米国のPGM輸入はネットベースで大幅なショートだ(図1)。重要鉱物の輸入に対する通商拡大法232条(以下S232)調査の結果はまだ公表されていないが、既に終了していると考えられる。我々のベースライン予測はPGMの輸入は制限の対象にはならないことを想定している。

 それは関税政策で輸入に混乱が起きれば、自動車生産など付加価値の高い国内産業に損害を与える可能性があるからだ。これは米国がレアアースの輸入を維持するために中国に対する関税を引き下げた動きからも想定できることだ。

 しかし、国家安全保障を損なうかどうかという判断基準は緩く、S232調査の結果がPGMにとって不利なものになるかもしれない、つまりPGMの輸入に関税、あるいは輸入制限が導入される可能性は排除しきれない。この懸念が拭えないまま続けば、市場の逼迫や高いリースレートを緩和するためにCMEの在庫が使えない状況になる可能性もある。

 米国商務省は2025年4月にPGMを含む重要鉱物の輸入が、国家安全保障にもたらすリスクについて通商拡大法232条に基づく調査を始めた。輸入が安全保障上の脅威になるとされる条件は緩く、緊急時の需要を満たせないような経済的悪影響を国内産業に与える場合も含まれる。

 PGMの需要は米国内の供給では賄えないため、この緩い条件に基けばPGMも、S232調査後の勧告対象に含まれる可能性があることになる(図1)。S232調査結果は10月半ばにトランプ大統領に提出されたはずで、法的には大統領のみが報告書の勧告に従うかどうかの判断を90日以内に出す権限を持つ。

 トランプ大統領は、2019年にウランの輸入が国家安全保障を損なうとされた時にはその勧告を無視した経緯があるが、現在の米国の通商政策はより強硬なものに変わってきている。

図1:鉱山供給に限度がある米国は、PGM(3E)の輸入に頼る

図1:鉱山供給に限度がある米国は、PGM (3E)の輸入に頼る
出典:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

図2:取引所在庫放出のタイミングはプラチナの地上在庫の再構築に繋がらない

図2:取引所在庫放出のタイミングはプラチナの地上在庫の再構築に繋がらない
出典:メタルズフォーカス、CME、ブルームバーグファイナンスL.P、WPICリサーチ

 関税に対する懸念を背景に米国には大量PGMがユーザーや投資家によって輸入され、CMEの保管庫のプラチナは2025年初めの8.4トンから19.4トンに増えた(図3)。我々のベースライン需給予測では貿易障壁が生じる状況は想定していなく、2025年末までにCME保管庫の在庫は約13.1トンに減り、2026年末までに8.4トンに落ち着くという予測だ(図5)。

 しかし、S232調査の結果、PGM輸入が安全保障に脅威であるとなってトランプ大統領がそれに同意すれば、何らかの段階的な輸入制限か関税措置、またはその両方が実現するかもしれない。そうなれば、既に輸入されたメタルは米国内にとどまり、我々が予測する2025年のプラチナ市場の供給不足はさらに拡大することになる(図5)。

 しかし、たとえそうなってもCMEの在庫が永久に減らないということはなく、緩やかなペースではあるが減っていくだろう。たとえ関税や輸入制限があったとしても、関税コストが高騰したEFPよりも低ければ、あるいは輸入制限量がこれまでの輸入量に関係しないとなれば、CMEの在庫の一部が放出されることも考えられる。

 もしもトランプ大統領がS232調査の(PGMにネガティブな)結果を無視、あるいは調査の結果、PGM輸入が米国市場に害を及ぼさないとなれば、CMEの在庫は大量に流出することになるだろう。

 我々の予想通りに2026年内にCME在庫が20.8トンから8.4トンに減れば、プラチナ市場は供給過剰になるが(図5)、これは地上在庫には影響しない。3年間にわたる大幅な供給不足を経た地上在庫は依然、枯渇した状態にあるからだ(図2)。

