BTCは「冬の時代」に終わりを告げるはずだった200日移動平均線へのトライに失敗すると、史上最高値を更新し続ける日米株を横目に失速し、6月に入ると7万ドルを割り込んだ。何が起こっているのか? 大丈夫なのか? 楽天ウォレット・シニアアナリスト:松田康生、通称MATT(マット)が、6月のビットコイン相場見通しを分析する。
5月のビットコイン相場
なぜ失速したのか
5月のビットコイン相場は「上に行って来い」の展開となった。
1BTC=7.6万ドル近辺でスタートし、8.3万ドル手前まで上昇した後、月末には7.4万ドル近辺まで値を下げ、6月に入ると7万ドルを割り込んだ。
前回、「GW中はBTCが強い時期としても知られており、4月30日~5月7日で見ると過去10年のうち8回上昇している」と申し上げたが、実際は5月6日に8.3万ドル手前でピークアウトした。その後も何度か8.2万ドル台で上抜けを試みたが、結局トリプルトップのようなパターンを形成して失速した。
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イラン情勢がBTC相場に及ぼした影響
イラン情勢は引き続き緊張と緩和を繰り返す展開となり、BTC相場は振り回され続けた印象だ。月初はイランの新提案を受け和平期待が膨らみ、8.3万ドルに迫ったが、その後、小規模な衝突が続いて米側が提案を拒否。
米中首脳会談で事態が打開されるとの見方から8.2万ドル台で下げ渋っていたが、会談で中国が米国に融和的な態度を示した結果、逆に攻撃再開のリスクが高まったとみられてリスクオフムードに失速した。
トランプ米大統領が子息の結婚式を欠席した週末にも攻撃が始まるとの懸念から、BTCは一時7.5万ドルを割り込んだ。幸い攻撃は見送られ、間もなく合意が発表されるとのコメントもあり、7.8万ドルにワンタッチ。しかしその後も小競り合いが続き、イランがクウェートの米軍基地を攻撃したと伝わると、一時7.2万ドル台に失速した。
その後、Axios(米国のニュースサイト)が60日の停戦延長で暫定合意し大統領の承認待ちだと報じたが、史上最高値を更新し続ける日米株市場を横目にBTCの反発は限定的にとどまり、両陣営から合意文書の修正案が往復する中でBTCは上値を重くしている。
特殊な交渉力が必要な場で「トランププット」の効力は?
前回、この和平交渉は「売り手がとんでもない価格を提示し、買い手が立ち去るところから交渉が始まる、スーク(アラビア語で「市場」の意味)での買い物に似ている」と申し上げた。米国は再攻撃を切り札に核問題での譲歩を求めているが、ある程度現実味がなければ切り札にならない。
一方でトランプ大統領は、高い球を投げて相手を交渉のテーブルに着かせるスタイルを続けてきたが、市場への影響が大きくなると態度を緩める「トランププット」も健在だ。この結果、市場は緊張と緩和を繰り返してきた。
「原油が下がればBTCが上がる」のセオリーが崩れ始めた理由
戦闘再開が懸念されて原油が上がればBTCが下がり、和平期待が高まって原油が下がればBTCが上がるパターンを繰り返してきたが、この関係が5月後半から崩れ始めた。すなわち、まだ合意には至っていないが、交渉が佳境に入り原油価格が1バレル=80ドル台に下がってきたのに、BTCが上がらないパターンが目立ってきた。
図は原油価格を逆目盛としたBTCと原油の推移だが、5月最終週にかけて両者はダイバージェンス(価格の動きとオシレーター系テクニカル指標の動きが逆行する現象で、トレンド転換の兆候を示すサイン)を起こしている。このリスクオン局面でBTCが売られているのはなぜか?
