2025年は日本の「ステーブルコイン元年」

 2025年10月、日本のステーブルコイン業界にとって待望のイベントがありました。国内初の日本円建てステーブルコイン「JPYC」の発行が始まったのです。JPYCは日本円と1対1で連動するトークンとして設計され、国内の預金や日本国債を裏付け資産に持つ形で発行されています。

 発行体であるJPYC社は、今後3年で約10兆円規模の発行残高を目指すと明言しており、企業決済や国際送金、Web3サービスの支払い手段としての活用を視野に入れています。

 2025年のもう一つの大きな動きとして、国内大手金融機関によるステーブルコイン発行プロジェクトの動きが加速しました。三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループのメガバンク3行が共同で円建てステーブルコインの実装に向けた検証を進めるプロジェクトを開始。金融庁も後押しする姿勢を示しました。

 従来の銀行インフラをブロックチェーン技術に結び付ける試みとして注目されており、将来的な法人間決済や国際送金の効率化につながる可能性が大いにあります。

 円建て以外では、3月にSBI VCトレードが米ドル連動型のUSDCの取り扱いを開始した事例も出ており、日本市場における世界主要ステーブルコインの正式な流通が進んでいます。

 まさに2025年は日本における「ステーブルコイン元年」となりました。2026年はこの流れが加速すると考えます。

なぜ日本は米国に出遅れたのか

 そもそも、ステーブルコインは、米国を中心にすでに大きな市場を築いてきました。法定通貨と連動した価値の「安定性」とブロックチェーンの「利便性」を併せ持つデジタル通貨として、個人から法人まで幅広い層に利用されています。

 暗号資産の価格変動リスクを抑えつつ、高速・低コストな決済や送金を実現できる点から、投機対象ではなく、次世代決済手段としての注目度も高まりつつあります。グローバルな市場規模は、2020年初頭の数十億ドルから2025年には3,000億ドルほどまでに拡大。米国が大きなウエートを占め、市場拡大をけん引しています。

 日本が米国に遅れを取った理由は、法規制の違いが大きいと考えます。

 米国では、民間企業主導でステーブルコインが普及してきました。

 USDT(テザー)やUSDCといった米ドル連動型ステーブルコインは、暗号資産取引の基軸通貨として機能し、ブロックチェーン上で展開される金融サービスである分散型金融(DeFi=ディーファイ)や、非代替性トークン(NFT)などの決済インフラとして広く使われています。

※DeFi…銀行や証券会社のような中央管理者を介さず、ブロックチェーン技術などを用いて暗号資産の貸し借り、取引、資産運用などの金融サービスを直接提供する仕組み

※NFT…ブロックチェーン技術を用いてデジタルデータに所有証明書を付与する仕組み

 特にUSDCは準備資産の透明性や規制当局との対話を重視し、企業決済や金融機関との連携を進めています。米国市場の特徴は、イノベーションのスピードを優先し、実装を先行させながらルール整備を進めた点にあります。

 一方、日本におけるステーブルコインは、制度整備を先行させた上で慎重に社会実装を進めるアプローチが取られています。2023年施行の改正資金決済法により、ステーブルコインは「電子決済手段」として明確に定義され、発行主体は銀行、資金移動業者、信託会社に限定されました。

 これは利用者保護と金融システムの安定を重視した枠組みで、無秩序な拡大を防ぐ一方で、普及スピードでは米国に大きく後れをとりました。

 スピード重視の英米法と慎重な大陸法の違いが最も大きかったのではないかと考えます。

国内ステーブルコイン市場の見通し~強みと伸びしろは?

 そのような日本ですが、今後、ステーブルコインが「デジタル円的機能」を部分的に担う存在として定着することが期待されています。キャッシュレス(非現金)決済がようやく4割に到達しましたが、世界と比べますと日本は現金志向が依然として強いままです。

 そのため、企業間取引や国際送金の分野では、海外子会社への資金移動や貿易決済における為替・送金コストの削減において、円建てステーブルコインが果たす役割は大きいでしょう。銀行や商社、製造業などが実証実験を重ねている背景には、こうした実務上のニーズがあります。

 さらに、日本は資金決済法など法制度が明確なため、海外投資家やグローバル企業にとって「信頼できる市場」になり得えます。米国では規制の不確実性が依然として残る中、日本はルールが明文化されているため、長期的な事業計画が立てやすいメリットはあります。こうした堅実な姿は、金融機関や大企業が本格参入する際の心理的ハードルを下げる要因となります。

 暗号資産との関係でも、ステーブルコインはビットコインなどを駆逐する存在ではありません。価値保存や希少性などが意識されて価値が大きく動く暗号資産と、決済・会計単位を担うステーブルコインは相反する存在です。両者の役割分担が明確化していくことで、市場全体の安定性が高まると考えます。

 総じて、米国がスピードと革新性で市場を拡大してきたのに対し、日本は制度と信頼性を軸に、実需に根差したステーブルコイン市場を形成しつつあります。

 中長期的には、企業決済や国際送金、デジタル証券決済といった金融インフラ分野で、日本市場が独自の存在感を発揮する可能性は高いと考えます。ステーブルコインは、「慎重だが持続性のある金融革新」を象徴するテーマとなり、今後も成長性が楽しみな存在になるでしょう。