シバニェ・スティルウォーターと全米鉄鋼労働組合は、ロシアから輸入されている未加工パラジウムに対し、反ダンピング関税(AD)と補助金相殺関税(CVD)の申請を提出した。2024年に米国が輸入したパラジウムの40%はロシアからだったが、国内需要のわずか20%にすぎない。
この申請が出された当初、パラジウム価格はほとんど動かなかったが、米地質調査所(USGS)がコモディティーのサプライチェーンの混乱と、ドルの下落で需要が増している貴金属など安全資産の価格上昇に関するレポートを発表すると、8月終わりにかけて価格が上がり始め、今では25%上昇している。
今年7月に米商務省(DOC)と米国際貿易委員会(ITC)に対して出されたADとCVDの申請によると、ロシアからの未加工パラジウムはロシア政府の補助金を受けて市場価格を下回る価格で販売されており、米国内のPGM生産企業に損害を与えているとしている。
米国のパラジウム鉱山生産は2021年から2024年の3年間で27%減少、リサイクルによる供給も30%(図1)減っている。同じ時期、ロシアからの輸入は34%(図2)増え、2025年は年初から30%増えている。
ITCによる予備調査はすでに国内産業に実害が出ているとし、米政府の閉鎖が解消すれば、CVDに対する判断は12月に、ADに対する判断は来年1月に予定されている。
なお、我々が米国の貿易データからロシア産パラジウム1オンス当たりの価格を逆算しても、輸入価格が市場価格を大きく下回っていることは確認できない(図5)が、実質的損害は、米国との比較で推測されるロシアの生産コストに基づいて算出される。
図1.米国のパラジウム供給は2021年から3割減少
図2.ロシア産パラジウムの輸入は2021年から34%増加
DOCが算出したロシア産未加工パラジウムに対するダンピングマージンは828%で、もしも関税が適用されれば、その負担は輸入業者に課されることになるため、ロシアからの輸入は大きく減るだろう。
供給面では、米国内のPGMリサイクルの回復や貿易ルートの再編によって、2024年にロシアから輸入した28.0トン程度は補うことができるだろう。ADとCVDの申請以降にNYMEXの在庫は169%(図7)増えたが、リースレートやEFP(図6)などの指標を見る限り、市場の反応は限定的だ。
リサイクル供給の嵩上げや輸入先の再編などは数年かかるため、ADやCVDの導入は市場の品不足につながりパラジウム価格を押し上げる可能性もある。
8月のパラジウム価格はADとCVDのリスクにも関わらず下落したが、USGSが、ロシア産パラジウムの輸入が完全にとまった場合には国内価格が最大24%上がる可能性があると発表してから、価格上昇が加速した。パラジウムはドルの下落が招く安全資産需要の恩恵を受け、ここ3ヶ月間のパフォーマンスは他の貴金属とともに上昇基調にある。
シバニェ・スティルウォーターの申請でロシア産パラジウムに関税が課されれば、米国内の競争力強化とパラジウム価格の上昇につながる可能性
米国以外のエンドユーザーがロシア産パラジウムの値引きを要求すれば、米国市場と国際市場の価格差が拡大する可能性
投資資産としてのプラチナを支える背景
-WPICのリサーチによると、プラチナ市場は2023年から供給不足が続き、2029年までに地上在庫がなくなる可能性
-プラチナ供給は、鉱山生産、リサイクルともに課題が多い
-米国の関税で需要低迷のリスクも、宝飾品と中国の投資需要が補う可能性
-リースレートの上昇とロンドン先物市場のバックワーデーションがタイトな市場を反映
-プラチナ価格は長い期間過小評価が続きゴールドよりも大幅に安い
図3:米国が消費するパラジウムは約40%がロシアから、約38%が南アフリカからで、世界の鉱山生産の分布とほぼ同じ
図4:米国内のパラジウム供給の減少を反映して、ロシアと南アからの輸入は増えていた
図5:ロシア産パラジウムの輸入価格はプレミアムとディスカウントの間で差があり、どちらも市場価格より低い確証は得られない(時期による差は考慮外)
図6:7月30日のAD・CVD申請を受けてEFPとリースレートが上昇、品不足と市場の逼迫を暗示
図7:NYMEXのパラジウム在庫は、現物供給の逼迫と米市場の需要増を受けて、7月末から約170%増加
図8:パラジウムは他の貴金属に遅れていたが、反ダンピング申請以降は広範な強気市場に追いついて25%上昇
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