米国が1月3日、南米のベネズエラに対し大規模な攻撃を実施し、大統領を拘束しました。「石油利権目当て」「内政干渉」「人権侵害」といった見方もある中、トランプ米大統領は攻撃の正当性を主張しました。トランプ米大統領の思惑、原油相場を含め、今後の展開を考える上で、改めてこの数十年のベネズエラの動向を確認する必要があります。
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著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「【深層】ベネズエラ大混乱の芽は20年以上前に出ていた」
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小ベネチア、大自然、OPECの原加盟国
ベネズエラという国の特徴を確認します。以下の図の通り、ベネズエラという国の正式名称はベネズエラ・ボリバル共和国です。1999年12月、新しく就任したチャベス大統領のもと、新憲法発効に伴い、ラテンアメリカ解放の指導者シモン=ボリバルの名前の一部を国の名前に取り入れました。
コロンブスによって「発見」され、その翌年1499年に、探検家のアロンソ・デ・オヘーダが、豊かな自然の中、水上に杭を立ててつくった先住民の集落を見て「小ベネチア」と呼んだことが、ベネズエラの由来と言われています。
同国は、豊かな自然に恵まれています。カナイマ国立公園は1994年に世界自然遺産に登録されました。東京タワー約三本分(979メートル)に相当する落差を有する滝「エンジェル・フォール」は、世界最大の落差の滝として知られています。地上に落ちるまでに水が水滴となり風で飛ばされてしまうため、「滝つぼがない滝」とも言われることがあります。
図:ベネズエラ・ボリバル共和国(Bolivarian Republic of Venezuela)の特徴
同公園は、イギリスの作家コナン・ドイルの小説「ロスト・ワールド」の舞台となり、その後、ハリウッド映画「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」のイメージづくりに大きな影響を与えました。世界で三番目の水量を誇るオリノコ川もこの近辺を流れています。
また、ベネズエラは、石油と大変に関わりが深い国です。原油の確認埋蔵量はサウジアラビアを上回り、世界1位です(2020年)。オリノコ川の北岸には、同国の原油埋蔵量を支える油田地帯「オリノコ タール」があります。そして、1960年に石油輸出国機構(OPEC)が発足した時の五つの国の一つとして、知られています。
そのベネズエラは、以下のように、南米大陸の北部にあり、カリブ海に面しています。南部はアマゾンの熱帯雨林でブラジルと接し、西部はコロンビアと接しています。
図:ベネズエラの位置
なぜ、歴史があり、雄大な自然を育み、石油資源に恵まれたベネズエラが大規模な攻撃を受けたり、大統領が拘束されたりしたのでしょうか。
二人の大統領がベネズエラを変えた
1月3日にベネズエラで起きたことを説明するには、1990年代に戻る必要があります。以下は、ベネズエラの自由民主主義指数です。自由民主主義指数は、V-Dem研究所(スウェーデン)が算出・公表する、自由度・民主度の高さを示す指標です。
選挙制度、法の支配、表現・言論の自由など、自由度・民主度に関わる多数のデータによって算出されています。
ベネズエラの同指数の推移を確認すると、高い山から水が滝となって落ちるように、急低下していることが分かります。落ちるきっかけとなったタイミングは、1998年ごろです。同年はベネズエラでチャベス氏が大統領になった年でした。この年から、同国の自由度・民主度は、低下の一途をたどり始めました。
図:ベネズエラの自由民主主義指数
原油生産国であるベネズエラには、経済的に比較的豊かな時代がありましたが、石油利権は米国資本と手を結んだ特権階級に独占され、貧富の差が拡大していました。石油を通じた米国との関わりが深くなればなるほど、その差は大きくなっていきました。
こうした中、1989年に首都カラカスで貧困層を中心とした大規模な暴動が起きました。そして、その暴動は軍隊によって鎮圧され、多数の死傷者が出ました。カラカス動乱です。
当時、チャベス氏は暴動を鎮圧する陸軍側にいましたが、貧困層を含む自国民を鎮圧する政府に不信感を抱き、クーデター(政権転覆)を画策しますが、失敗し、捕らえられました。しかし、釈放を望む運動によって釈放されたことを機に、軍事的な考え方から言論を中心とした姿勢に転換しました。
そして、1998年の大統領選挙に立候補し、「貧者の救済」を掲げ、勝利しました。石油がもたらす利益を国民に分配する仕組みづくりをすることを明言しました。しかしその後は、反米姿勢を強く打ち出すなど(国連総会で米国を「悪魔」と複数回述べた)、強固な権力を築いたことで、同国の自由度・民主度は低下しました。
また、イラク戦争(2003年)などがきっかけで原油価格が上昇し、経済が潤う中、汚職がまん延したり、野党を排除する姿勢を鮮明にしたりして、国家の運営が不安定化しました。自身の大統領任期を事実上無期限にする憲法改正を行ったことも、不安定化に拍車をかけました。
このころには、資源を生産する国が陥る可能性がある「資源の呪い(豊富な資源が自国の経済発展や民主主義向上を妨げる要因になること)」に、ベネズエラはかかってしまっていたといえます。チャベス氏が病死した後、2013年に大統領になったマドゥロ氏(先日、米国に拘束された)もまた、同じ路線を進み始めました。
マドゥロ氏が大統領になった翌年、「逆オイルショック」と呼ばれた記録的な原油相場の大暴落が発生し、混乱に拍車がかかりました。反政府デモが勃発したり、ハイパーインフレに苦しんだりする中、深刻な人権侵害や違法な物品の取引が横行するようになりました。マドゥロ体制のもと、ベネズエラは国家の体(てい)を成していない状態に陥っていたといえます。
人口が減少するほど、生活が困難
マドゥロ体制が大変な混迷状態にあることを示すデータがあります。以下は、ベネズエラの人口(左)とベネズエラにおける亡命希望者(右)の推移です。人口の推移を見ると、マドゥロ体制のもと、逆オイルショックが発生した後の2016年ごろから、人口が減少し始めていることが分かります。
そして同じ2016年ごろから、亡命を希望する人(Asylum-seekers)が急増し始めたことが分かります。2016年から2025年にかけて、こうした人は累計で800万人を超えています。こうした流れを受け、人口のグラフの上に示した隣国コロンビアの人口の増加のスピードが増しています。
図:ベネズエラの人口(左)と亡命希望者(右)の推移 単位:万人
こうしたデータは、マドゥロ体制のもとで生活をすることが、大変に困難であることを示しているといえます。現在、一部の報道で、マドゥロ氏が拘束されたことを好意的に見ているベネズエラ出身(国外在住)の人がいると報じられていることと、符合します。
【深層】ベネズエラ大混乱の芽は20年以上前に出ていた
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