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【黒木亮】ジョージア旅行記 後編:秘境の山岳地帯や旧市街を巡る

2026/1/3 7:30

 経済小説家・黒木亮氏が円安時代におすすめするジョージア旅行。後編ではアルプス級の絶景と世界遺産の秘境、旧ソ連と現代が共存するトビリシの旧市街など、ジョージアの奥深い魅力を深掘りします。

目次
  1. ロシアの脅威、アメリカへの憧れ、社会主義の実験跡
  2. 山道を2時間半かけ、海抜1,500mまで上る
  3. 一帯一路の影
  4. いよいよ秘境、ウシュグリ村へ
  5. 「血の復讐」は現代の仇討ち
  6. コーカサス山脈の絶景に驚嘆
  7. 趣のあるトビリシ旧市街

ロシアの脅威、アメリカへの憧れ、社会主義の実験跡

▼前編
2026年1月2日:【黒木亮】円安でも満喫可能!絶景と美食のジョージアを旅する

 翌日、午前8時33分、ツアー会社の黒いベンツでアパート前を出発。この日の目的地は、スヴァネティ観光の拠点メスティア(トビリシから山道を含め約451km)。若いバックパッカーたちはマルシュルートカと呼ばれる公共のミニバスを乗り継いだりして、10時間くらいかけて行くが、さすがにこの年では厳しく、477ポンド(約9万5,400円)を払い、3日間の専用車を雇った。

 運転手兼ガイドはジョージ(George)という30歳すぎの口ひげと頬ひげを生やした男性。細身で精悍(せいかん)な感じで、少しトルコの遊牧民のような雰囲気がある。

 大卒でこの仕事を9年やっていて、英語はかなりできる。月に3~4回スヴァネティ地方に客を乗せて行くそうで、客は欧米人、オーストラリア人、インド人が多く、アジア人も一部いるという。筆者と家内を見て、「チャイニーズ?」と聞いてきた。

黒木亮(くろき・りょう)

黒木亮さん
(写真:黒崎亜弓)経済小説家。1957年生まれ。早稲田大学法学部卒。エジプトのカイロ・アメリカン大学大学院修士(中東研究科)。都市銀行、証券会社、総合商社での勤務経験を持つ。2000年、国際協調融資の主幹事を巡る攻防を描いた『トップ・レフト』で作家デビュー。代表作に『巨大投資銀行』『カラ売り屋』『排出権商人』『鉄のあけぼの』『法服の王国』『アパレル興亡』『袈裟と駅伝』など多数。1988年より英国在住。

 市内を走っていると、あちらこちらにいろいろな人の大きな顔写真が貼ってある。いったい何なのかジョージに聞くと、近々統一地方選挙があるので、その候補者のポスターだという。

 1991年にソ連から独立したジョージアは、長年親欧米・反ロシア政策をとってきた。しかし、同国北西部のアブハジアと中央北部の南オセチアは、ロシアの強い影響下で実質的な独立状態を保っている。日本にたとえるなら、九州と北陸が中央政府に反旗を翻しているようなものだ。

 こうした状況を打開するため、2008年8月にジョージア軍は南オセチアに対し軍事介入を行い、アブハジアとも衝突した。しかし、両地域を支援するロシアの圧倒的な軍事力の前に、わずか5日間で敗北している。

 この軍事的敗北、汚職問題、刑務所での拷問などで国民の不満が高まり、2012年の国会議員選挙でミヘイル・サアカシュヴィリ大統領の与党「統一国民運動」が敗北。野党「ジョージアの夢」が政権を奪取した。

「ジョージアの夢」は、1990年代にソ連崩壊後のロシアで銀行業、鉄鋼業、通信業などで大もうけし、富の源泉がロシアにあるジョージア人、ビジナ・イヴァニシヴィリ氏が立ち上げた政党だ。

 新政権は2024年11月に、欧州連合(EU)加盟手続きを2028年末まで開始しないと発表したりして、反ロシア感情の強い国民の猛反発を受けた。トビリシ市中心部にある国会議事堂前では、親ロシア政策に反対する人々がテントを張って座り込みをしている。少し前のウクライナに似た状況で、昨今の欧州諸国でもよく見られる政治風景ともいえる。

 トビリシを出ると、幅の広い片側2車線の立派なハイウェーが延び、100kmの速度で走り続ける。車は欧州と同じ右側通行である。ジョージは左手でハンドルを握り、右手でスマホを操作したり、話したりしながら、対向車線に出て追い越しをしたりするので、ちょっと怖い。ただ運転の腕は相当いいようだ。