BTC/USDと原油先物(逆目盛)
理由その1:Clarity法案
理由の一つは、Clarity法案を巡る不透明感だ。
暗号資産の法的定義や規制を明確化する同法は昨年7月に下院を通過しており、上院の審議を待つ状態だったが、さきに成立済みのGENIUS法で曖昧だった、交換業者によるステーブルコインの付利の可否をClarity法案に盛り込むことになり、紛糾した。5月14日に上院委員会を15対9で通過したが、本会議で必要な6割の賛成を得られるかが焦点となっている。
ところがここに来て、議会内で他の重要法案を巡る与野党の対立が深まり、同法の本会議提出は7月にずれ込みそうな状況となった。仮に6割の賛同が得られたとしても、修正法案を再び下院に回付する必要がある。そして下院を7月中に通過しなければ、議会は夏季休会に入り、中間選挙前の成立は難しくなる。中間選挙で与党が敗北すれば廃案となる可能性も浮上している。
足元では調査会社TD Cowenが、大統領の株取引や倫理規定を理由に「6割の賛同を得るのが難しい」との見方を示し、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(以下JPモルガン)のダイモンCEOが法案への反対を表明する一方、トランプ大統領やベッセント財務長官、アトキンス米国証券取引委員会(SEC)委員長などが相次いで法案の成立を促している。
法案成立はかなりの綱渡り状態となり、廃案リスクも意識され始めているが、まだ日程的に不可能になったわけではない。
理由その2:ETFフロー
理由の二つ目は、上場投資信託(ETF)フローの流出だ。
ETFフローは10営業日連続の流出を記録し、過去最長だった8営業日を更新した。意外かもしれないが、この原因は株価の上昇にあると考える。
ETFの登場により、アセットクラス間の乗り換えにかかる手間や手数料(スイッチングコスト)が大幅に低下した。BTCや金の現物を処分して株式を購入することは、かなりの手間とコストを要するが、ETFであれば同じ口座内で容易にシフトできる。この結果、あるアセットの調子が良くなると、他のアセットから資金を吸収しやすい現象が起こりやすくなった。
昨年後半はそれが金だったが、今回は株式だ。その結果、BTC ETFからは1カ月で26億ドルの資金が流出したが、ステートストリートとブラックロックの2大金ETFからも18億ドルの流出が確認されている。
ETFフローとBTC/USD
理由その3:金融政策
最後の一つは金融政策だ。
イラン情勢の長期化により、先物市場では米連邦準備制度理事会(FRB)は、次の一手は「利下げ」ではなく「利上げ」を示唆し始めた。またウォーシュ新FRB議長は法定通貨の問題を喝破しており、FRBのバランスシート縮小を是としている。この結果、過度な金融緩和によるインフレヘッジとしてのBTC買いストーリーが短期的には見込みにくくなっている。
ただし、長期的には法定通貨の減価を食い止めることは難しいと考える。ばらまいたお金は遍在するため、マクロで市場に存在しても回収しようとするとヒッチが起こる。現にパウエル前議長がテーパリング(量的緩和策による金融資産の買い入れ額を順次減らしていくこと)を進めたところ地方銀行で金融不安が発生した。
この流れはそう簡単に止められるものではない。また、いくら議長が奮闘しても国民のマインドを修正することはほぼ不可能だろう。
BTCへの資金シフトも理由の一つ
同様に長い目で見れば、一連の株式市場への資金流入の動きはBTCにもポジティブだと考えている。
今回、株高が止まらないのも、昨年後半に金が歴史的高騰を見せたのも、2024年後半~2025年前半にかけてBTCが上昇したのも、根っこの部分は同じだと考えているからだ。それは「法定通貨の減価」である。
コロナ後に史上最大の財政支出と史上最大の金融緩和が重なって起こったインフレを、2023年に各国が是正しようとしたところ、選挙イヤーだった2024~2025年にかけて先進各国で与党が敗北した。
その結果、世界は財政ファイナンスから抜け出せなくなってしまった。その行き場を失ったマネーが当初BTCに集まり、次に金に向かい、足元では株に向かっている。不動産価格も危ういと言われ続けながら上昇を続けている。
要は相対的に法定通貨の価値が下がっており、イラン情勢や原油価格の上昇はきっかけに過ぎないと考える。現に原油価格上昇対策として財政支出を増やす議論が世界中で巻き起こっている。株の上昇が一服してBTCに割安感が出れば、いずれフローは戻ってくると考えるが、それには少し時間がかかるかもしれない。
2024年対比騰落率 BTC(赤)S&P500(青)金(緑)
ビットコイン失速。6月は反発前の底固め?さらに下落?相場を動かす三つの重要ファクター
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