今後5年間のプラチナ市場の予測の更新において(6月11日付『プラチナ投資のエッセンス』)、我々は、プラチナのファンダメンタルズは構造的に回復力を保持しているものの、ネガティブなセンチメントをもたらす逆風もあることを指摘した。紛れもなくタカ派的なケビン・ウォーシュ新FRB議長の発言は、貴金属市場全体には重圧となっている。しかし、米国とイランの間で停戦の覚書が交わされ、ホルムズ海峡が再開されたことをきっかけに、2026年終わりごろには投資家は再び貴金属市場に戻ってくる可能性がある。

 貴金属は1月に過去最高価格に達したが、イラン戦争のおかげで全ての貴金属は下落(図2)。ホルムズ海峡の封鎖に伴うエネルギー価格の上昇がインフレ圧力を強め(図3)、金利上昇の予測が高まった。米国2年債利回りは2026年3月から約0.8%上がって(図4)利息を生まない資産の需要は圧迫され、高い利回りがコモディティ価格にはネガティブなドル高を支える。

 ウォーシュ議長は就任後初めてとなるFOMC会議後の会見でインフレは重荷であるとして、目標の2%を目指さない理由はないとの見方を示したことで、米国の金利上昇予測はさらに強まった(5月のCPIは前年同月比+4.2%)。このような状況の中でプラチナ価格は年初から17%下落し、ETF保有高も15.7トン減、取引所在庫も7.5トン流出した。

 2026年第1四半期の南アフリカの鉱山供給が好調だったことでプラチナの供給が回復し、7月の1ヶ月リースレートは約5%に落ち着いた(2025年第4四半期は約15%、図6)。

図1.ETF保有高は年初から14%減った

図1.ETF保有高は年初から14%減った
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図2.貴金属価格は1月以降下落している

図2.貴金属価格は1月以降下落している
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

 リースレートはピーク時よりは下がっているが5%は歴史的に見てもまだ高く(図6)、60%も減った地上在庫とともに3年間続いた大幅な供給不足の影響が残る。年初からETFの売却が続いたことで市場の逼迫感は多少緩和しているものの解消には至っていない。実際、プラチナ価格が2026年後半から回復するのではと思わせる要因もいくつかある。

 例えば、ETFの売却はプラチナ投資需要にとっては逆風であり、94.0トンという水準は2019年以降で2年ぶりに低いものだが、プラチナETF保有高は3.0Moz(93.3トン)が下限サポートになっている(図1)ことを見ても、容易に売却に動かない長期保有層がいることがわかる。

 さらに言えば、投資家はリターンを求め売り手も価格に敏感なのは当然で(2024年10月15日付『プラチナ展望』)、今のETF売却は利益確定売りの現れだ。

 我々の試算によれば、現在、ETFを保有する加重平均コストは1オンスあたり1800ドル(図7)となり、プラチナのスポット価格が約1700ドル/オンスである事を考えれば、平均的な保有ポジションはもはや、インザマネーではないことになる。

 エネルギーコストの上昇がもたらすインフレへの影響が回避できれば、利上げ予測は短命に終わる可能性もある。米国ではコア-CPIが2月の2.5%から5月には2.9%に上昇したが、これはエネルギー価格のインフレがある程度抑えられている事を示している。FIFAワールドカップに関連する支出が夏季のCPI数値を歪める可能性はあるが。。。

 エネルギー価格の上昇を抑える金融政策が機能すれば、投資家は2027年からの利下げを見据えて、あるいはそれに先駆けて2026年後半にプラチナを含む貴金属市場に向かう可能性がある。

金利上昇予測がプラチナ価格の下落と一部のETF売却を誘った
2026年下半期にエネルギー価格の上昇がインフレにつながらなければ、貴金属に対するセンチメントは回復する可能性

投資資産としてのプラチナを支える背景:

-WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続く。2026年の不足は縮小する予測だが、逼迫している現況は改善されないだろう。
-プラチナの鉱山生産は確実に減産、リサイクルはそれほどではないが供給全体はそれでも伸び悩み。
-プラチナのエンドユーザーは多方面に及ぶため、需要は長期にわたってあり、外的な出来事(イラン戦争)や構造的な変化(ドライブトレインの電動化)がもたらす需要リスクを緩和できる。
-市場の継続的な供給不足でリースレートが上昇し、ロンドン先物市場はバックワーデーションに。
-プラチナの価格はゴールドより大幅に低いまま。

図3:エネルギー価格の上昇で2026年のインフレ率上がるも、コア-CPIへの二次的影響はそれほど大きくない

図3:エネルギー価格の上昇で2026年のインフレ率上がるも、コア-CPIへの二次的影響はそれほど大きくない
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図4:2年国債利回りはFRBの金利予測を反映しやすい。イラン戦争以降の約0.8%の上昇は今後の利上げ観測を反映か

図4:2年国債利回りはFRBの金利予測を反映しやい。イラン戦争以降の約0.8%の上昇は今後の利上げ観測を反映か
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図5:2026年の週次プラチナETF保有高と取引所在庫の推移はこれまで概ね流出傾向

図5:2026年の週次プラチナETF保有高と取引所在庫の推移はこれまで概ね流出傾向
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図6:プラチナ売却と鉱山・リサイクル供給の回復で、リースレートは一桁台半ばに下落

図6:プラチナ売却と鉱山・リサイクル供給の回復で、リースレートは一桁台半ばに下落
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図7:プラチナのスポット価格は我々が推定するETF保有の加重平均コスト(実質ベース*)を下回り、売却は不利に

図7:プラチナのスポット価格は我々が推定するETF保有の加重平均コスト(実質ベース*)を下回り、売却は不利に
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ*実質:2007年

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