 我々のベースライン予測は、S232調査の結果、PGMには関税も輸入制限もないことを前提

 しかし安全保障の脅威と判断される条件は緩く、関税や輸入制限がないとは言えない

 S232調査の結果、PGM輸入が安全保障を損なうとなれば、関税懸念でCME在庫は米国内にとどまり、国際市場には流出しないだろう

投資資産としてのプラチナを支える背景

-WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続いている。2026年は需給が均衡する予測だが、現在の逼迫した状況は改善されないだろう
-プラチナ供給は、鉱山生産、リサイクルともに課題が多い
-米国の関税は需要を押し下げるリスク要因だが、宝飾品需要と中国の投資需要の勢いに相殺されるだろう
-リースレートの上昇とロンドン先物市場のバックワーデーションはタイトな市場を反映している
-プラチナ価格はゴールドよりも大幅に割安のまま

図3:関税懸念でEFPが大きく上昇し、ピーク時はリスク調整済で関税は約5%と予測されたため、CME保管庫へプラチナが移動した。関税懸念の解消でEFPが下がればプラチナは市場に流出する可能性もある

図3:関税懸念でEFPが大きく上昇し、ピーク時はリスク調整済で関税は約5%と予測されたため、CME保管庫へプラチナが移動した。関税懸念の解消でEFPが下がればプラチナは市場に流出する可能性もある
出典:CME、ブルームバーグファイナンスL.P、WPICリサーチ

図4:CMEのパラジウム在庫も増えたが、大きく流入量が増えたのは米国がロシア産パラジウムの反ダンピング調査を開始してから(『プラチナ展望10月17日』)

図4:CMEのパラジウム在庫も増えたが、大きく流入量が増えたのは 米国がロシア産パラジウムの反ダンピング調査を開始してから(『プラチナ展望10月17日』)  
出典:CME、ブルームバーグファイナンスL.P、WPICリサーチ

図5:取引所在庫の増加が現在の水準で推移すれば、2025年の不足は21.5t(692koz)から27.7t(891koz)に拡大し、逆に在庫が流出すれば16.9t(542koz)に縮小。流入が2026年も続けば4.0t(130koz)の供給不足だが、流出すれば6.8t(219koz)の供給過剰になるだろう

図5:取引所在庫の増加が現在の水準で推移すれば、2025年の不足は 21.5t(692koz)から27.7t(891koz)に拡大し、逆に在庫が流出すれば16.9t(542koz)に縮小。流入が2026年も続けば4.0t(130koz)の供給不足だが、流出すれば6.8t(219koz)の供給過剰になるだろう
出典:メタルズフォーカス、CME、ブルームバーグファイナンスL.P.,WPICリサーチ
注:流出は2025年初めの水準からでゼロからではない

図6:2025年の供給不足(8.1t/260koz)にはパラジウムの取引所在庫の動きを含めていないが、含めれば不足は12.3t(394koz)に拡大。2026年に在庫が流出されれば3.7t(120koz)の供給過剰になるだろう

図6:2025年の供給不足(8.1t/260koz)にはパラジウムの取引所在庫の動きを含めていないが、含めれば不足は12.3t(394koz)に拡大。2026年に在庫が流出されれば3.7t(120koz)の供給過剰になるだろう
出典:ブルームバーグファイナンスL.P、WPICリサーチ

図7:米国の需要増もプラチナ不足の一因、リースレートの上昇に繋がった

図7:米国の需要増もプラチナ不足の一因、リースレートの上昇に繋がった 
出典:ブルームバーグファイナンスL.P、WPICリサーチ

図8:ロンドン市場の現物不足がOTC市場の強いバックワーデーションをもたらした

図8:ロンドン市場の現物不足がOTC市場の強いバックワーデーションをもたらした
出典:ブルームバーグファイナンスL.P、WPICリサーチ

免責条項:当出版物は一般的なもので、唯一の目的は知識を提供することである。当出版物の発行者、ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルは、世界の主要なプラチナ生産会社によってプラチナ投資需要発展のために設立されたものである。その使命は、それによって行動を起こすことができるような見識と投資家向けの商品開発を通じて現物プラチナに対する投資需要を喚起すること、プラチナ投資家の判断材料となりうる信頼性の高い情報を提供すること、そして金融機関と市場参加者らと協力して投資家が必要とする商品や情報ルートを提供することである。

