国際エネルギー機関(IEA)は毎年水電解装置プロジェクトの見通しを発表しているが、2025年度のデータには状況が変化している様子が現れている。最大の変化は2030年までに設置予定だった水電解装置プロジェクトで稼働時期が2030年以降に延期されたものが増えたことと、技術面ではアルカリ型電解装置へ少しずつシフトしていることだ。

 これを受けて、我々は昨年発表した2026年から2030年の水電解装置のプラチナ需要予測を12%減らし、2030年代終わりには年間5.3トンになると予測を変更した。

 IEAの水素生産プロジェクトデータベースは世界各国の稼働中及び計画中の水電解装置プロジェクトを網羅しており、毎年更新される。2024年度と比較した2025年度のデータの主な変化は、

  • 2024年までに稼働が開始される予定の水素プロジェクトの総数は9%増えた(図3)。
  • プロジェクト数の増加のおかげで累積水電解能力は8%(図4)増えたが、
  • プロジェクトの平均規模は1%縮小。

 IEAのデータベースを見る限りは水電解プロジェクトに対する意欲は衰えていないようだが、グリーン水素の前途はコスト高、法規制の行方、インフラの制約など課題が多い。そこで我々はIEAのデータベース上にあるプロジェクトに対し、実際に稼働に至るまでの可能性を表す成功確率係数を適用している。

 プロジェクトの進捗段階が初期にあるほど(例えば建設段階にあるプロジェクトに対し、まだ考案段階にあるプロジェクトなど)稼働に至る確率は低くなると考えられる。

図1:プロジェクトの延期によって足元の電解能力は低下するが、長期的には電解能力の増加で相殺される

図1:プロジェクトの延期によって足元の電解能力は低下するが、長期的には電解能力の増加で相殺される
出典:IEA、WPICリサーチ

図2:PEMによるプラチナ需要は足元で減るが、延期されたプロジェクトが稼働するに伴って回復

図2:PEMによるプラチナ需要は足元で減るが、延期されたプロジェクトが稼働するに伴って回復
出典:IEA、WPICリサーチ

  こういった点を加味すると、累積的な水電解能力は2040年までに225GWに達する予測だ。これはIEAの2024年度のデータと比べると6%多いが、IEAが網羅するプロジェクト全体の約1,100GWという電解能力を大きく下回る(図4)。累積的な電解能力全体の増加予測のお陰で2030年を境とした動向の変化が見えづらいが、水電解装置プロジェクトは延期や中止のため2025年から2029年の電解能力予測は24%(図1)減ることになった。 

 プロジェクトの稼働時期の変化に加え、IEAのデータベースは電解装置の技術面にも変化があることを示す。2025年度のデータベースでは相対的にアルカリ型電解装置が増えている一方で、PEM型水電解装置は変化がなく、採用技術が確定していないプロジェクトの数が減った(図6)。

 つまり採用技術未定のプロジェクトの中で、PGMを使わないアルカリ型電解装置を採用する件数が増える可能性が高いことになる。この技術面のシフトと延期プロジェクト数の増加が、 2026年から2030年にプラチナ需要予測が12%減る背景である(図2)。もっとも、水素産業全体は成長基調で、2025年のプラチナ需要は1%未満だが、2030年までには4%に拡大するだろう。

 水電解装置プロジェクトの増加は2030年以降に偏り、2030年までのプロジェクト数は下方修正

 PEM型水電解装置の減少で、2030年までのプラチナ需要予測は昨年よりも12%少ない

投資資産としてのプラチナを支える背景

-WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続いている。2026年は需給が均衡する予測だが、現在の逼迫した状況は改善されないだろう
-プラチナ供給は、鉱山生産、リサイクルともに課題が多い
-米国の関税は需要を押し下げるリスク要因だが、宝飾品需要と中国の投資需要の勢いに相殺されるだろう
-リースレートの上昇とロンドン先物市場のバックワーデーションはタイトな市場を反映している
-プラチナ価格はゴールドよりも大幅に割安のまま

図3:プロジェクト総数は前年比プラス9%

図3:プロジェクト総数は前年比プラス9%
出典:IEA、WPICリサーチ

図4:IEAデータベースによると電解能力は前年比プラス8%。WPICの建設確率係数*を考慮すると前年比プラス6%

図4:IEAデータベースによると電解能力は前年比プラス8%。WPICの建設確率係数*を考慮すると前年比プラス6%
出典:IEA、WPICリサーチ*プロジェクト中止や延期を調整した係数

図5:確率係数調整済みプロジェクトの平均規模は5%縮小、欧州のプロジェクト規模が最小、世界のその他の地域が最大

図5:確率係数調整済みプロジェクトの平均規模は5%縮小、欧州のプロジェクト規模が最小、世界のその他の地域が最大
出典:IEA、WPICリサーチ

図6:2030年にかけてのアルカリ型電解装置のシェアは4%増、PEM型電解装置のシェアは縮小

図6:2030年にかけてのアルカリ型電解装置のシェアは4%増、PEM型電解装置のシェアは縮小
出典:IEA、WPICリサーチ

図7:水電解によるプラチナ需要のほとんどは欧州とその他の地域のプロジェクトにより、累積的プラチナ需要の約81%を占める

図7:水電解によるプラチナ需要のほとんどは欧州とその他の地域のプロジェクトにより、累積的プラチナ需要の約81%を占める
出典:IEA、WPICリサーチ

図8:2030年までの「定置型燃料電池とその他の水素」のプラチナ需要は9.7トンとなり、水素関連のプラチナ需要の約70%を占める

図8:2030年までの「定置型燃料電池とその他の水素」のプラチナ需要は9.7トンとなり、水素関連のプラチナ需要の約70%を占める
出典:IEA、WPICリサーチ

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