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ビットコインは量子コンピュータで消滅するのか?「2029年デッドライン説」の正体とは?

2026/4/14 15:00

 Googleの論文を機に「2029年がデッドライン」などの報道も過熱、量子コンピュータによるビットコインへの脅威が話題となっている。量子コンピュータの仕組み、BTCへの具体的なリスクを整理し、過度に恐れず冷静に向き合うための基礎知識を、楽天ウォレット・シニアアナリスト:松田康生、通称MATT(マット)が解説する。

目次
  1. 量子コンピュータの脅威を過度に恐れず本当の脅威を読み解く
  2. 「Googleのレポートが騒動の発端」を解説
  3. 量子コンピュータとは何か?
  4. ビットコインへの脅威とは?
  5. 量子対策、三つの方式
  6. BTCの量子対策
  7. コミュニティーの議論
  8. 令和のY2Kにすぎない?正しい理解と冷静な判断が必要

量子コンピュータの脅威を過度に恐れず本当の脅威を読み解く

 4月に入ってから、暗号資産かいわいでは、量子コンピュータの脅威が一気に話題となっている。Googleが発表した論文を受けて、イーロン・マスク氏が「ウォレットのパスワードを忘れても将来アクセス可能になるよ」とジョークを返したところ、それが「BTCは2029年がデッドラインだ」などと大げさに報じられる事態に発展した。

 なぜこんな話が広がるのか。その理由は、量子コンピュータの脅威を「なんとなく知っているけれど、きちんと理解していない」人が多いからだ。人間は見えない脅威を過度に恐れる傾向がある。

 本稿では、読者が過度に悲観的にもならず、楽観視しすぎることもないよう、量子コンピュータとは何か、何が本当の脅威で、どんな対策があるのかを、現在の状況とともにできるだけやさしく解説していく。

「Googleのレポートが騒動の発端」を解説

 今回の騒動のきっかけはGoogleのレポートだ。ビットコインの基盤となっている暗号技術を解読するのに必要な量子回路が、1,200未満論理量子ビットと9,000万演算、または1,450未満論理量子ビットと7,000万演算でつくれると示した。そしてこの回路を実際の量子コンピュータで動かす場合、必要な物理的な量子ビットは50万未満で済むという内容となっている。

 従来の推定では、1,000万前後の物理量子ビットが必要で、実現まで10年以上かかると見られていたものが、約20分の1にまで少なくできた。これにより、解読にかかる時間も最短約9分~ビットコインの平均的なブロック生成時間(10分)以内に収まる可能性が出てきた。

 これを受けて「理論上、公開された鍵情報を持つ取引がブロックチェーンに確定する前に秘密の鍵を割り出し、ビットコインを盗む攻撃が成立するのではないか」と市場に強い衝撃を与えた。

 ただ、論文に2029年という記載があるわけではなく、同社が2021年ごろに掲げた「2029年までに100万物理量子ビット規模を目指す」という目標や同社内の対策期限が蒸し返されているかっこうだ。現在、実現しているのは100量子ビット程度で、2029年という期限が独り歩きしている印象で、これも量子脅威を漠然と捉えているために過度に悲観的になる典型例だろう。

 この辺りまでの話はニュースなどで見聞きした読者が多いと思うが、論理量子ビットとは何で、物理量子ビットとは何が異なり、またBTCの何が破られるのか、ここがはっきりしないことが、多くの人が過度に恐れたり、見ないふりをしたりすることにつながっていると考える。

量子コンピュータとは何か?

 まず「量子コンピュータは何か」から話そう。高校生のころに「電波は電子という物質であり波でもある」と習ったことを覚えているだろうか。量子力学ではこれを「物質と波の二面性」と呼ぶ。従来のコンピュータは電子の物質としての性質を利用しているのに対し、量子コンピュータは波としての性質を利用する。その結果、けた違いの処理能力を持つことになった。

 この先は、興味がない、またはすでに知っているという方は、読み飛ばして、次章「ビットコインの脅威とは?」に進んでもらって構わない。

 従来のコンピュータは、半導体に電気が流れているか流れていないかの2進法で計算する。一方、量子コンピュータでは特殊な回路を極低温まで冷やして、量子をほぼ動かなくして整列させた量子ビットをつくる。

 この量子ビットは、0か1かのどちらか一方ではなく、0と1を同時に持つことができる。これを「重ね合わせ」という。

 また、量子ビット同士を特定の方法で結びつけると、ある量子ビットが0か1に決まった瞬間、遠く離れた別の量子ビットの状態も即座に関連づけられる。これを「量子もつれ」と呼ぶ。

 これらの現象は、量子の物質としての性質ではなく、波としての性質によって起きる。スタジアムのウエーブを思い出してほしい。観客一人一人が量子ビットで、座る(0)か立つ(1)かの状態を取る。量子もつれが起きていると、一人が座ったり立ったりする動きが、他の人の状態にも連動して影響を与えるようなイメージだ。

 この結果、量子ビットがN個あるとき、可能な状態の組み合わせ2のN乗の情報を同時に処理することが可能となった。

 例えば10ビットの場合、従来のコンピュータでは処理能力は1ビットの10倍程度のイメージだ。しかし10量子ビットの場合、重ね合わせのおかげで約1,000通り(2の10乗)の状態を1回の計算で同時に持てる。つまり、1量子ビットに対して約1,000倍の処理能力を持つことになる。

 量子ビットを1個増やすごとに、指数関数的に処理能力が跳ね上がる。これが量子コンピュータの決定的な強みで、BTCの秘密鍵のような途方もない計算を、現実的な時間で可能にするかもしれない理由だ。

 ただ、こうした量子ビットをつくる過程は、ほとんどSFのような世界だ。

  • 超伝導方式(Googleが主に使っているタイプ)では、機械全体を絶対零度に極めて近い温度(マイナス273℃に限りなく近い)まで冷やして動きをなくして、整列させ続ける必要がある。
  • 中性原子方式(ルビジウムなどを使うタイプ)では、原子をレーザーで冷やしてほとんど動かなくし、光ピンセットで一つずつ精密に並べる必要がある。

 また、「量子ビットを0か1の状態にする」と簡単に言うが、実際には量子のエネルギー(振動)を微妙に変えてマイクロ波を当てて操作・計測する。この過程では誤差が非常に多く発生しやすい。そのため、理論上の一つの論理量子ビットを実現するには、実際の物理量子ビットが数百個必要になるケースが普通だ。

 つまり、Googleのレポートで出てきた「50万未満の物理量子ビット」という数字は、理論上・計算上の目安ではあるが、現実の機械としてつくるのはまだ相当ハードルが高い。要は、量子コンピュータはようやく理論から現実の世界に一歩踏み出したばかりだ。古典コンピュータで言えば、巨大な電子計算機が誕生した1950年代くらいのイメージだ。

 こうした壁を考えると、「すぐ実用化されてビットコインが危ない」という話には、まだ少し時間がかかりそうだというイメージを持っていただけただろうか?

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