米国が仕掛けたイラン戦争は2ヶ月目に突入した。イランを含む中東諸国はプラチナの需給においては大きな市場ではないため、プラチナのファンダメンタルズへの影響は限定されるだろう。
しかし、懸念材料はホルムズ海峡の封鎖による経済の停滞とヘリウム供給の滞りが半導体および自動車生産にもたらす影響、そして現時点の最大のリスクは金利上昇とドル高が貴金属全体に対する重圧となって、投資家がポジション解消に動く可能性だ。
我々の推定では中東は世界の年間プラチナ需要の約2.5%(約6.2トン)を占める(図1)。約100万台の自動車生産のプラチナ需要が約3.4トンあり、化学産業と石油産業のプラチナ需要はそれぞれ世界の約10%、15%を占める。その他、間接的な需要として輸入品(年間200万台〜300万台の自動車と宝飾品)のプラチナ需要が年間約2.8トンある。
戦争が長引けば中東に関連するプラチナ需要が影響を受けるのは避けられないが、それよりもホルムズ海峡の運航制限やエネルギー価格の上昇の方がプラチナ市場には大きな打撃となるだろう(図3)。
世界の原油およびLNG生産の約2割がホルムズ海峡を経由する。石油精製や化学セクターでこれらの原料が不足すれば、設備の稼働率が下がりメンテナンス作業などが延期される。世界の石油化学産業のプラチナ触媒の補充需要は年間約7.8トンあり(図4)、単純計算だと年間で2割の原料が減れば1.5トンのプラチナ補充需要が失われる。
図1:中東のプラチナ需要は年間約6.2トン
図2:イラン戦争で貴金属価格は下落
注:戦争開始直前は2月27日
この紛争で自動車のプラチナ需要に影響が生じる可能性として3点挙げられる。第一に、EVの高い初期費用と電気料金の上昇を考慮しない場合の仮定だが、原油価格の上昇がエンジン車からBEVへ消費者のシフトを促すかもしれない。プラチナの需要はBEVのマーケットシェアが1%増えるごとに約0.7トン減る。
第二に、エネルギー価格の上昇はインフレにつながるため、FRBの2026年の利下げ予測は年2回からゼロになった(図5)。ローン金利が上昇すれば人々は新車購入を見送るだろう。
我々が3月に発表した『プラチナ四半期レポート2025年第4四半期』では、2026年の普通乗用車生産は前年比2%増の9,500万台と予測したが(図6)、経済状況が悪化して普通乗用車が頭打ちになればプラチナ需要は1.08トン減る可能性がある。
第三に、世界の約3割を占めるカタールのヘリウム輸出が制限されれば、2021年〜2022年のように半導体製造および自動車生産に影響が及ぶことも考えられる。
現時点では自動車と工業のプラチナ需要が減ったとしても、我々が予測しているプラチナの供給不足(7.5トン)を解消するには至らないだろう(図7)。しかし、金利上昇とドル高を背景に貴金属全体の価格が約2割下落し(図2)、3月のプラチナETF保有高は7.0トン減った(図8)ことを見ても、イラン戦争が投資家にもたらした影響は小さくはない。
中東は世界の年間プラチナ需要の2.5%
プラチナ市場にとっては、中東のプラチナ需要減少そのものよりも、戦争の二次的な影響の方が大きい可能性
投資資産としてのプラチナを支える背景:
-WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続いている。2026年は需給が均衡する予測だが、現在の逼迫した状況は改善されないだろう。
-鉱山供給はもとよりプラチナの供給には限界があるが、リサイクル供給は伸びる余地はある。
-PGMの中でもプラチナの需要分野は最も多岐にわたり、長期にわたる需要を支えられるとともに、外部要因(イラン戦争)や構造的変動(ドライブトレインの電動化)による将来の需要リスクにも耐えられる。
-リースレートの上昇とロンドン先物市場のバックワーデーションがタイトな市場を反映している。
-プラチナの価格はゴールドより大幅に低いまま。
図3:イラン戦争が始まった2月28日以来、ブレント原油価格は約6割上昇
図4:石油精製と化学産業は生産設備維持のために年間約7.8トンのプラチナ触媒を必要とする
図5:イラン戦争開始後、インフレ懸念で2026年に予想されるFRBの利下げ回数は減った
図6:イラン戦争で普通乗用車生産が減るかもしれないが、ガソリンの値上げでハイブリッド車が注目され、BEVの普及には追い風とならない可能性もある
図7:自動車と工業のプラチナ需要への影響は、4年連続で不足するプラチナ供給の完全解消には至らない
図8:イラン戦争が金利観測に与える影響で、投資家は3月にETFを一部売却
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