遺産20億円もあるのに11億円の相続税が払えず相続放棄の衝撃

 2024年末に中山美穂さんが急逝された後、遺産が約20億円、それに対する相続税が約11億円にのぼり、ご子息が最終的に「相続放棄」を選択されたという報道があり、世間に大きな衝撃を与えました。

「20億円の財産から11億円の税金を払っても9億円残るはずなのに、なぜ相続放棄?」と疑問に思った方も多いでしょう。また、「莫大な相続税を回避する手段はないのか」と不安を感じた方もいらっしゃるかもしれません。

「知らなかった」では済まされないのが税金の世界。その一方で、知っているからこそ助かるケースも多々あります。

 今回は、巨額の遺産と相続税、そして相続放棄というニュースをベースに、莫大な相続税に直面した際の現実と、資産を守るための対処法・生前対策について考えてみたいと思います。

なぜ「20億円の遺産」があるのに相続放棄したのか?

 ではなぜ20億円の遺産があるにもかかわらず、11億円の相続税が払えず相続放棄をしたのでしょうか?

 最大の原因は、「遺産の中身と、納税資金のミスマッチ」にあります。

 日本の相続税は、原則として「相続発生後10カ月以内に、現金で一括納付」しなければなりません。ここが最大のポイントです。

 もし20億円全てが預貯金なら、11億円を納税して残りを無事に受け取れたはずです。しかし、著名人や資産家の遺産の多くは、「すぐに現金化できない資産」で占められています。例えば自宅不動産も豪華すぎて高価であれば、買い手がなかなかつかず売るに売れないでしょう。

 また、未公開株式や著作権・商標権などの権利関係も金銭的価値があるものとして遺産にカウントされますが、換金は困難なものばかりです。美術品や貴金属も同様に換金がしづらいものです。

 芸能人以外でも、地主の方も納税には苦労するケースが多いです。例えば、20億円の相続財産のうち18億円が不動産で、現預金が2億円しかない場合でも、国は容赦なく11億円の現金を求めてきます。

 相続発生から10カ月という短い期限内に、11億円分の不動産や権利を売却して現金化するのは至難の業です。買いたたかれれば価値が大きく目減りし、「財産を全て売っても税金が払いきれず借金が残る」という最悪のシナリオすら現実味を帯びます。

 今回のケースでご遺族が相続放棄を選んだ背景には、「売るに売れないが、税金は現金で押し寄せる」という恐怖も多分にあったものと推察されます。

相続「発生後」に税金を回避・対処する裏ワザはあるか?

 では、実際に相続が発生した後に、税金を劇的に減らす魔法のようなやり方は、残念ながらほぼ存在しません。

 仮に税金逃れのため財産の一部を隠匿するようなことをすれば、後日の税務調査で重加算税など多額のペナルティーを課されるどころか、脱税額が多ければ逮捕されることさえあります。

 ただし、経済的破綻を避けるための「防衛策」はいくつかあります。

[1]延納(えんのう)
 現金が一括で用意できない場合、分割で納める制度です。ただし利息がかかり、担保が必要になります。

[2]物納(ぶつのう)
 現金がなく延納でも納付が困難な場合、代わりに相続した不動産など財産そのものを国に納める方法です。しかし審査は厳しく、国が管理しやすい土地などでなければ却下されることも多いです。

[3]相続放棄
 今回のケースです。プラスの財産もマイナスの遺産(納税義務含む)も全て引き継ぎません。「これ以上関わると経済的に破綻する」と判断した上での、「究極のリスク管理」と言えます。

莫大な相続税から資産を守る「生前対策」の鉄則

 将来的に莫大な相続税が予想される場合、大切なのは「生前の、元気なうちに対策を打っておくこと」です。例えば次のような対策があります。

[1]生命保険の非課税枠と現金確保
 生命保険金には「500万円×法定相続人数」の非課税枠があります。さらに、支払う保険料よりかなり多くの死亡保険金を受け取ることができますから、相続税の納税資金の準備にはかなり有効な手段となります。

[2]生前贈与による財産移転
 毎年少しずつ家族へ財産を移し、将来の相続財産を減らします。

 非課税枠の年間110万円以内にとらわれる方も多いですが、支払う贈与税の方が、現金をそのまま保有した場合の相続税よりも低い税率であれば、あえて贈与税を払ってでもある程度まとまった現金を贈与しておくことも大いに有効です。

[3]不動産の所有
 現預金を不動産に替えておくことで、相続時の評価額を大きく下げ、税額を抑えることも可能です。

 ただし近年は不動産を利用した安易な相続対策が横行したため、それらに対し国税庁がメスを入れています。相続税を圧縮するつもりが全く効果はなかった、ということにならないように、専門家を交えて事前によく検討することをおすすめします。

あえて有価証券で資産を増やすという選択肢も

 今までの説明とは多少逆説的になるかもしれませんが、筆者は相続税の対策として、上場株式や投資信託といった有価証券で運用して、資産を増やすことが一案と思っています。

 確かに金融資産運用で資産が増えた場合、相続財産も増え、相続税も増えるでしょう。でも、上場株式や投資信託は換金性が高く、現預金に準ずる資産と言えます。

 相続税の納税のための必要額だけ売却をすれば事足りますし、もし運用期間が20年、30年とあるのであれば投資資金がその分、増加することも十分にありえます。納税資金の確保だけではなく、さらにお釣りがくることが大いに期待できるのです。

 予測不可能な急逝の場合、生前の対策は難しいと言えます。しかし、相続が発生してからあわてても取れる対策はほとんどありません。生前にできる限りの対策をしておくことを、税理士としての立場からも強くお勧めします。