2026年はPGM価格の上昇を受けてリサイクル供給は増加する予測だが、ここに来て資金調達の難しさや中東の貿易ルートの中断などがこの予測に対するリスクとして浮上してきた。2026年のリサイクル供給が実際に予測を下回れば、2022年以降毎年予測を下回ってきた傾向が続くことになり、プラチナの供給には限界があるという認識がさらに強まることになるだろう。

 3E PGMバスケットのそれぞれのメタル価格はここ1年の間に50%から100%上昇した(図3)。価格の上昇は理論的には供給の増加を誘うはずだが、PGM鉱山会社の2026年度最新生産目標を見ると減産予測(図4)となっており、供給の増加が見込めるのはリサイクルのみだ。

 これまでにもリサイクル供給は価格弾力性があることは解説した(『プラチナ投資のエッセンス』8月20日付)。従ってメタル価格が上昇している中で2025年のリサイクル供給は前年比10%、2026年もさらに10%増えると予測し、実際2025年はリサイクル供給全体で増えた。しかし、自動車触媒のリサイクル量はしばしば予測を下回っていた。

 2022年以降の実際の供給と我々が立てたそれぞれの年の初期予測を比較すると、プラチナのリサイクル供給は平均して9%予測を下回ってきた(図1)。リサイクルが予想に達しなかった(図2)理由は大きく二つ考えられる。

 一つ目はコロナ禍などでサプライチェーンが混乱し、新車販売価格が上昇して消費者が新車を買い控えたため、廃車(廃触媒)が減ったこと(図5)。二つ目は2023年と2024年はPGM価格が低かったために採算の悪化を嫌うリサイクル業者が廃触媒の処理をせずに溜め込んだことだ(図6)。

図1:プラチナのリサイクル供給は予測を下回ってきた

図1:プラチナのリサイクル供給は予測を下回ってきた
出典:メタルズフォーカス、WPICによる予測

図2:リサイクル供給は伸び悩みが続く

図2:リサイクル供給は伸び悩みが続く
出典:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

 近年はPGM価格の上昇など、溜め込まれていた廃触媒の処理を促すインセンティブはあるのだが、これまで予測を常に下回ってきたことを考えると、リサイクル供給の増加を再び抑えかねないリスク要因が2つ浮上してきた。

 第一に、リサイクル業界の運転資金の問題。PGM価格と金利の上昇によって銀行が融資枠の拡大に慎重になっているため、リサイクル増産の可能性が抑えられている。第二に、イラン戦争でホルムズ海峡を含む中東地域の貿易の流れが影響を受けていること。

 アラブ首長国連邦(UAE)は自動車触媒のPGMリサイクルの集積拠点であり、戦争の長期化はメタルの流通を妨げる可能性がある。また、この戦争で新車市場が停滞すれば自動車のプラチナ需要が減り、それはリサイクル供給にも影響が及ぶ。

 近年PGM市場は常に供給の伸び悩みに直面してきた。リサイクル供給がさらに減れば、2026年は、プラチナ市場は供給不足の予測が7.5トン増え(図7)、供給過剰に転じる予測のパラジウム市場は逆に供給不足が続く可能性がある(図8)。

PGM価格の上昇は供給増加を促すはずだがそうならない可能性があるのは
・鉱山会社の生産目標は減産
・2022年以降のリサイクル供給は常に予測を平均9%下回ってきた

投資資産としてのプラチナを支える背景:

-WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続く。2026年は需給が均衡する予測だが、逼迫している現況は改善されないだろう。
-プラチナの鉱山生産は確実に減産、リサイクルはそれほどではないが供給全体はそれでも伸び悩み。
-プラチナのエンドユーザーは多方面に及ぶため、需要は長期にわたってあり、外的な出来事(イラン戦争)や構造的な変化(ドライブトレインの電動化)がもたらす需要リスクを緩和できる。
-リースレートの上昇とロンドン先物市場のバックワーデーションがタイトな市場を反映している。
-プラチナの価格はゴールドより大幅に低いまま。

図3:過去12ヶ月でPGM価格は50%(Pd)から100%(Pt)上昇

図3:過去12ヶ月でPGM価格は50%(Pd)から100%(Pt)上昇
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図4:大手PGM鉱山会社の2026年度生産目標は全体で前年比4%減

図4:大手PGM鉱山会社の2026年度生産目標は全体で前年比4%減
出典:各社データ(イムプラッツ、ノリリスクニッケル、ノーザム、シバニェ・スティルウォーター、ヴァルテラ)、WPICによる予測

図5:コロナ禍と半導体不足問題で新車生産が滞り、廃車が減ったためリサイクル用廃触媒も減った

図5:コロナ禍と半導体不足問題で新車生産が滞り、廃車が減ったためリサイクル用廃触媒も減った
出典:国際自動車工業連合会(OICA)、WPICリサーチ

図6:2023年と2024年はPGM価格が低く、リサイクルの採算が悪化し業者はスクラップを溜め込んだ

図6:2023年と2024年はPGM価格が低く、リサイクルの採算が悪化し業者はスクラップを溜め込んだ
出典:ブルームバーグ、WPICによる予測

図7:リサイクル供給が予測を下回れば、2026年のプラチナ市場の供給不足は拡大

図7:リサイクル供給が予測を下回れば、2026年のプラチナ市場の供給不足は拡大
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図8:パラジウムのリサイクル供給が予測を下回れば、パラジウム市場は供給過剰にならず2026年も供給不足のまま

図8:パラジウムのリサイクル供給が予測を下回れば、パラジウム市場は供給過剰にならず2026年も供給不足のまま
出典:WPICリサーチ

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