イラン情勢の悪化を受け、原油価格が高止まりしています。多くの投資家の皆さまの間では、中東といえば「原油」を連想する方が少なくないと思います。今後は、原油のほか、「肥料」も連想するとよいように思います。イラン情勢の悪化が、食品価格高に拍車をかける可能性があります。
肥料価格は原油価格に追随する傾向あり
以下の図は、世界全体の肥料価格の動向を示す「肥料価格指数」と、原油相場の動きを示しています。二つの価格の動向は似通っています。
図:肥料価格指数(世界全体)と原油相場(年平均)(2025年まで)
1980年ごろと、2010年ごろに、長期視点の底上げが起きたことを確認することができます。長期視点の劇的な均衡点の変化である「パラダイムシフト」です。
肥料のうち「化学肥料」については、鉱物や窒素ガスなどの自然界の無機物を化学的に合成して作っています。このため、原油をはじめとした天然ガスなどの化石燃料と密接な関係があります。
また、産油国などで生産された化学肥料だけでなく、有機肥料を含んだ肥料全般を輸送する際にかかるコストにも原油が関わっています。これらの点が、肥料価格と原油価格が似る理由であるといえます。
図:肥料の種類など
肥料の三要素である「窒素(N)」は、植物(特に葉)の成長を、リン酸(P)は開花や結実を、カリウム(K)は根の発育を促すとされています。農産物の生産量を効率よく増やすために用いられている肥料は、現代社会に欠かせない品目です。
肥料供給の大動脈でもあるホルムズ海峡
図は、化学肥料の主な原材料であるリン酸水素二アンモニウム(DAP)、重過リン酸石灰(TSP)、尿素、塩化カリウム、リン鉱石の価格推移を示しています。先ほど確認した世界全体の肥料価格指数や、原油相場の動向と同様、1980年ごろと2010年ごろに、長期視点の底上げが起きています。
図:化学肥料の原材料の価格 単位:ドル/トン
これらの化学肥料の主な原材料の価格動向と、原油相場が密接な関わりがあることから、今後、原油相場が高止まりした場合は、これらの原材料価格も高止まりする可能性があります。
目下、イランを取り囲む中東情勢においては、激化の一途をたどり、鎮静化の兆しが見えません。鎮静化の兆しが見えないことは、世界の石油供給量のおよそ2割が通過するホルムズ海峡の封鎖が解かれるタイミングが、なかなか到来しないことを意味します。
ホルムズ海峡については、原油やそれを原材料とするさまざまな石油製品の価格や供給状況が関わっていると、多くの市場関係者が認識していますが、本レポートで述べている肥料についても、大変に密接に関わっています。
図は、世界全体の肥料輸出額のおよそ36%(2024年)を占める窒素肥料の輸出国と、ホルムズ海峡を通じて貿易を行っている中東の8カ国から同肥料を輸入している国の割合です。いずれも、世界各国の貿易統計をとりまとめているThe Observatory of Economic Complexity(OEC)のデータを参照しています。
図:窒素肥料の輸出国とホルムズ海峡関連中東8か国からの輸入国(2024年 米ドルベース)
窒素肥料輸出のおよそ21%を、ホルムズ海峡を通じて貿易を行っている中東の8カ国が担っています。原油をはじめとした天然ガスなどの化石燃料が、化学肥料の原材料になるケースがあるためです。
ホルムズ海峡封鎖が長期化すれば、主な輸出先であるインド、ブラジル、オーストラリア、米国、タイなどの世界屈指の農産物生産国において、生育を効率よく促す窒素肥料の供給が減少する可能性があります。
このことは、こうした農産物大国において農産物の生産量が大きく減少するきっかけとなり、引いては世界全体の農産物需給を引き締める要因になり得ます。
生産効率向上は世界の食料供給の生命線
図は、世界三大穀物といわれる米、トウモロコシ、小麦の生産量、収穫面積の合計を示しています。およそ半世紀前の1975年と2025年を比べると、生産量の合計は約2.9倍、収穫面積の合計は約1.2倍になりました。
図:世界三大穀物の生産量と収穫面積の推移(世界全体)
生産量も収穫量も増加しましたが、増加の規模が異なります。生産量は大幅増加、収穫面積は微増です。収穫面積が微増の中、生産量が大幅に増加した背景に、生産効率の向上が挙げられます。
農産物の生産効率を示す「単収(イールド、一定の面積における生産量)」を確認すると、次の図のとおり、トウモロコシも米も小麦も大きく増加しています。収穫面積が微増でも、単収が大きく増加すれば、生産量は大きく増加します。
