生成AIがソフトウェア産業の打撃となる可能性が指摘されている。アンソロピックの最新型「クロード」がソフトウェア産業とマイクロソフト、アマゾンのような投資家に与える影響に注意する必要があろう。一方、アルファベットでは生成AI「Gemini」をAI検索に導入したことが検索広告の伸びに寄与している。アルファベットの目標株価を維持する。
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著者の今中 能夫が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「生成AIとソフトウェア産業:生成AIはソフトウェア産業を破壊するのか。アルファベットに注目したい」
本レポートに掲載した銘柄:アルファベット(GOOGL、GOOG、NASDAQ)、マイクロソフト(MSFT、NASDAQ)、アマゾン・ドット・コム(AMZN、NASDAQ)、メタ・プラットフォームズ(META、NASDAQ)、パランティア・テクノロジーズ(PLTR、NASDAQ)
1.アンソロピック・ショック
1)2025年11月にアンソロピックがクロードの最新版を発表した。
生成AI開発会社の中でもオープンAIに次いで2番目に大きい「アンソロピック」が注目されています。
アンソロピックは生成AIの中でもソフトウェアを開発する際のコーディング(仕様書をもとに、コンピュータへ動作命令を記述すること)でトップの評価を得ており、コーディングに特化した生成AI「Claude(クロード)」の開発、販売を行っています。プログラミング、ソフト開発を行っている人たちの多くがクロードを使っています。ChatGPTやGeminiでもコーディングの自動生成はできますが、クロードのほうが高い評価を得ています。
このアンソロピックが2025年11月にクロードの最新型「Claude Opus 4.5」を公開しました。性能面で従来型を上回るだけでなく、企業向けAPI価格を従来の3分の1に値下げしました。次いで、2026年1月に新サービスとしてエージェント型AI「Cowork」を発表しました。法務、財務などの関係書類、分析資料などの作成を自律的に実行するものです。このCoworkがSaaS(Software as a Service、ソフトウェアをインターネット経由で配信する)のビジネスを奪うのではないかと言われ、SaaS各社の株価が下落しました。これが「アンソロピック・ショック」です。
さらに2月には、アンソロピックは「Claude Code Security(クロード・コード・セキュリティー)」を発表しました。これは、コードベースを解析してセキュリティー上の脆弱(ぜいじゃく)性を特定し、的を絞ったソフトウエアパッチを提案するもので、人間が確認することを前提にしています。現時点では限定的な研究プレビューとして提供していますが、一般販売されれば既存のサイバーセキュリティ企業にとって直接の脅威になると思われます。
グラフ1 世界のSaaS市場
2)クロードの何が問題なのか
アンソロピックが開発した「Claude Opus 4.5」と「Cowork」は高い能力を持っており、プログラミングやソフト開発の多くが自動化されます。素人でもソフト開発ができてしまうと言われており、これが既存のソフトウェア産業に大きな打撃を与えるのではないかという懸念が株式市場で発生しました。そのため、セールスフォース、サービスナウ、アドビ、IBMなどのSaaS(Software as a Service)、システムインテグレーターの株価が1月以降大きく下がっています。
実はクロードの顧客にはSaaSを含むソフト会社、システムインテグレーターが数多く含まれていると思われます。クロードの最新版はそれら既存顧客の開発現場に大きなメリットをもたらすと思われます。
ところが、クロードはあまりにも出来が良いため、小人数でもソフト開発が可能になってしまいます。このため、SaaS、システムインテグレーター各社にとっては競争相手が増えることになってしまいます。
また、SaaSやシステムインテグレーターの顧客である一般企業が、自社開発でこれまでより効率的によいシステムを開発することも可能になります。
この場合、「効率的」なシステムを構築できるならば、AIを使ったシステムを構築して動かす際に価格が高いAI半導体を使う必要がなくなる可能性もあります。大手クラウドサービスのAI半導体を借りる必要がなくなるかもしれないということです。