 当出版物は有価証券の売買を提案または勧誘するものではなく、またそのような提案または勧誘とみなされるべきものでもない。当出版物によって、出版者はそれが明示されているか示唆されているかにかかわらず、有価証券あるいは商品取引の注文を発注、手配、助言、仲介、奨励する意図はない。当出版物は税務、法務、投資に関する助言を提案する意図はなく、当出版物のいかなる部分も投資商品及び有価証券の購入及び売却、投資戦略あるいは取引を推薦するものとみなされるべきでない。発行者はブローカー・ディーラーでも、また2000年金融サービス市場法、Senior Managers and Certification Regime及び金融行動監視機構を含むアメリカ合衆国及びイギリス連邦の法律に登録された投資アドバイザーでもなく、及びそのようなものと称していることもない。

 当出版物は特定の投資家を対象とした、あるいは特定の投資家のための専有的な投資アドバイスではなく、またそのようなものとみなされるべきではない。どのような投資も専門の投資アドバイザーに助言を求めた上でなされるべきである。いかなる投資、投資戦略、あるいは関連した取引もそれが適切であるかどうかの判断は個人の投資目的、経済的環境、及びリスク許容度に基づいて個々人の責任でなされるべきである。具体的なビジネス、法務、税務上の状況に関してはビジネス、法務、税務及び会計アドバイザーに助言を求めるべきである。

 当出版物は信頼できる情報に基づいているが、出版者が情報の正確性及び完全性を保証するものではない。当出版物は業界の継続的な成長予測に関する供述を含む、将来の予測に言及している。出版者は当出版物に含まれる、過去の情報以外の全ての予測は、実際の結果に影響を与えうるリスクと不確定要素を伴うことを認識しているが、出版者は、当出版物の情報に起因して生じるいかなる損失あるいは損害に関して、一切の責任を負わないものとする。ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルのロゴ、商標、及びトレードマークは全てワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルに帰属する。当出版物に掲載されているその他の商標はそれぞれの商標登録者に帰属する。発行者は明記されていない限り商標登録者とは一切提携、連結、関連しておらず、また明記されていない限り商標登録者から支援や承認を受けていることはなく、また商標登録者によって設立されたものではない発行者によって非当事者商標に対するいかなる権利の請求も行われない。

WPICのリサーチと第2次金融商品市場指令(MiFID II)

 ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(以下WPIC)は第2次金融商品市場指令に対応するために出版物と提供するサービスに関して内部及び外部による再調査を行った。その結果として、我々のリサーチサービスの利用者とそのコンプライアンス部及び法務部に対して以下の報告を行う

 WPICのリサーチは明確にMinor Non-Monetary Benefit Categoryに分類され、全ての資産運用マネジャーに、引き続き無料で提供することができる。またWPICリサーチは全ての投資組織で共有することができる。

1.WPICはいかなる金融商品取引をも行わない。WPICはマーケットメイク取引、セールストレード、トレーディング、有価証券に関わるディーリングを一切行わない。(勧誘することもない。)

2.WPIC出版物の内容は様々な手段を通じてあらゆる個人・団体に広く配布される。したがって第2次金融商品市場指令(欧州証券市場監督機構・金融行動監視機構・金融市場庁)において、Minor Non-Monetary Benefit Categoryに分類される。WPICのリサーチはWPICのウェブサイトより無料で取得することができる。WPICのリサーチを掲載する環境へのアクセスにはいかなる承認取得も必要ない。

3.WPICは、我々のリサーチサービスの利用者からいかなる金銭的報酬も受けることはなく、要求することもない。WPICは機関投資家に対して、我々の無償のコンテンツを使うことに対していかなる金銭的報酬をも要求しないことを明確にしている。

 さらに詳細な情報はWPICのウェブサイトを参照。

 当和訳は英語原文を翻訳したもので、和訳はあくまでも便宜的なものとして提供されている。英語原文と和訳に矛盾がある場合、英語原文が優先する。