 そこそこ大きなベンツなので、シートも広く、座っていて快適である。エジプトに留学していた1986年に、ヨルダンのアンマンからペトラ遺跡まで往復470kmをごく普通のタクシーで日帰りしたときはへとへとになったが、それよりは格段に楽である。

 2時間ほど走ったところで、大型のドライブインで休憩。駐車場には観光バスが何台も停まっている。建物内にスーパーマーケットが入っており、ウェンディーズ、ダンキンドーナツ、サブウェイなど、米系ファストフード店が多い。

 ジョージアでは、マクドナルドやKFCも多く、人々の欧米志向、とりわけ米国への憧れを感じさせる。マクドナルドは日本より値段が高いが、それでも人々は金をはたいて行く。

 30分ほど休憩して再びスタート。やがてハイウェーを離れ、片側1車線の田舎道に入る。道は一応舗装されているが、放し飼いの牛や豚がのんびりと道端で草を食んでいる。林が広がり、その間に2階建てで平らに近い四角垂の波型トタン屋根とレンガ壁の古い家々(農家)が点在している。

 時折現れる老朽化した団地や建物は明らかに旧ソ連時代のもので、このあたりまで来るとトビリシにあるような近代的な建物はほとんどない。

 やがて道はでこぼこになり、道路脇に黄色く色づき始めた白樺並木が現れ、遠くにポプラの林が見える。道端で老夫婦がリヤカーに積んだスイカを売っており、大きなメス豚が車の前を悠然と横切る。キルギスなどで見た風景にそっくりで、社会主義という壮大な実験がこの国でも行われたことを実感させる。

山道を2時間半かけ、海抜1,500mまで上る

 メスティアの手前139kmのズグディディという町で1時間ほど昼食をとり、しばらく走って山道に入る。途中、欧州最大級という高さ271.5mのエングリ・アーチダムを1時間ほど見学。午後3時50分にダムを出発すると、道は本格的な山道になった。

 山の斜面の断崖につくられた曲がりくねった道は、やっと車がすれ違える程度。舗装はされているが、ガードレールがない箇所があったり、道が崩れ落ちて車がすれ違えない場所もあったりする。

 ほぼ平地(海抜100~110m)のズグディディから海抜約1,500mのメスティアまで上へ上へと上っていき、天に近づいていく感じ。

 午後5時50分ごろ、かなたに氷河を頂いたコーカサス山脈が見える。近くの山々は木々が生い茂って緑色だが、遠くの高い山々は黒っぽく、山頂付近の谷間や窪んだ場所に白い氷河が残っている。

 まもなく景色が、スヴァネティ地方に入ったと実感させる。スイスのような山あいの緑の斜面の放牧地で牛の群れが草を食み、あちらこちらに「血の復讐(ふくしゅう)の塔」が建っている。

一帯一路の影

 メスティアに到着したのは午後6時23分。スイスのツェルマットに似た雰囲気の町である。植生も枝の先が上を向いたオウシュウトウヒ(マツ科トウヒ属)と思しい松などがツェルマットを想起させる。周囲を山々に囲まれていて、近くの山は緑色、遠くの山は木が生えていなくて茶色である。

 街には「血の復讐の塔」がたくさん建っている。スヴァネティ地方観光の拠点で、数多くの外国人観光客が通りを歩き、ウシュグリ村に行く4WD車の運転手たちが乗らないかと盛んに声をかけてくる。

メスティアの町

メスティアの町

 スヴァン人は白人で、若い女性などは色白で北欧っぽい雰囲気の人もいる。地理的に近いイラン、トルコ、東欧などの血を感じさせる人たちも少なくない。言語はスヴァン語で、同じ南コーカサス語族のジョージア語とのバイリンガルだ。

 夕食は町にあった中華レストランで、牛肉の野菜炒めご飯とビール。テーブルから調理場が見え、若い中国人の男性2、3人が働いていて、こんな秘境みたいな場所にも中国人がいて、店を経営していることに驚く。

 ジョージアでは韓国人以上に中国系の人々(おそらく本土からの中国人)を数多く見かける。ハイウェーを走っていても道路脇に中国語の看板を掲げた建設事務所があったり、「中国建築」と漢字で書かれたセメントやアスファルトを格納したサイロが何基も立っていたりする。

 ジョージに聞くと、中国の建設会社が、ハイウェー、トンネル、港などの建設を請け負っているという。値段が安く、大規模な融資も付いてくるので起用しているそうだが、安かろう悪かろうという面もあり、国に対する中国の影響力が大きくなるという批判もあるという。

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