原油相場の高騰が続いています。中東情勢(ホルムズ海峡含む)の悪化、産油国のバランスの乱れ、主要国の金融政策・景気動向、そして米国の原油在庫減少という、複数の材料が上下の圧力をかけ、その結果として原油相場が高騰していると考えられます。米国の原油在庫減少には、アジア諸国が深く関わっていると考えられます。
原油相場はまるで「社会の諸事象の頂点」
図1は、足元の原油相場高騰を起点とした世界情勢のイメージです。川上(≒全体)に原油相場高騰があり、川中には各国の政策、法整備が物価高を前提とした動きを強めていること、川下(≒部分)には各国の具体的な品目の価格や水準が上昇していることを示すように位置しています。
図1:原油相場高騰を起点(川上)とした世界情勢(2026年3月以降)
日本国内における、長期金利の上昇、ナフサの品不足への懸念、ガソリンの小売価格の上昇、食品の価格上昇などについては、いずれも世界情勢の川下であり、末端であり、部分だといえます。
今まさに、こうした、私たちの目の前で起きている、懸念を大きくしている事象についてのほとんどが川下、末端であり、それらの最も大きな原因が原油相場高騰であることが分かります。
各国の政策や法整備の動向も確かに、川下、末端に影響を及ぼしますが、その各国の政策・法整備でさえも、川上(≒全体)の原油相場高騰の影響を受けているのです。
図2:原油相場を取り巻く環境(2026年3月以降)
図2は、川上(≒全体)である原油相場高騰の主な背景を示しています。2026年3月以降の状況を振り返ってみると、中東情勢(ホルムズ海峡を含む)の悪化、産油国間のバランスの乱れ、主要国の金融政策・景気動向、米国の原油在庫減少などが原油相場高騰の背景に挙げられます。
これら一つ一つが、影響度の強弱の差はあれども、原油相場に対し上昇と下落の両方の圧力をかけています。図の右に示した原油相場への影響の矢印のとおり、濃い赤色は強い上昇圧力を、濃い青は強い下落圧力を示しています。
このように、一口に原油相場高騰と言っても、複数の材料がもたらす上昇と下落の両方の圧力によって生じていることを認識する必要があります。決して、中東情勢だけ、産油国の情勢だけ、主要国の金融政策・景気動向だけで、動いているわけではありません。
全体像の把握が必要です。このことは、川中の各国の政策・法整備の今後、川下の各国の具体的な品目の価格・水準の今後の動向を考える上で、大変に重要なことです。原油相場が「経済の血液」と呼ばれる理由の一つが、ここにあります。
ホルムズ海峡の代替策は「喜望峰」
図3は、石油や天然ガスなどを運ぶタンカーの主な航路です。
図3:タンカーの主な航路(イメージ)
中東情勢に直接的に関わっている、ホルムズ海峡(アラビア海とインド洋の間)、バブ・エル・マンデブ海峡(インド洋と紅海の間)、スエズ運河(紅海と地中海の間)だけでなく、東アジアの玄関口とも言える東南アジアのマラッカ海峡、米国から大西洋や太平洋に通じる航路上にあるユカタン海峡、アフリカ大陸最南端の喜望峰なども、タンカーの航路として世界屈指の要衝と言えます。
ホルムズ海峡付近の線を点線にしたのは、同海峡が事実上封鎖されているためです。中東産原油のほとんどは同海峡を通過してインド洋に出て、その多くがマラッカ海峡を通じて、日本、韓国、中国などの東アジア諸国に運ばれていました。
図4のとおり、イラン(革命防衛隊)と米国の両者が封鎖を主張しているホルムズ海峡を通過したタンカーの数は2月28日のイラン戦争勃発以降、激減しています。同戦争の勃発前は、一日当たり50隻から60隻のタンカーが航行していました。
しかし足元では、一日当たりゼロ隻を含む低水準で推移しています。また、中東情勢に直接的に関わっているその他の航路であり、ホルムズ海峡封鎖時の代替航路になり得るバブ・エル・マンデブ海峡とスエズ運河を通過したタンカーの数はほとんど増えていません。このことは、これらの航路が、ホルムズ海峡の代替航路になりえないことを示唆しています。
バブ・エル・マンデブ海峡とスエズ運河はアラビア半島の西側に位置する、紅海の北と南の玄関口に位置しています。紅海を航行するタンカーや船舶に対し、アラビア半島南部のイエメンで活動しているイスラム武装勢力「フーシ派」が妨害行為を行っているとされています。
2023年10月にイスラム武装組織の一つであるハマスが、イスラエルを奇襲しましたが、それ以降、紅海における妨害活動が活発化し、それにより同海を航行するタンカーの数が激減しました。現在も激減したままです。
図4:主要な海上の要衝を通過したタンカーの数(21日間平均) 単位:隻
イラン戦争勃発以降、ユカタン海峡と喜望峰を通過するタンカーの数が、徐々に増えてきています。これは、米国で生産された原油を、アメリカ湾(メキシコ湾)から、同戦争の勃発によって供給不足に陥っている東アジア地域に輸送するタンカーが増えてきていることを意味しています。パナマ運河を通じて太平洋を渡り、東アジアに至るルートもありますが、同運河を通過したタンカーの数はあまり増えていません。同運河を大型タンカーが通過できないことが背景にあると考えられます。
同戦争勃発をきっかけにホルムズ海峡を通過するタンカーの数が激減しました。その代替策と期待されたスエズ運河とバブ・エル・マンデブ海峡経由のタンカーの数は、以前からの妨害活動の影響を受け、思ったように増加していません。
今後ますます、ユカタン海峡そして喜望峰を通過するタンカーの数が、増加していく可能性があります。このことは、後述する米国の原油輸出量および米国の原油戦略備蓄の量と、密接に関わっている可能性があります。
アジアが買えば原油相場が上がる!?
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