資産運用ではリスクとリターンのバランスを考慮し、効率的な資産配分を選択するための理論や手法が存在します。しかし、それを厳密に実行したり、維持したりすることは現実的ではありません。今回は、資産運用における理想と現実の落としどころを探るべく、私たち個人投資家が無理なく継続できる資産配分の考え方を整理します。
前回は、理論的な資産配分の考え方と、それを実現することの難しさについて触れました。そこで今回は、個人投資家が無理なく実践できる五つのアセットアロケーションの考え方を解説します。
▼前回の記事はこちら
図表1:各資産配分のポイント
以下、これらの資産配分の例について解説します。
(1)株式100%:市場変動を前提としたリスク許容スタイル
前回までリスクとリターンのバランスをふまえた分散投資について言及してきましたが、全てを株式に振り向けるという選択肢を、否定するわけではありません。むしろ重要なのは「投資対象がどれだけ値動きする可能性があるのか」というリスクを、自分自身が把握しているかどうかです。
例えば、投資対象を株式インデックスファンドのみに集中させる場合でも、そのリスク水準や過去の下落幅を理解している投資家と、そうでない投資家とでは、相場急変時の落ち着きや対応の質に大きな差が生じます。
リターンの振れ幅を理解し、長期的に経済成長の恩恵を享受するという前提に立てば、運用コストが最も低く、合理的な選択肢といえます。しかし、ご自身の許容できるリスク水準を超えていると感じるのであれば、(2)番以降の選択肢を検討すべきです。
(2)株式と現金:シンプルで分かりやすいが、現金比率の高さに注意
株式と現金に配分し、リスク・リターンのバランスを調整する方法は、シンプルゆえに支持者が多い王道の手法です。リターンを追求したい局面では株式を、リスクを抑えたい局面では現金を厚く配分することは、投資家にとって非常に分かりやすいという利点があります。しかし、現金比率を高位に保つことは、長期的かつ効率的な資産形成という観点からは、必ずしも合理的とはいえません。
例えば、株式の期待リターンが7.0%の場合、ポートフォリオのうち30%を現金で保有すると、資産全体では期待リターンが4.9%まで低下します。この差は、リターンを生まない資産を抱えることによる機会損失です。また、リスク抑制が目的ならば、債券や金などの資産を活用する方が、リターンを補完しつつリスクを抑えられるため、理論上は優位となります。
もちろん、現金には心理的な負担を軽減し、相場急変時にも冷静さを保つ側面があります。資産を分散してリスク・リターンの効率性を追求することの合理性と、現金という手元資金がもたらす安心感は、投資家にとって両立させることが難しい課題です。安心感を優先し、ポートフォリオの10%程度をあえて現金で保有しておく、というのも一つの考え方ですが、複利効果を重視する長期投資においては、現金比率を過度に高めることは避けるべきでしょう。
では、株式以外の資産の組み入れも検討したい場合はどのような考え方があるのか、(3)番以降でご説明します。
(3)資産均等配分:GPIFに学ぶシンプルな分散投資
投資対象を均等に配分するこの考え方は、自分で複数の資産を組み合わせるか、資産を均等に配分するタイプのバランスファンドを活用することで実現できます。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も現在は、国内株式、外国株式、国内債券、外国債券の四つの資産クラスへほぼ均等に配分しており、この分散投資が長期にわたる安定的な収益獲得に寄与しています。
均等に資産配分を保つため、定期的に資産配分を調整する「リバランス」が必要になりますが、資産均等型のバランスファンドを活用すれば、その手間を自動化することができます。
図表2:均等型の資産配分とリバランスのイメージ
ただし、必ずしも均等配分が高い運用効率をもたらすわけではない点や、バランスファンドのコストは一般的にインデックスファンドよりも高い傾向にある点は留意が必要です。それでも、資産を等しく分けるというシンプルな構造は、運用の迷いを減らし、運用を長期で継続する上でのよりどころとなるでしょう。
では、その運用効率を追求した資産配分として、どのような考え方があるのか、(4)番を見てみましょう。
