金(ゴールド)相場は今年、幾度となく高値を更新しました。そのため、「価格の水準が高すぎて買えない」と耳にするようになりました。しかし、感覚に頼らない分析を行えば、金(ゴールド)は「高くても買える」という結論もあり得ると筆者は考えています。
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著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「金(ゴールド)、「高すぎて買えない」は本当なのか? 」
「これ」は売れるが「それ」は買えない
仮に、以下の値動きを演じている銘柄があったとします。2010年ごろに下落の芽が生じ、2020年ごろから本格的な下落が始まり、近年は過去に類を見ないスピードで急落しています。この銘柄の今後の動向について、「まだ下がりそう」と感じる人は多いのではないでしょうか。
図:[参考1]とある銘柄の価格推移(1973年1月5日~2025年10月30日)
では、以下の銘柄についてはどうでしょうか。「まだ上がりそう」と感じる人はどれくらいいるでしょうか。
図:[参考2]とある銘柄の価格推移(1973年1月5日~2025年10月30日)
しばしば、「この銘柄は高くなり過ぎたので今は買えないが、興味はある。この銘柄を買うきっかけとなる材料はあるのか」という趣旨の会話を耳にします。
過去の高値よりも高い今を「高所」と認識し、高所ゆえ先行きを見通しにくい不安定さを感じながら、関心のあるその銘柄を買うために背中を押してくれる強い理由を探している、という状況です。
高所と認識する理由に「相対評価」が挙げられます。過去のどの価格よりも今が一番高いという最大級の割高感が、興味はあっても不安定さを拭いきれない原因になります。
では、冒頭で示した急落中の値動きを演じる銘柄は、どうでしょうか。過去のどの価格よりも今が一番安いという最大級の割安感があります。(興味が湧くかどうかを抜きにして)方向性を見つけられない不安定さを感じるでしょうか。感覚的には、意外にもすんなり、不安定さを感じずに「下がる」と判断できるのではないでしょうか。
上がることをイメージする時は、理由を積み重ねる必要があります。特に価格が高ければ高いほど、不安定さと闘いながら強い理由を獲得する必要があります。しかし、下がることをイメージする時は、さほど強い理由を必要としません。
こうしたことは、自然界の法則である「重力」に通じると筆者は考えています。高さを獲得するためには、位置エネルギーを積み上げる必要があります。高いところを目指そうとすればするほど、必要なエネルギーは大きくなります。逆に下がることは容易で、「自由落下」と表現されることもあるくらいです。
先ほどの図、[参考2]とある銘柄の価格推移は、国内大手地金商の金(ゴールド)の小売価格(税込)推移です。そして、冒頭の図、[参考1]とある銘柄の価格推移は、国内大手地金商の金(ゴールド)の小売価格(税込)推移を上下で反転させて作った図です。つまり、[参考1]が下がると感じることは、[参考2]が上がると感じることと本質的に同じなのです。
二つの図は、同じ変動率を示す銘柄の値動きを示していますが、先行きを見通す上での感覚的な難易度や不安定さは、明確に分かれるでしょう。感覚に判断を委ねると、「上がると考える方が難しく不安定に見える」という事象が生じます。
コモディティ(国際商品)は売り手と買い手の立場がほぼ対等であるため、感覚よりも体系化された分析が有効であると、筆者は考えています。この点は、期待や懸念という思惑が支配的になりやすい株式市場と大きく異なる点です。
コモディティ銘柄の一つである金(ゴールド)においても、体系化された分析が必要です。歴史的な急騰局面であるからこそ、感覚に頼らない分析が欠かせません。株式市場を見る感覚で、金(ゴールド)市場を見てはいけない、と言えます。その意味で、感覚に基づいた分析は、現代の金(ゴールド)相場にはなじまないと言えます。
ほぼ常に上昇していた金(ゴールド)相場
金(ゴールド)相場の「感覚」の話を続けます。以下は、国内大手地金商の金(ゴールド)の小売価格(税込)推移です。先ほどの図に注記を加えたものです。
1970年代後半に、中東地域で複数の目立った有事が勃発し、不安感が強まったり、原油相場が急騰したりしたことを受け、後に「有事の金(ゴールド)」や「インフレの時は金(ゴールド)」という言葉が生まれるきっかけとなった上昇が見られました。
1990年代後半から2000年代の前半にかけて、米国で株式市場が活況を呈し、金利や配当が付かない金(ゴールド)が売られました。このことは、後に「株と金(ゴールド)は逆相関」という金(ゴールド)を説明する言葉の元となりました。
図:国内大手地金商の金(ゴールド)小売価格の推移(1973年1月5日~2025年10月30日) 円/グラム
1970年代後半から2000年代の前半にかけて、こうした「感覚的」で「分かりやすい」値動きが散見されました。不穏なことが起きた時は金(ゴールド)に注目が集まる、楽観的な時は金(ゴールド)に注目が集まらない、という見方が確固たる地位を獲得した期間だったと言えます。
では、2010年ごろ以降は、どうでしょうか。徐々に上昇の芽が出て、2020年ごろから本格的な上昇が始まり、近年は過去に類を見ないスピードで上昇しています。
振り返ってみれば、この間、主要国の株価指数は高値を更新し続けています。戦争が目立たない時期も、インフレが鎮静化する兆しが見えた時期もありました。しかし、金(ゴールド)相場は上昇し続けてきました。
上記は円建てですので、ドル/円が極端に円安に推移した影響も強く受けています。とはいえ、世界の中心的な通貨であるドル建ての金(ゴールド)においても、道中で発生した下落は上昇トレンドを脅かす規模ではありませんでした。足元、1トロイオンス当たり4,000ドル近辺の記録的な高値水準で推移しています。
以下は、先ほどグラフで示した国内地金大手の金(ゴールド)小売価格(税込)の前年比(年間平均)です。
図:国内地金大手の金(ゴールド)小売価格(税込)前年比(年間平均)
1970年代後半の「有事の金(ゴールド)」や「インフレの時は金(ゴールド)」が目立った時に大きく上昇したこと、1990年代後半から2000年代の前半にかけて、「株と金(ゴールド)は逆相関」が目立った時に下落する傾向があったことを、確認できます。
では、それ以降、つまり、金(ゴールド)相場が長期視点の記録的な上昇を演じ始めた時期以降の前年比はどうでしょうか。2001年から2025年(10月30日まで)の25年間、上昇した年が22回、下落した年が3回でした。
上昇した22回について、平均は+14.3%、最大が+41.2%(2006年)、下落した3回について、平均はマイナス1.6%、最大がマイナス3.7%(2016年)でした。
このおよそ四半世紀、国内地金大手の金(ゴールド)価格は、下落してもその規模は限定的で、ほぼ上昇し続けてきたことが分かります。「上昇し続けた」ことは、株価指数が上昇しても下落しても、有事ムードが高まっても後退しても、インフレが目立っても後退しても、上昇してきたことを意味します。
感覚的に株価指数が下落した時に上昇したのだろう、有事ムードが高まった時に上昇したのだろう、インフレが目立った時に上昇したのだろう、と考えてしまいそうになります。もちろん、その影響もありますが「それだけではない」と考える必要があります。
2000年代前半以降の金(ゴールド)相場が、かつての常識だけで分析できないこと、感覚に頼った分析が通じにくいことが、これらのデータから読み取ることができます。
金(ゴールド)、「高すぎて買えない」は本当なのか?
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