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米シェール企業、原油ヘッジ取引の違和感。原油輸出禁止を中間選挙に使う?(西 勇太郎)

2026/5/21 8:00

 日本を含む各国からの原油代替調達需要が追い風となっている米国シェール企業ですが、テキサス州パーミアン盆地のガスパイプラインハブ「Waha Hub」で起きている容量不足の影響を受けた企業はQ1に減益や赤字となっています。また、米国からの原油輸出制限導入を想定したかのようなヘッジポジションをQ1に構築した企業が複数存在しています。

目次
  1. パーミアン盆地のガスパイプライン容量不足で多くの企業が減益・赤字
  2. 米国からの原油輸出制限・禁止を想定したと思われるヘッジポジション

パーミアン盆地のガスパイプライン容量不足で多くの企業が減益・赤字

 日本を含むアジア各国が、ホルムズ海峡封鎖で減少した中東原油の代替供給ソースとして米国に頼り、実際に米国からの輸入を大きく増やしている状況です。この状況が業績に表れ始める、米国原油・ガス関連企業の2026年度第一四半期(Q1)決算につき、二週間前に第1弾の記事を掲載しました。

 今回は第2弾としてその後決算が発表された企業などの結果を概括するとともに、それらの企業がQ1に新たに構築したヘッジポジションから読み取れることについても分析します。

 今回取り上げる10社は、EOGリソーシズ(EOG NYSE)、オキシデンタル・ペトロリアム(OXY NYSE)、ダイヤモンドバック・エネルギー(FANG NASDAQ)、デボン・エナジー(DVN NYSE)、オビンティブ(OVV NYSE)、コード・エネルギー(CHRD NASDAQ)、SMエナジー(SM NYSE)、パーミアン・リソース(PR NYSE)、カリフォルニア・リソーシズ(CRC NYSE)、マタドール・リソーシズ(MTDR NYSE)です。テキサス州パーミアン盆地での生産事業を有することが、ほとんどの企業に共通しています。

 これらの企業10社のQ1決算はおおむね減益もしくは赤字となりました。原因は、二週間前の記事でも触れましたが、テキサス州パーミアン盆地で、各国からの原油代替調達需要を受けた原油増産に伴ってガス生産も増加した結果、ガスパイプラインハブ「Waha Hub」でパイプラインの容量不足が発生し、当該地域のガス価格が暴落したことです。

<シェール生産地マップ>

シェール生産地マップ
出所:EIA資料より作成

 パーミアン盆地への依存度が低いEOGリソーシズと事業売却で特別利益を計上したオキシデンタル・ペトロリアムのみが、前年同期比で当期純利益が増益となりました。

<米国石油・ガス開発企業10社の2026年Q1業績>

社名 証券
コード
取引所 売上高 増収率 当期純利益 増益率
百万ドル % 百万ドル %
EOG
Resources
EOG NYSE 6,758 16 1,980 35
Occidental
Petroleum
OXY NYSE 5,230 -8 3,155 315
Diamondback
Energy
FANG NASDAQ 4,210 4 25 -98
Devon
Energy
DVN NYSE 3,807 -14 120 -76
Ovintiv OVV NYSE 2,532 7 -630 赤字
Chord
Energy
CHRD NASDAQ 1,666 37 108 -51
SM
Energy
SM NYSE 1,477 76 -335 赤字
Permian
Resources
PR NYSE 1,388 1 44 -87
California
Resources
CRC NYSE 967 7 -711 赤字
Matador
Resources
MTDR NYSE 942 -6 -36 赤字
出所:各社資料より作成

米国からの原油輸出制限・禁止を想定したと思われるヘッジポジション

 次にこれらの企業がQ1に構築した原油価格ヘッジポジションに着目したいと思います。

 通常、米国で原油生産を行う企業は米国の指標原油であるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)をベースとしたヘッジポジションをデリバティブ取引によって構築します。しかしQ1の決算においては、WTIと、欧州の指標原油であるBrentの価格差についてヘッジポジションを構築した企業が複数確認されました。

