日本にとっても米国にとっても経済安全保障上重要な鉄鋼産業で、日本製鉄は世界トップクラスの技術力を保持しています。にもかかわらず株価はPBR約0.6倍の低評価。私がファンドマネジャーならば投資していきたいと思うものの、避けて通れない重大リスクもあり、アナリストとしての投資判断はHOLDを継続します。
日本製鉄の投資判断
USスチールの100%買収を実現し、日本製鉄はこれから米国で成長していくと予想しています。にもかかわらず、株価は株価純資産倍率(PBR)約0.6倍と解散価値といわれるPBR1倍を大幅に割り込んだ水準にあり、投資魅力は高いと思います。
私は過去25年、日本株のファンドマネジャーでした。今もファンドマネジャーならば、日本製鉄株をポートフォリオで積極的に投資していきたいと思います。
ただし、アナリストとしての投資判断は「HOLD(保有継続)」を継続します。株価ボラティリティー(変動性)は高く、投資リスクは高いと思います。投資する場合、最終的な投資判断はご自身でなさってください。
以下、日本製鉄の魅力とリスクについて、私の考えを解説します。
日本製鉄の投資魅力
以下3点から、私は日本製鉄を高く評価しています。
【投資魅力1】割安な株価、2027年3月期業績回復の期待
日本製鉄は、世界でトップクラスの技術力を有しているにもかかわらず、株価指標でみて割安と考えています。
業績は、前期(2026年3月期)はUSスチール買収に関連した特別損失が出るために赤字予想ですが、今期(2027年3月期)は黒字転換する見通しです(市場コンセンサス予想ベース)。
<日本製鉄の業績推移:2023年3月期~2027年3月期(市場予想)>
<日本製鉄の株価指標:2026年4月13日時点>
【投資魅力2】経営力
日本製鉄は過去、何度も厳しい世界的な鉄鋼不況に見舞われ、巨額の赤字を計上したこともあります。それを構造改革、技術開発、業界再編で乗り切ってきた経営力を高く評価します。
一方、日本製鉄が買収したUSスチールには、米国政府が保護すればするほど弱体化していった歴史があります。USスチールは1960年代には世界トップの製鉄企業でした。ところが1970年代以降、競争力が低下、日本にトップの座を奪われ、さらに2000年代以降は中国に追い越されその差は拡大する一方です。
米国は自国の鉄鋼産業に対して度重なる保護主義政策を打ち出してUSスチールを守ろうとしましたが、保護すればするほど高コスト体質の改善が遅れ、衰退が加速するという皮肉な結果となりました。米国トップの座も、電炉大手ニューコア(NUE)に奪われました。
ただし、日本製鉄によるUSスチール買収が実現したことにより、USスチールの真の再生がスタートすると期待しています。日本製鉄は技術導入・設備刷新してUSスチールを技術競争力のある強い会社として復活させる計画を持っています。
【投資魅力3】技術力・収益力
昔も今も、人類にとって不可欠な鉄鋼生産で、世界トップクラスの技術力を維持してきたことを、高く評価します。同じ鉄鋼製品であっても、中国メーカーが量産する汎用スチールと、日本製鉄がひも付きでトヨタ自動車(7203)などに供給する高級鋼はまったく異なる製品です。日本製鉄が自動車業界などに供給している高級鋼には、いろいろな種類があります。
【1】高張力鋼板(ハイテン材)
最も重要なのは、硬さ(引張強度)です。日鉄のハイテン材は、板厚を薄くしても強度が確保できるため、自動車の軽量化に貢献してきました。日鉄は強度1.5ギガパスカル級と、世界最高水準の超ハイテン鋼板製造技術を有します。
強度とともに重要なのは、加工性です。強度が高いほど延性・成形性が低くなりますが、それでは自動車用鋼材として使えません。日鉄は、微量元素の配合・調整・焼きなまし工程の工夫でこの課題を克服しており、門外不出の技術です。
ところで近年、鉄より硬く鉄より軽い素材として「炭素繊維」が注目されています。東レ(3402)の炭素繊維は航空機に使われるほか、自動車の車体にもトライアルとして使われています。ただし炭素繊維は高額で加工が難しく自動車で本格的に使われる見通しはたちません。自動車向け高級鋼として日鉄の超ハイテン鋼への需要はこれからさらに高まると考えられます。
【2】冷間プレス用高張力鋼板
日本車の競争力を支える重要素材。常温で鍛造する冷間プレスは、高精度の自動車部材の生産に不可欠。日本の自動車メーカーは、冷間プレスを多用。ホットスタンプ工法を使うことが多い欧米自動車メーカーに対する差別化となっています。ただし、この鋼材は製造が難しく、日鉄などの独自技術となっています。
【3】電磁鋼板
電動化が進む自動車産業において重要性を増している素材です。電磁鋼板は薄いほど内部に渦電流が流れにくくなり性能が向上します。日鉄は、ハイブリッド車や電気自動車の電動モーターに使われる0.5~0.35mmという極めて薄い電磁鋼板を製造しています。
21世紀に入り、中国による無秩序な鉄鋼大増産によって鉄鋼の国際市況が下落して深刻な鉄鋼不況が起こりました。2014年ごろ、中国の国営企業は赤字でも補助金を得て増産を続けたため、過剰供給に歯止めがかかりませんでした。その影響で世界中の鉄鋼会社が赤字になった時も、日本製鉄(当時の社名は「新日本製鉄」)は相対的に堅調な業績を維持しました。
中国企業と競合する汎用品が少なく、競合の少ない高級鋼主体の生産とした効果が出ました。トヨタ自動車(7203)などにヒモ付き(生産する前に販売先・納入先が決まっている取引)で生産・販売することで、中国増産の影響を直接受けずに済みました。
ただし、それでも世界的に鉄鋼市況が暴落した時は、ヒモ付き価格も不当に低く据え置かれたため、収益的に厳しい状況が続きました。
近年、中国による鉄鋼の無秩序増産は抑えられるようになり、ヒモ付き価格の値上げも通るようになりました。その効果で、2023年3月期に日本製鉄は最高益を更新しました。
2024年以降、また中国企業の過剰生産で、鉄鋼の世界市況は下がっています。その影響で、USスチールなど米国企業は赤字に転落しています。日本製鉄も2026年3月期の業績は悪化が続いています。それでも相対的には堅調な業績を保っています。
日本製鉄PBR0.6倍、割安の理由。門外不出の最高技術でUSスチール再生?重大リスクも(窪田真之)
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