就職氷河期世代の老後資産形成が危険だとされていますが、実際、本当にそうなのでしょうか? 今回は、就職氷河期世代に該当する筆者が、問題点を整理し、対策を考えてみます。実はそれほど恐れる必要はないかもしれません。
就職氷河期世代は大変なのか。当事者のFPとして発言してみたい
「就職氷河期世代対策が重要だ」と、よく言われます。就職氷河期世代とは、就職年齢に至った際に景気が悪化、求人難の影響を受け続けて、損をし続けている世代という説明がされます。
私も、就職活動を始めたら経済状況が急変した当事者(1995年卒)であり、まさに就職氷河期世代に該当します。先輩が大手企業に難なく就職しているところ、私は無名の中小企業に就職して人生をスタートさせることになりました(まあ、私の就活がいい加減だったせいもありますが)。
就職氷河期世代は、本当に人生で大損をしていたり、将来も厳しい状況が続くのでしょうか。あるいは、それ以降の世代には不安がなく、就職氷河期世代だけが抱える問題なのでしょうか。
私の専門でもある老後資産形成の視点を中心に考えてみたいと思います。
就職氷河期世代だけ極端に低年金・無年金というわけではない
まず、就職氷河期世代の「誇張やウソ」については、海老原嗣生さんの著書『「就職氷河期世代論」のウソ』がしっかり論じているので、興味のある方は一読してみてください。この本を読むと、本来は世代を問わない問題がなぜか就職氷河期世代だけの問題とされたり、実態以上に危機感を誇張されているケースが多いことが分かります。
例えば、就職率そのものや非正規雇用の割合を見ても、他世代と何十ポイントも大きな差があるわけではありません。「それぞれの世代の25歳頃と35歳頃」を比較すると、どの世代でもすぐ就職しない人が一定数存在しており、30代になると多くが就職しているという傾向に変わりはありません。
同書によれば、1971~1975年生まれの世代で非正規雇用が220万人いると紹介されていますが、そのうち142万人は既婚女性であり、パートで働く「正社員と非正規雇用の共働き夫婦」です。
また、非正規雇用が多いのは就職氷河期世代「だけ」ではありません。非正規雇用の多くは、就職氷河期世代以外でも「結婚している女性」であり、「単身男性」が何百万人も非正規で働いているわけではありません。
年金についても、大企業に就職できた人が若干減った影響はあるものの、月数千円程度ではないか、と同書は厚生労働省の試算を紹介しています。
これらを踏まえると、「就職氷河期世代だけの危機」として考えるより、全世代を通じて非正規問題に取り組むことが重要であり、「就職氷河期世代のための老後準備対策や支援」というのはあまり意味がないことになります。
おひとりさまについては、準備が重要。ただ、全世代で共通の課題
就職氷河期世代の特徴として、独身者の割合が高まったことがあげられます。とはいえ、貧困からの結婚回避というよりは、人生の選択としてのおひとりさまが増えたと考えるべきでしょう。
おひとりさまについては、老後の準備に問題があります。生活コストは夫婦世帯と比べて3分の2程度にしか下がらない一方で、年金は一人分しかもらえないことが確定しているからです。さらに、夫婦が共働きをするように世帯収入を増やすこともできません。
このケースについては「おひとりさまの老後準備問題」として考え、厚めに老後資産形成に取り組む必要があります。一般的な夫婦が「老後に2,000万円」だとして、おひとりさまがその半額になるとは考えてはいけません。むしろ、同水準の資産を一人で確保する必要があると考えたほうがよいでしょう。
そうすると、退職金・企業年金制度だけでは十分ではなく、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を活用した上積みが必要になります。
しかし、これは就職氷河期世代の問題ではなく、世代を問わない「おひとりさまの問題」です。こちらも世代論にせず、きちんと切り分けて考える必要がありそうです。
就職氷河期世代以降は「正社員共働き夫婦」の増加でモデル年金額より多い世帯も
意外なのは、夫婦の公的年金です。モデル年金額より多く、国の年金をもらえる世帯が、就職氷河期世代以降増えていくのです。年金と言えば、「若い世代ほど減る」印象がありますが、なぜでしょうか。
その理由は、就職氷河期世代以降、女性の多くが就職するようになったことにあります。また、結婚や子育てでも離職せずに働き続ける女性が増加したことも特徴です。
子育てと仕事の両立をがんばった場合、女性の将来の年金額は大きく増加します。今現在、年金受給を開始しているおばあちゃん世代では、女性の多くは専業主婦期間のほうが長く、厚生年金額は結婚前に働いていたわずかな期間分しかありません(私の母はまさにそうです)。
モデル年金は「夫:会社員、妻:専業主婦」をモデルとして採用していますが、夫婦の年金額は「厚生年金1人分+基礎年金2人分」で計算されます。確かに、今現在の年金生活夫婦はこれに近い年金水準となります。
しかし、これからの時代は、夫婦の年金額が「厚生年金2人分+基礎年金2人分」というケースが増えていきます。厚生労働省の統計においても、10年以上先には、厚生年金に入っていた年数が20年を超える女性が増えていき、徐々に多数派に変化していくことが明らかになっています。
「年金は若い人ほど減る」というのは、同一条件で比較した場合です。「厚生年金に長く加入する女性」が当たり前になっていくことで、モデル年金より年金が多く受け取れる世帯が増えていくのです。
現在のモデル年金は「夫 月16万円+妻 月7万円=合計 月23万円」としています。もし夫婦で同額をもらえれば「月32万円」の年金になり、親世代と比べて年108万円も多くなります。
女性が産休・育休後の時短勤務などで夫と同額の年金にならないことを考慮するとしても、月25万~30万円の水準は期待できるでしょう(子どもが3歳になるまでの時短勤務については、給料が下がっても子が生まれる前の賃金に応じた厚生年金保険料を納めたものとして年金額を計算する特例があります)。
女性も退職金をもらう時代になっていくことも大きな変化です。一人分が1,000万円であったとしても、夫婦の合計退職金額だけで「老後に2,000万円」の準備が完了するような世帯が増えていくことになるのです。
よく「年収の壁」の手前で働くと厚生年金保険料を納めずに済むので得だと言われてきました。実は、老後のことを考えると正社員であり続けたほうが多くの年金をもらえる(退職金ももらえる)働き方だったのです。
就職氷河期世代は本当に損し続けているのか。NISA、iDeCo…老後に向けてできること
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