 具体的には、ダイヤモンドバック・エネルギーがWTIとBrentの価格差(WTI – Brent)をマイナス$42.2で固定するためにプットオプションを購入していました。これは、現在WTIがBrentより$7程度安い状況ですが、それが拡大し$42.2以上WTIがBrentより安くなった場合に、取引相手から金銭の支払いを受けることができ、結果的に$42.2で価格差拡大が止まった効果を得られる、という取引です。

<2026年Q1に構築したWTI-Brent価格差ヘッジポジション>

社名 証券
コード
WTI-Brent価格差ヘッジポジション
種類 千BD ヘッジ割合 期間 スプレッド
EOG
Resources
EOG - - - - -
Occidental
Petroleum
OXY - - - - -
Diamondback
Energy
FANG Put 273 52% 4-9月 -$42.2
Devon
Energy
DVN Swap 9 2% 4-12月 -$5.6
Ovintiv OVV - - - - -
Chord
Energy
CHRD Swap 14 9% 4-12月 -$5.6
SM
Energy
SM - - - - -
Permian
Resources
PR - - - - -
California
Resources
CRC - - - - -
Matador
Resources
MTDR - - - - -
※複数のヘッジポジションを有する場合は平均量、平均価格を表示
出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

 ちなみに年初にマイナス$4近辺だったWTIとBrentの価格差はイラン戦争勃発後に、欧州のほうが米国より中東原油への依存度が高いため、ホルムズ海峡封鎖影響はBrentの価格の相対的な上昇につながり、WTIとBrentの価格差は一時期マイナス$16台となりました。現在はマイナス$7近辺での推移となっています。

<WTI-Brent価格差推移>

WTI-Brent価格差推移
出所:NYMEXより楽天証券経済研究所が作成

 米国のみで原油生産を行うダイヤモンドバック・エネルギーがWTIとBrentの価格差をヘッジする取引(スプレッド取引)を行う必要性は本来ないはずで、現に3カ月前の2025年通期決算発表時にはそのようなヘッジポジションは保有していませんでした。

 2026年の1月から3月の間にこのヘッジポジションを構築した理由としては、やはりイラン戦争勃発によるホルムズ海峡封鎖であると考えられます。

 ダイヤモンドバック・エネルギー自体はこのヘッジポジションについて何らコメントを発表していませんが、WTIとBrentの価格差がマイナス$42.2という大きな差に広がるケースとして想定されるのは、トランプ大統領が中間選挙に向けて国内原油価格を安くするために米国からの原油輸出を制限もしくは禁止するような状況、という解釈が複数の米国メディアで報じられています。

 トランプ政権自体は3月に、米国からの原油輸出を禁止する予定がないことを表明していますが、米国からの原油輸出をイラン戦争が続いている間は禁止する法案の成立を目指す議員の動きもあるようで、予断を許さない状況です。

 なおダイヤモンドバック・エネルギー以外に、デボン・エナジーとコード・エネルギーもQ1にWTIとBrentの価格差をヘッジする取引を行っています。こちらは2社とも、WTIとBrentの価格差を4月から12月の間、マイナス$5.6で固定化するスワップ取引です。

 この2社のヘッジポジションについては、米国からの原油輸出制限・禁止まで想定して構築したものか、そこまでのシナリオは想定していないものの、欧州における需給タイト化を背景に再びWTIとBrentの価格差がマイナス$16台もしくはそれ以上に拡大することを懸念して構築したものかは分かりません。

 ヘッジした量もそれぞれの生産量の10%に満たない水準とまだ小さい状況であり、今後の2社の動向を注視し続ける必要があります。

 米国からの原油輸出制限・禁止は不確定な状況ですが、日本としてはリスクシナリオに備え、米国以外からの原油の調達、すなわちアンゴラ、カナダ、ロシアなどからの原油の調達が検討されるべきと考えます。

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