原油やナフサといった原料調達が困難化し、製造業の生命線であるサプライチェーン(供給網)が混乱するリスクが軽減すれば、日銀は6月利上げに踏み切る公算です。しかし、そもそもサプライチェーンが混乱するリスクはどの程度深刻なのでしょうか。原油調達の現状を確認し、石油備蓄量の先行きを試算してみました。
石油備蓄の現状
先週のレポートでも述べましたが、日本銀行が4月利上げを見送ったのは、原油やナフサといった原料調達が困難化し、製造業の生命線であるサプライチェーン(供給網)が混乱するリスクを意識したためであり、そのリスクが軽減すれば、6月15、16日に開催される次の金融政策決定会合(MPM)で利上げに踏み切るとみています。
では、そのサプライチェーンが混乱に陥るリスクというのは、どの程度深刻なのでしょうか。それを把握するため、石油備蓄量の先行きを試算してみました。まず、石油備蓄の現状から確認しておきましょう(図表1)。
<図表1 日本の石油備蓄量>
資源エネルギー庁が5月15日に発表した「石油備蓄の現況」を見ると、2026年3月末時点で6,840万キロリットル(kl)、備蓄日数233日分(国家備蓄146日分、民間備蓄81日分)だった石油備蓄は、中東情勢悪化に伴う国家備蓄の放出により、5月12日現在、備蓄日数208日分(国家備蓄120日分、民間備蓄87日分)まで減少しています。
ここで、3月末時点の6,840万klと備蓄日数233日から、原油消費の日量は29.356万kl(=6,840÷233)と計算できます。一方、「石油統計」の確報によると、2025年の原油消費量は13,757.6万kl、日量37.692万klですので、かなり開きがあることが分かります。以下では、「石油備蓄の現況」のデータに統一して試算を行うことにします。
つまり、前提となる原油消費量は日量29.356万kl、年間消費量10,715.02万kl(=29.356×365)であり、3月末時点の備蓄233日分は年間消費量の63.8%、5月12日時点の208日分は57.0%ということになります。
石油備蓄の先行き
さて、石油備蓄の先行きを試算しましょう。4月10日の「中東情勢に関する関係閣僚会議(第3回)」に提出された経済産業省の資料によると、4月1日を起点として、原油調達が通常の5割しかできなかった場合、2027年の早い段階で、石油備蓄が枯渇するとの試算結果が示されています。
その後、5月12日の同会議(第7回)に提出された経産省資料「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保および重要物資の安定的な供給確保の対応状況」で、4月は25%、5月は約6割、6月は約7割の原油調達にめどが立ったと紹介されました。
これを前提に、上で算出した原油消費量から、6月までの調達量、石油備蓄量と日数を算出。それを起点として、7月以降6月と同じ7割調達が維持されるケース(1)、5割調達になるケース(2)、3割しか調達できないケース(3)の三つのパターンを設定し、備蓄日数がどう推移していくか試算しました(図表2)。
<図表2 石油備蓄量の先行き試算結果>
結果を整理しますと、7割の調達が確保できるケース(1)では、2027年末になっても石油備蓄が枯渇することはありません。しかし、5割調達のケース(2)では2027年6月、3割調達のケース(3)では2027年3月に、それぞれ石油備蓄は枯渇することになります。
なお、グラフには、備蓄日数120日と55日に点線を引いています。これが何を意味しているかというと、まず前者は国家備蓄が足もとの120日で維持された場合、民間備蓄がなくなるタイミングを示しています。7割調達のケース(1)では2027年2月、5割調達のケース(2)では2026年11月、3割調達のケース(3)では2026年10月に民間備蓄がゼロになります。
また後者の55日というのは、「石油の備蓄の確保等に関する法律(石油備蓄法)」による民間備蓄の義務量であり、民間備蓄がそれ以上減らないと仮定したときの国家備蓄がなくなるタイミングを示しています。
本来、石油備蓄法では70日分の民間備蓄が義務付けられていますが、今回の中東情勢悪化を受けて、3月16日から55日に引き下げられる特別措置が講じられています。それを前提にすると、ケース(1)では2027年8月、ケース(2)では2027年3月、ケース(3)では2027年1月に、国家備蓄がゼロになります。
原油調達不安の深刻度と物価と利上げ~石油備蓄量の試算から考える(愛宕伸康)
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