図:世界三大穀物の単収の推移(世界全体) 単位:トン/ヘクタール
主食となり炭水化物を提供し、世界中の人々の活動のエネルギー源となっている穀物の生産量の増加は、単収の増加によってもたらされたと言っても言い過ぎではありません。
では、その単収の増加は、どのようにして実現したでしょうか。かんがいや耕作、品種改良など、農業に関わるさまざまな分野で起きた技術革新、そして、化学肥料の使用があったことで、単収の増加を実現できたといえます。化学肥料の使用なくして、世界の農業は成り立たなくなっているといえます。
この点からも、ホルムズ海峡が封鎖され、世界屈指の農業生産国に窒素肥料などの化学肥料が行き渡らなくなることで、世界の食料供給・食料価格に大変に大きな影響が及ぶことが想像できます。
すでに世界は全体として「食料不足」
図は、世界の人口推移とその見通しです。国連の見通しによれば、世界の人口は2080年代にピークを迎えるまで、増加し続けます。
人口の増加は、食料需要の増加を強く連想させます。単に食料を口にする人が増えるという数の面だけでなく、一人当たりの食べる量が増えるという質の面の需要増加も想定されるためです。
特に今後、新興国の経済発展が進めば、数と質の両面で世界的な食料の需要増加が起きると考えられます。
図:世界の人口推移・見通し(国連のデータ) 単位:10億人
世界全体の食料の供給については、今後のことだけでなく、まさに今、深刻な食料不安に直面している人が多数いることにも注目する必要があります。
国連食糧農業機関のデータによれば、2024年時点で世界の人口のおよそ1割にあたる8億人を超える人々が、食料不安に直面しているとされています。
図:世界の深刻な食料不安のある人々の数(億人)(年間値)
足元、世界全体として食料が足りない状況が発生しており、そして今後、世界的な人口増加に伴い、食料が足りない状態が拡大することが予想されます。
中東情勢悪化で食料価格高止まりは長期化
図は世界全体の食料価格の動向を示す食料価格指数(世界全体の食用油・かす、穀物、その他食品の価格をまとめた指数)です。
冒頭で、肥料価格指数や原油相場において、長期視点の底上げしたことを確認しました。この食料価格指数も、1980年ごろと2010年ごろに、長期視点の底上げが起きました。
肥料価格指数の底上げは、多数の品目にわたる農産物の生産コストを底上げし、直接的に農産物価格を底上げします。原油相場の底上げは、輸送、燃料、各種素材などの価格を底上げし、間接的に農産物の価格を底上げします
図:食料価格指数(世界全体)
また、食料価格指数の動向に影響を与える要因は、肥料や原油の価格動向だけではありません。
食料自身の要因である、世界人口増加(食用・畜産用需要増)という1980年の以前から存在する要因のほか、食文化欧米化(一人あたり食料需要増)、農産物需要多様化(脱炭素向け需要増)、異常気象多発(供給減少リスク増)、資源武器利用増(供給減少リスク増)、投資マネー増(価格振幅増)などの2010年ごろから目立ち始めた要因もあります。
もともとあったこうした構図に「ホルムズ海峡封鎖」が上乗せされたというイメージです。ホルムズ海峡封鎖は原油や石油製品だけの問題ではありません。世界全体の食料価格の高騰に拍車がかかれば、日本を含め一国の物価動向に強い影響が生じます。
高い視座から広い視野で、「ホルムズ海峡封鎖」を見守る必要があります。
[参考]農産物関連の投資商品例
国内個別株・ETF
丸紅
WisdomTree 農産物上場投資信託
WisdomTree 穀物上場投資信託
WisdomTree 小麦上場投資信託
WisdomTree とうもろこし上場投資信託
WisdomTree 大豆上場投資信託
外国株・ETF
ディアー
コルテバ
ニュートリエン
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド
ブンゲ・グローバル
ヴァンエック・アグリビジネスETF
インベスコDBアグリカルチャー・ファンド
国内商品先物
海外商品先物
商品CFD
原油連動の「肥料ショック」で食品価格高、世界インフレは加速
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