中国財政部、税関総署、そして国家税務総局は風力発電やその他の産業に対する付加価値税(VAT)の変更を発表した。「そのほかの産業」には、これまで輸入の際に13%のVATが免除されていたプラチナとプラチナ商品も含まれ、これらは11月1日から課税対象となる。

 この措置によって上海黄金交易所(SGE)のプラチナ価格は上がるだろうが、これまでSGEでの購入時に課されていた約3%の手数料が割引あるいは全廃されれば、コスト上昇の一部は相殺される形になるだろう。しかし、中国のプラチナ需要はこれまでも価格に対して非常に敏感に反応してきため、コストが上がれば需要が弱まる可能性もある。

 中国の税制改革は、特にプラチナを対象としているものではなく、広範な取り組みの一環で、陸上の風力発電や原子力発電など安定した産業分野に対する税制改革となっており、ゴールドに対するVAT免除についても一部議論が進められている。中国では2003年からプラチナの輸入はVATが免除されていたため、SGEでプラチナを購入すれば即時にVATが還付されていた。

 今回の税制変更を受けて、SGEのプラチナ価格の国際価格に対するプレミアムは、これまでの平均3%から14%に上がった(図1)。課税回避のために11月1日までに中国のプラチナの輸入が急増する可能性があり、また輸出業者も前倒しで中国に向け出荷を増やすことも考えられる。一時的に需要が急増すればSGE価格のプレミアムはさらに上がることになる。

 11月1日以降は免税措置がなくなってプラチナの実質的な輸入コストが上がり、価格に敏感な中国の需要は短期的には減少するかもしれない。

図1.プラチナの国際価格に対するSGE価格のプレミアムは平均3.7%から13%近くに上がる可能性

プラチナの国際価格に対するSGE価格のプレミアムは平均3.7%から13%近くに上がる可能性
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ(2025年10月21日現在のデータ)

 過去3年間の中国のプラチナ需要は世界の約31%(図2)。中国のプラチナ需要鈍化は、その規模の大きさを考えると、国際価格に下落圧力となる恐れがある。しかし、2022年以降の中国の旺盛なプラチナ需要を支えてきたのは投資需要で(図3)、課税によるコスト上昇の影響を一部緩和できる可能性がある。

 今後SGEでの購入が課税となることで、プライマリー市場と店頭市場での税の扱いが同じになり(図4:事例)、従って輸入とリサイクルの間で税制上の公平性が保たれることになる。これで世界の3.5%を占める中国のリサイクル供給が拡大するのではとの期待がある(図5)。

 今回の変更によって、現在SGEでの購入にかかる約3%の手数料は撤廃されるだろう。というのは、これまではVATがかからなかった分、二次販売に対して優位であった点がなくなるためだ。SGEが13%のVAT課税スキームの中で、中国白金公司(CPC)以外の業者が輸入したプラチナも販売するようになれば、双方向取引が生まれ、中国の輸入が増える可能性がある(図6)。

 上海先物取引所(GFEX)は、市場の流動性が高まれば上場を予定しているプラチナ先物にも良い影響を及ぼすとしている。双方向のSGE取引、店頭市場との税制の整合性、先物取引の開始などは、市場の流動性向上につながって買い取りの際のディスカウント率が縮まり、中国のプラチナ市場のより効率的な運営に繋がるだろう。

プラチナとプラチナ商品の輸入免税撤廃は、プラチナの購入コストとSGEのプレミアムの上昇に繋がる

税制上のSGEの優位性が消えて店頭市場と同等になれば、中国のプラチナリサイクル供給は増える可能性

投資資産としてのプラチナを支える背景

-WPICのリサーチによると、プラチナ市場は2023年から供給不足が続き、2029年までに地上在庫がなくなる可能性
-プラチナ供給は、鉱山生産、リサイクルともに課題が多い
-エンジン車のプラチナ需要は長く続き、2030年代以降のPGM需要を支える
-リースレートの上昇とロンドン先物市場のバックワーデーションがタイトな市場を反映
-プラチナ価格は長い期間過小評価が続きゴールドよりも大幅に安い

図2:2022年〜2024年の中国のプラチナ需要は平均で世界の31%

2022年〜2024年の中国のプラチナ需要は平均で世界の31%
出典:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

図3:2022年〜2024年の中国のプラチナ需要が19%増えたのは現物インゴットとコインの投資需要の成長が背景

2022年〜2024年の中国のプラチナ需要が19%増えたのは現物インゴットとコインの投資需要の成長が背景
出典:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

図4:税制の変更によりSGEで売られるプラチナはコスト上昇も、課税は店頭市場と同等に

税制の変更によりSGEで売られるプラチナはコスト上昇も、課税は店頭市場と同等に
出典:WPICリサーチ

図5:VAT政策の変更でSGEでの販売時の課税が店頭市場と同じになり、中国のリサイクル供給に朗報

VAT政策の変更でSGEでの販売時の課税が店頭市場と同じになり、中国のリサイクル供給に朗報
出典:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

図6:中国のプラチナ輸入は年初から12.5%減っているが、SGEの販売ルートの開放は競争を促し輸入増加に繋がる可能性

中国のプラチナ輸入は年初から12.5%減っているが、SGEの販売ルートの開放は競争を促し輸入増加に繋がる可能性
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ(2025年9月までのデータ)

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