米国・イスラエルがイランを奇襲して1カ月。私はこの間、まずリスクポジションを削減、次に、不安をあおる最悪シナリオ論調にあおられないよう、そこに至る時間的距離、政策対応を頭に入れ、米国が早期停戦を模索する段階を想定しての構えをするようにガイドしてきました。ここまでの展開を整理し、ここからの構え方をアップデートします。
サマリー
●トランプ米大統領は早期停戦を模索し始め、イランと協議する条件を提示
●事態収束の前には、米国の攻撃がエスカレートし、その上で停戦か、泥沼化かのシナリオ分岐も
●最悪シナリオを念頭に置きつつも、早々に投資を再開できる希望的観測シナリオにも備えを
停戦か、泥沼か
米・イスラエルの対イラン奇襲で始まった戦争は1カ月になります。トランプ大統領は、インフレとリスクオフの株安が支持率低下をもたらしつつある中、早期停戦への条件をイランに提示しました。しかし、この原稿を書いている時点でイランは停戦協議を拒否しています。
米軍は着々と中東湾岸近くに軍艦と戦闘員を集結させています。イランとの協議への脅しともいえるし、協議が不調なら、トランプ大統領が攻撃拡大へ態度を変える可能性を誰も排除できないでしょう。停戦か、泥沼か、その中間のどこかで落ち着くのかは分かりませんが、最初の分岐点に来ているといえます。
戦争の行方について、大きな不確実性は相変わらずです。この状況下で市場は、米側、イラン側それぞれの発言に、原油相場の上げ下げに、石油・天然ガス関連施設への攻撃ニュースにいちいち過敏に反応し、乱高下します。合理的な予想が通用する場面ではないことは明らかです。
<図1>原油相場 3月9日の急騰
想定不能の有事相場という、極端に高いリスク場面で、あえて投資をする必要はなく、むしろ投資のリスクポジションを減らすことこそが、基本対応でもあります。
ただし、相場が極端に下落した場合、停戦・休戦の可能性が浮上する時には、投資の好機になり得ることも確かです。あらかじめリスクポジションを減らしておくのは、損失回避という目的と同時に、好機を逃さないための備えでもあるのです。
有事1カ月の論点
私はトウシルにおいて、3月12日公開の動画、13日公開のレポートで、有事相場が直面し得る3大リスクとして、原油急騰、AIバブル(?)、プライベートクレジット問題を解説しました。これらは、個々別々のリスクであると同時に、思わぬ形で連鎖するかもしれない重大事案となっています。
▼あわせて読みたい
2026年3月13日:世界市場と米国・日本株 今そこにある「三大リスク」
3月19日の動画では、原油高がスタグフレーション(高インフレと景気悪化の並走)という最悪シナリオへの距離感と、トランプ大統領がおそらく望み始めるであろう早期停戦という(一応)最善シナリオへの構え方を考えました。
今回は、ここに至るまでの市場の反応を確認し、投資家として、今ここからの構え方をアップデートします。なお、毎回付言しておりますが、戦争という悲劇で相場を語ることを不謹慎に思われる読者がいるかもしれません。しかし、私は、資産の安全を守るリスク管理と、好機を捉えるストラテジーを職務とするプロです。ご容赦ください。
各市場の動き
米国株:有事のリスクオフ下で、株は下落しました。戦況が不透明な中、米・イラン双方の要人発言、戦況ニュースに原油価格、そして米国債金利がどう動くかで、株式相場は、不安をあおられて下落したり、安堵(あんど)して反発したり、を繰り返しました。
もっとも、リスクオフ環境にしては、底堅かったともいえます。背景では、原油先物が期近決済物で乱高下する一方、6カ月後、12カ月後では比較的低位での上昇にとどまり、短期停戦シナリオに期待を残す心理がうかがわれました。
有事対応でポジションの削減やヘッジをせざるを得ないプロを横目に、個人投資家が原油相場の小康を見て、押し目買いに出ては、売り逃げも早い振る舞いで、相場に小刻みな波乱をもたらしています。テクニカルな売りの連鎖が、相場なだれを引き起こしていないことはヤレヤレではあります。
日本株:米国株の控えめな下げ、今有事のドル高による円安は、戦争開始からしばらく、日本株にも底堅さをもたらしました。日本は中東産原油への依存度が高いものの、ホルムズ海峡閉鎖、供給途絶のリスクについて、よく分からないので高をくくっていたともいえます。
しかし、やがて、石油・天然ガス関連施設への攻撃、ホルムズ海峡封鎖の可能性が見えてくると、場面場面で、日本株相場も急落しています。ただし、日本でも、プロの手控えを横目に、個人の押し目買いは旺盛なようで、相場はほどほどにサポートされています。
<図2>米日バフェット指標(=その国の株式時価総額÷名目GDP)
為替相場:米国は、圧倒的な軍事力ばかりでなく、中東産燃料に依存しない産油国の強みもあって、ドル高になっています。原油高が米国内のインフレに波及するリスク、軍事支出増大による財政赤字懸念を映す米金利高もまたドル高を促しています。
ユーロをはじめ主要通貨は、産油国のノルウェーやカナダの通貨を除くと、ドルに対して下落しています。一方、戦争前まで続いたドル軟調局面に活気づきやすい、政治経済が程良い高金利新興国通貨が、ブラジル、メキシコなど原油輸出国でも、有事のリスク削減で反落しました。その後、時間の経過とともに、これら原油輸出国通貨は底堅さを見せています。
円は対ドルで下落し、原油高に弱いからという悲観めいた論調が少なくありません。しかし、上述の高金利新興国通貨を買う時に、実質金利の低さゆえに売り通貨にされたため、それら新興国通貨の巻き戻しに際して、円買いが発生。結果として、主要通貨間で特に下落しているわけではありません。ユーロと同程度、有事に強いはずのスイスフランよりは底堅さを保っています。
安全資産:有事ショックに際しては、リスク資産である株が売られて、安全資産である金、国債、為替市場ではスイスフランなどが、避難する対象として買われやすいというのが基本的理解です。しかし上述のようにスイスフランも、金も、国債も売られています。これは、中東有事が原油高リスクを高めることが一因です。
金は究極の安全通貨であり、国際基軸通貨ドルのライバルです。原油高によるインフレ懸念が米金利を押し上げ、ドル高になると、そのあおりで圧迫されているのです。
また、金は、長期保蔵の安全資産として買われてきたばかりでなく、最近は相当に投機マネーが殺到していました。それが2025年11月初め、2026年1月末に巻き戻しの相場なだれを起こし、金投資家は不安定な状態にあり、中東有事のリスクオフに過敏になっています。
米国債は、ひどい景気悪化で、インフレが低下する有事なら、安全資産として買われます。しかしインフレ高伸リスクを招く中東有事で、米軍事支出が増大しそうな事態では、売られやすくなります。こうして見ると、買えそうな資産が見当たらないのが、中東有事の悩ましさです。
原油相場やエネルギー関連株は場面場面で上昇します。しかし、戦況次第で、非常に激しく乱高下しやすい、すなわちリスクが高い相場になります。よほどのリスク愛好投資家でもない限り、なかなか手を出しにくいでしょう。
米国・日本株と世界市場:早期停戦か泥沼化か、第1分岐点間近
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