わるには5年、10年という長い時間が必要です。つまり、「SaaSが死ぬ」というよりは、「SaaSが次の進化を求められている」というのが正確な認識でしょう。

 足元では、パニックによる下げは落ち着きを取り戻しており、金融系クラウド企業のFinatext(フィナテキスト)ホールディングス(4419)のように、一時はリプレイス懸念で大きく売られた銘柄が、高値を更新しに来るような動きも見せています。ようやく冷静な判断が戻ってきた、というのが現状です。

SaaS大手の株価(年初来)
出所:クラフトデータ

「次に伸びるSaaS」の共通点

トウシル:今後、再評価されていくのはどのようなSaaSだと思われますか?

早船:大きく分けて、二つの軸で見ていくべきだと考えています。一つ目は、Sansan(4443)、ラクス(3923)、マネーフォワード(3994)、freee(フリー:4478)のような「圧倒的な地盤を持つトップランナー」です。

 こうしたトップランナー企業に共通するのは、獲得可能な最大市場規模(TAM)が大きいという点です。例えば、フリーやマネーフォワードは、数百万社をターゲットにできる会計領域で大きなシェアを持っており、特定のニッチ領域に特化した企業とはTAMの規模が大幅に異なります。

 こうしたトップランナー企業は、一度導入されると解約されにくい「スイッチングコストの高さ」を武器に、周辺領域へサービスを拡張し続けています。あわせて、「既存顧客の単価アップ」と「新規顧客の獲得」という両輪を回すことで、市場環境に左右されない安定した高成長を維持しているのです。

 一方で、伸び悩んでいる企業は、年間経常収益(ARR)の絶対額も低く、成長率も鈍化し、利益も出ていない。この差が、市場での評価にも如実に表れています。

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