投資家を含む市場関係者の一部では、現在も、金価格が上昇すると株価が下落していると認識されています。しばしば、金価格が上昇するシナリオを述べると「物騒なことを言うな」という趣旨の、やんわりとしたお叱りをいただくことさえあります。本レポートでは、物語(ナラティブ)に左右されない、現代の金相場の本当の姿に迫ります。
株安でも金(ゴールド)安が起きている
図1は、S&P500種指数(月間平均)の推移を示しています。グレー(灰色)の帯は、価格が比較的大きく下落したタイミングを示しています。○○危機や、△△ショックなどと呼ばれた急落時です。
図1:S&P500の推移(月間平均)と10度のショック
また、欧州債務危機・米国格下げショックは2011年5月から2011年10月まで、チャイナショックは2015年5月から2016年2月まで、コロナ・ショックは2020年2月から2020年3月まで、インフレ・利上げショックは2022年1月から2022年10月まで、トランプ関税ショックは2025年2月から2025年4月まで、イラン戦争ショックは2026年2月から2026年3月(継続中)まで、だといえます。
図2は、こうした1980年以降の10度のショック・危機と呼ばれた価格急落時の、S&P500、そしてニューヨークの金(ゴールド)先物の騰落率を示しています。
図2:S&P500の10度のショック時の騰落率(NY金先物とともに 月間平均ベース)
2010年ごろ以前は、株安(S&P500下落)時に、金(ゴールド)高が目立っていましたが、それ以降は、金(ゴールド)相場がそれほど上昇しない、あるいは株とともに下落する動きが目立っています。
おおまかには、2010年ごろ以前は、株の急落時に金(ゴールド)価格が上昇する傾向があったといえますが、それ以降は、この傾向が低下しているといえます。
株高でも金(ゴールド)高が起きている
図3は、S&P500における危機・ショック期以外の、タイミングを示しています(赤の帯)。
図3:S&P500の推移(月間平均)上昇・堅調期(ショック期以外)
図4は、こうしたS&P500における危機・ショック期以外のS&P500、そしてニューヨークの金(ゴールド)先物の騰落率を示しています。
図4:S&P500の10度の上昇・堅調期の騰落率(NY金先物とともに 月間平均ベース)
2010年ごろ以前は、しばしば、株高(S&P500上昇)・金(ゴールド)安が起きましたが、それ以降は、ほとんどのタイミングにおいて、株と金(ゴールド)が同時に上昇しています。
おおまかには、2010年ごろ以降は、株高と金(ゴールド)高が、ほとんど同時に進行してきたといえます。
金(ゴールド)高は株安の原因ではない
先ほどの、図2、4を踏まえると、2010年ごろ以降、金(ゴールド)はほとんどのタイミングで上昇し続けてきたことが分かります。
「長期視点」では、2010年ごろ以降、株が上昇しても下落しても、金(ゴールド)相場は上昇してきたといえます。図5がこのことを示しています。
図5:S&P500とNY金(ゴールド)先物の価格推移(月間平均)
S&P500と金(ゴールド)の相関係数は、1980~2009年が「0.19(ほぼ無相関)」、2010~2026年(3月まで)が「0.82(比較的強い相関)」でした。2010年以降、株と金(ゴールド)が同時に上昇してきたことが分かります。このことは、必ずしも金(ゴールド)高が株安の要因にならないことを示しています。
図5に示したとおり、株と金(ゴールド)の値動きの関係に劇的な変化が生じたタイミングは、2010年ごろだったといえます。ここで重要なキーワードは、「エビデンス(証拠)」と「ナラティブ(物語)」です。
相違点は複数ありますが、共通点もあります。「人々の行動のきっかけ」です。エビデンス(証拠)が明示されていたり、美しくワクワクするナラティブ(物語)が添えられていたりする商品の売り上げは、そうでない商品に比べて大きくなるといわれています。
消費者の心理を「エビデンスがしっかりしているから信頼できる」「ワクワク感が生じて購入後が楽しみになった」などの状態に誘引することにより、売り上げ増加が期待されます。こうした消費者の特性を逆手に取り、多くのマーケターやコンサルタントらは、日夜、エビデンスを用意したり、ナラティブを創造したりしています。
図6:エビデンスとナラティブについて
「長期視点」では、図2、4、5で確認したとおり、2010年ごろ以降、「株と金(ゴールド)は逆相関」という通説は、直観的には伝わるものの、数値・事実を伴わない物語(ナラティブ)になっている可能性があります。
たしかに、「株と金(ゴールド)は逆相関」というナラティブ(物語)は、直感的に伝わりやすく、図2で示した2010年ごろ以前に見られた、株が急落している時に金(ゴールド)が急騰していた様子は、「金(ゴールド)は株のマイナスを補完する立役者」というナラティブ(物語)を生み、今でも一部に根強く残っています。
とはいえ、2010年ごろ以降、金(ゴールド)が、株が上昇しても下落しても、長期上昇トレンドを演じていることを考えれば、2010年ごろ以前にできたナラティブ(物語)に頼った分析は、通じにくくなっていると言わざるを得ません。
もともと、エビデンス(証拠)とナラティブ(物語)は、対立関係ではなく補完関係であることを考えれば、金(ゴールド)相場の分析においては、「エビデンス」の要素を大きくし、エビデンス(証拠)とナラティブ(物語)を併用することが望まれます。
エビデンスとナラティブ「金(ゴールド)」の本当の買い方(長期投資編)
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