(4)60/40ポートフォリオ:運用効率を追求した伝統的アプローチ
株式60%、債券40%という配分は、効率的な運用を追求する上で、一つの基準となっている伝統的な投資手法です。攻めと守りのバランスをふまえて、リターンの水準を調整しつつ、それ以上のリスク低減効果を期待できるという点が、多くの投資家にとって合理的な選択肢と見なされてきました。
近年では、債券の一部(10~20%程度)を、コモディティなどのオルタナティブ資産へ振り分ける構成も注目を集めています。これらオルタナティブ資産は、リスク分散の幅を広げる一方、株式や債券のように配当や利子といったインカムを継続的に生み出す性質のものではありません。長期的な経済成長を捉える運用を目指すのであれば、ポートフォリオの主軸は株式や債券といった伝統的資産に置き、オルタナティブ資産は、あくまでポートフォリオの安定性を高めるための調整弁として捉えるのがよいでしょう。
この配分が目安になる一方、実際は投資家によって目標とするリターンやリスクの水準は異なります。これまでの運用の効率性を追求する考え方をベースにしつつ、経年変化に応じて適宜見直しを行うことが重要です。それを実現した資産配分の考え方が次の(5)番になります。
(5)「100-年齢」ルール、ターゲットデート戦略:出口まで見据えた動的資産配分
リスク許容度をふまえて資産配分を考える際、一つの目安となるのが「100-年齢(%)」を株式や不動産投資信託(REIT)などのリスク資産に配分するという考え方です。例えば30歳であれば70%、60歳であれば40%といった具合に、年齢を重ねるごとにリスク資産の割合を減らし、債券や現金などの安全資産を増やしていく手法です。近年では、人生100年時代を見据えて「120-年齢(%)」とし、より積極的に株式を保有するアレンジも普及しています。
これをさらに洗練させたのが、ターゲットデート(またはターゲットイヤー)戦略です。この運用戦略を採用しているファンドでは、設定された目標年(ターゲット年)に向けて、徐々にリスク資産の比率を下げ、自動的に債券中心の保守的な配分へ切り替えてくれます。
図表3:ターゲットデート戦略の資産配分変化のイメージ
この仕組みが重要視される背景には、「シークエンス・オブ・リターン・リスク」への備えが挙げられます。これは、資産の取り崩しを開始するタイミングで市場が大幅に下落した場合、運用資産の回復が追いつかず、老後資金が早期に枯渇してしまうという構造的な危険性を指します。資産形成の初期であれば暴落も「安く買えるチャンス」となりますが、資金を取り崩し始めるタイミングでの暴落は致命的です。資産運用の始め方や商品選びに注目が集まりがちですが、運用をどう終えるかは、資産形成そのものと同じくらい、あるいはそれ以上に重要です。
もちろん、ターゲットデート型ファンドも万能ではありません。ファンドが設定した、資産配分の変化「グライドパス」が、必ずしも個人のリスク許容度やライフプランと一致するとは限らないからです。しかし、自分で年齢に応じたリバランスを行う手間を省き、出口戦略の定石である「時間経過に伴うリスク低減」を自動化できる点は、多くの個人投資家にとって現実的な選択肢となり得ます。運用方針の細部を自分でコントロールするよりも、機械的な管理に委ねることで、運用継続のハードルを下げたいと考える方には、検討に値する手法といえるでしょう。
まとめ
今回、五つの資産配分の考え方を紹介しましたが、唯一無二の正解はありません。大切なのは、ご自身の目標やリスク許容度と向き合いながら、納得感のある運用スタイルを確立することです。
実際の投資においては、資産配分を決めるだけでなく、銘柄選びや為替への向き合い方など、考えるべき要素は尽きません。しかし、今回扱ったアセットアロケーションの策定は、運用の指針となる道標を立てることに他なりません。この道標を頼りに、日々の市場と向き合う中で、その時々の状況に合わせて調整を重ねていく。そうした試行錯誤の積み重ねこそが、理想と現実のギャップを埋め、納得のいく落としどころを見つけるプロセスとなるはずです。本稿がその歩みを進めるための一助となれば幸いです。
「完璧はない」。5つの資産配分から考える、理想と現実の落としどころ
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