一例をあげるとパランティア・テクノロジーズのAIを使った意思決定支援システムです。パランティア・テクノロジーズのシステムは、米軍や米国の民間企業から人気ですが、多くのシステムがAI半導体を使わず、CPUで動くため、インフラコストが大幅に安いと思われます。
このような動きが、SaaS、システムインテグレーター、一般企業のソフト開発の現場で行き渡った場合、SaaS、システムインテグレーターの企業の規模、数が縮小し、多くのソフト開発者が失業する可能性があります。ソフト開発は各種のソフトウェア、開発ツール、ハードウェアを使い、波及効果も大きいため、経済が悪化する可能性があります(米国には400万人以上のソフトウェアエンジニアがいます)。
一般企業が自力でソフト開発を行う場合は、システムトラブルやサイバーセキュリティの問題が発生した時に、従来は頼っていたSaaSやシステムインテグレーターが弱体化して頼れなくなったときにどうするのかという問題もあります。
またアンソロピックにとっては、世の中が不況になれば、クロードを買わない人たちも出てくるかもしれません。
2.生成AIの開発は行き過ぎなのではないか。
クロードの一連の新製品は発表されたばかりなので、実際の影響はこれから確認されることになります。
ただし問題なのは、クロードの新しい製品群が、アンソロピックの顧客、SaaS、システムインテグレーター、大手クラウドサービスの事業を縮小させ、経済を悪化させる可能性があるということ、大手ITの中ではマイクロソフト、アマゾン・ドット・コムがこのマイナス影響を受けると思われますが、この2社とエヌビディアは、大手生成AI開発会社であるオープンAI、アンソロピックの大口投資家であるということです。自社の事業に対してマイナス影響を与えるかもしれない投資先に大口の投資を行ったわけですが、投資を縮小することは、オープンAIやアンソロピックの競争力を削ぎ、投資先の価値を減ずることになりかねません。
通常ソフト会社は、SaaSであれ、売り切り型のソフトであれ、最初から完璧なソフトを開発、販売はしません。不完全なソフトをロードマップを作って段階的に性能を上げるやり方をします。開発費を確保するためには、まず会社が黒字であることが重要です。従って開発費はほどほどにします。大きな開発費を使って完全なソフトを作って、顧客が1回その完全なソフトを導入し、更新も保守もいらないとなってしまうと、ビジネスとして困るのです。
ところが、オープンAIやアンソロピックは、最初から巨額資金を投じて高い性能をもつソフト(生成AI)を作ろうとします。これがChatGPTのような生成AIなら競争があるため、世の中にマイナス影響を与えるソフトはできにくいかもしれません。しかし、アンソロピックは企業向けソフトであるクロードに開発を集中し、年間で数兆円と思われる開発費を投じているため、顧客に対しても悪影響を与えかねない完成度の高いソフトを開発してしまうのでしょう。
ちなみに、SaaS大手でCRMトップのセールスフォースの2025年1月期の営業費用(売上原価に研究開発費を含む販管費を加えたもの)は307億ドル(円換算で約4.7兆円)、業務管理ソフト大手のサービスナウの2025年12月期の営業費用は115億ドル(同約1.8兆円)です。アンソロピックの業績は不明ですが、2026年2月時点での報道によると年間換算売上高(ARR)が140億ドル(約2兆1,000億円)で赤字と思われます。赤字の額は数千億円から1兆円を超えていると思われるため、開発費を含む営業費用は年間2兆円以上と推定されます。これが主にクロードの開発とインフラ整備に充てられていると思われます。
セールスフォース、サービスナウやマイクロソフトは、上場企業なので黒字が求められます。しかし、アンソロピックは未上場企業であり、巨額の資金を得ているため、上場企業のような事業規律を求められているわけではありません。これでは、上場しているSaaS等のソフト会社は大手生成AI開発会社が注力している分野では敵いません。
ある程度時間をかけてソフトウェア産業のような特定産業の中身が業態転換することは、これまでもありました。しかし、その動きがあまりにも急速であれば、その産業だけでなく経済全体に対して悪影響がでる可能性があります。高性能生成AIがソフト産業だけでなく、経済全体に与える影響を注視する必要があります。
生成AIとソフトウェア産業(生成AIはソフトウェア産業を破壊するのか。アルファベットに注目したい)
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