非伝統的有事が金(ゴールド)上昇の核心

 図7は、自由民主主義指数を基にした、自由で民主的な度合いが高い国・地域(0.6以上)と低い国・地域(0.4以下)の数の推移を示しています。

図7:自由で民主的な度合いが高い国・地域と低い国・地域の数(自由民主主義指数ベース)

図7:自由で民主的な度合いが高い国・地域と低い国・地域の数(自由民主主義指数ベース)
出所:V-Dem研究所のデータを基に筆者作成

 第2次世界大戦後から冷戦終結にかけては、民主主義国の数が着実に増加し、民主主義の拡大が世界の大きな潮流となりました。しかし、その流れは2010年ごろを境に変化しています。民主主義国の数は伸びが止まり、足元では減少に転じています。

 一方で、民主主義の度合いが低い国は2020年代に入り再び増加し始め、2025年には102カ国となりました。世界は2010年ごろに、民主化が一方向に進む時代から、多様な政治体制が併存する時代へ移行したと考えられます。

 この変化は、単に政治上の出来事ではありません。経済や金融市場にも大きな影響を与えています。政治体制や価値観の違いが拡大すると、貿易政策や外交、安全保障政策は複雑化し、企業活動や資本移動の不確実性が高まります。

 また、近年では経済制裁や資源の武器利用、サプライチェーンの再編など、政治と経済がこれまで以上に密接に結び付く場面が増えています。このような構造変化は、一時的な景気循環とは異なる、長期的な世界経済の変化として捉える必要があります。

 図8は、こうした視点を金(ゴールド)価格の長期的な変動要因として整理したものです。短中期では、伝統的な有事の影響を受けた資金の逃避先需要、代替資産(株の代わり)、代替通貨(ドルの代わり)としての役割が、価格を動かすテーマになります。

 中長期では、宝飾需要や鉱山会社の供給動向、そして近年は特に存在感を高めている、中央銀行の買いが重要なテーマです。

 そして中央銀行の動向に大きな影響を及ぼし得るテーマが、さらに長い時間軸の、世界の分断や民主主義の後退、資源の武器利用、長期視点のインフレ、通貨への不確実性の増大といった「非伝統的な有事」です。

図8:ドル建て金(ゴールド)価格の変動イメージ

図8:ドル建て金(ゴールド)価格の変動イメージ
出所:筆者作成

 これらは従来の戦争や金融危機のように、短期間で終息する出来事ではありません。政治体制の違いを背景とした国家間の競争や経済安全保障に関わる動向は、数年から数十年にわたって続く可能性があります。

 そのため、市場参加者や中央銀行は、長期的な資産配分の一環として戦略的に金(ゴールド)の保有を見直す動きを強めています。近年の中央銀行による大規模な金(ゴールド)購入も、その延長線上であると考えられます。

 2026年サッカーワールドカップは、世界48カ国が一堂に会する祭典です。しかし、その参加国やスポンサー企業、開催国を詳しく見ていくと、多様な政治体制や価値観が共存する現在の世界が映し出されています。

 そして、その多様化は2010年ごろから加速した民主主義の後退や世界の分断と深く関わっているのです。金(ゴールド)の長期的な上昇基調を考える上では、景気や金利だけではなく、このような世界構造の変化を超長期的な視点で捉えることが重要です。

光と影は共存、世界の構造変化に留意

 図9は、1990年以降の金(ゴールド)価格と世界の自由民主主義指数(人口加重平均)の推移を重ねたものです。両者の相関係数はマイナス0.72となっており、自由民主主義指数の低下と、金(ゴールド)価格の上昇が、同時進行する傾向が確認できます。

 もちろん、図8で触れたとおり、短中期では、伝統的な有事の影響を受けた資金の逃避先需要、代替資産(株の代わり)、代替通貨(ドルの代わり)としての役割が、価格を動かすテーマになります。

 しかし、1990年代から30年以上にわたる長期的な視点で見ると、民主主義の後退や世界の分断が進む局面で、金(ゴールド)の存在感が高まってきたことは注目に値します。

図9:金(ゴールド)価格と自由民主主義指数の推移

図9:金(ゴールド)価格と自由民主主義指数の推移
出所:世界銀行およびV-Dem研究所のデータを基に筆者作成

 その背景には、世界経済を取り巻く環境の変化があります。民主主義が広がり、自由貿易が進展した時代には、経済合理性が重視され、企業や投資家は効率性を追求することができました。

 しかし近年は、経済安全保障や資源の武器利用、経済制裁、サプライチェーンの再編など、政治と経済を切り離して考えることが難しくなっています。こうした状況では、特定の国や通貨に依存しない中立的な資産として、金(ゴールド)の価値が改めて見直されていると考えられます。

 このことは、中央銀行が2010年から金(ゴールド)を買い越していること、そして図8で触れた中央銀行と非伝統的な有事が「土台」となり、金(ゴールド)相場を長期上昇に導いていることと符合します。

 図10は、S&P500種指数とニューヨーク金先物価格の長期推移です。1980年代から2000年代にかけては、株式と金(ゴールド)は逆方向に動く傾向が強く、相関係数はマイナス0.60でした。

 しかし2010年以降は状況が変わり、相関係数はプラス0.82へと大きく転換しています。株式市場が上昇する局面でも、金(ゴールド)が同時に上昇する場面が目立つようになりました。これは、金(ゴールド)が単なる「有事の資産」ではなく、世界構造の変化を反映する長期資産へと位置付けが変わったことを明確に示していると考えられます。

図10:S&P500種指数、金(ゴールド)の価格推移

図10:S&P500種指数、金(ゴールド)の価格推移
出所:ブルームバーグのデータを基に筆者作成

 本レポートでは、2026年サッカーワールドカップを切り口として、開催国、参加国、スポンサー企業、そして世界の民主主義の変化を確認してきました。

 ワールドカップは世界中の人々を熱狂させるスポーツイベントですが、その参加国やスポンサーの構成を詳しく見ると、現在の国際社会の姿が色濃く映し出されています。価値観や政治体制、経済圏が多様化し、世界が新たな均衡を模索していることが分かります。

 このような変化は、一時的な出来事ではなく、今後も続く長期的な潮流である可能性があります。その中で、金(ゴールド)は短期的には有事や金融政策の影響を受けながらも、長期的には中央銀行による保有拡大や通貨への信認低下、そして世界の分断深化といった構造変化(土台)に支えられる展開が予想されます。

 2026年ワールドカップは、世界の多様性と変化を象徴する大会です。そして、その大会が映し出す世界の姿は、金(ゴールド)の長期的な投資環境を考える上でも、多くの示唆を与えてくれると、筆者は考えています。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

純金積立

純金積立・スポット購入

投資信託

三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
楽天・ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし/あり)
楽天・プラチナ・ファンド(為替ヘッジなし)

中期:関連ETF

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
GX ゴールド(425A)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)

短期:商品先物

国内商品先物
海外商品先物

短期:CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム