なぜ中国は今になって初めて、米国に対する圧力手段としてレアアースを利用したのか?トランプ政権第1期に米国が貿易敵対行為を始めた時でなく、バイデン政権が3年前に半導体輸出規制を発動した時でなく、なぜ今なのか?中国のアナリストによる興味深い解説を視聴したところ、意外にもその説明の大部分は…ヘリウムに関するものだった。
経済的消耗戦を仕掛ける中国の「Delete A」政策
仮に中国がレアアースを全面的に輸出禁止にすると、半導体・軍事産業のみならず、ハイテク・エネルギー・自動車産業など広範囲に渡って非常に深刻な影響が出るだろう。
ウォール・ストリート・ジャーナルの10月9日の記事「破られた約束の果て:中国に対する米経済界の新戦略」は、レアアース戦略の背後にある中国のしたたかさを取り上げている。
記事によると、中国の調達政策に関する内部指令である「79号文書」や「551号通知」には、「Delete A(Aを削除)」、つまり「Delete America(米国を削除)」という表現が使われているという。中国政府は米国を市場から締め出すよう設計された「Delete America」政策の下、経済的消耗戦を仕掛けていると指摘している。
レアアースは自然界において単独では存在せず、複数の元素が同時に混在する鉱石として産出される。これらの鉱石には十数種類の希土類元素が微量ずつ含まれ、それらは化学的性質が非常に似通っている。そのため、金や銅のように単純な精錬で目的元素を取り出すことはできず、分離に「数百回以上の化学抽出」が必要だ。
さらに、抽出過程で大量の薬品・溶媒・水を使い、環境負荷が非常に高い。特にトリウムやウランを含む鉱石を扱う場合、適切な廃棄物処理が欠かせないが、そのコストとリスクが高いため、欧米諸国では精錬、分離工程が敬遠されてきた。日本や欧州では環境規制のため、採算が取れず撤退した企業も多い。結果として、環境規制が比較的緩やかで労働コストの低い中国がこの工程を担うようになり、現在では世界の精製・分離能力の7割以上を中国が独占する状況が生まれた。
このように、レアアースの抽出・分離の難しさは、単なる技術課題ではなく、資源安全保障や地政学的リスクにも直結している。環境負荷を抑えつつ高純度分離を実現する新技術が各国で研究されているが、商業化にはまだ時間を要するとされている。このレアアースの分離難易度の高さこそが、現代産業のサプライチェーンにおける最大のボトルネックとなっている。
中国がレアアースの抽出、分離という高度で環境負荷の大きい技術を確立し、世界の供給を支配するようになったのは、数十年にわたる国家主導の産業政策と地道な技術蓄積の結果である。
エネルギー関連の研究を行うオックスフォードの機関、Oxford Institute for Energy Studiesのレポート「China’s Rare Earths Dominance and Policy Responses(中国のレアアース支配と政策的対応)は、中国がどのように国内で精製し、分離する能力を拡張してきたかを分析している。
それは1970年代にまで遡る。当時、中国は内モンゴル自治区にある鉱山で世界最大級のレアアース鉱床を発見し、国家主導で採掘、精錬体制の構築を進めた。鄧小平は1980年代に「中東には石油があるが、中国にはレアアースがある」と語り、希土類を戦略資源として育成する方針を打ち出した。
政府は軍需、宇宙開発、センサーなどに使われる磁性材料などの重点分野に研究資金を集中させ、大学、国有研究所、軍事企業が連携して分離、精製技術を開発した。中国は膨大な人員と長期実験によって効率的なプロセスを確立し、環境負荷を犠牲にしても低コストで大量生産する体制を整えた。1990年代、欧米や日本の精錬事業者がコスト競争で撤退する中、中国が世界シェアの大半以上を握る独占体制が形成された。
中国にとって追い風となったのは、世界的な環境意識に対する高まりであった。欧米企業が独自精錬技術を失う一方、中国企業は環境問題を逆手に取る形で国家補助金を背景に工程の最適化に邁進した。
こうして、中国は「安価、大量、高純度」を同時に実現し、世界で唯一、採掘から分離、磁石加工までを一国完結できる体制を築いた。
現在、中国のレアアース技術は単なる化学工程ではなく、国家安全保障、外交、産業政策の中核技術として位置づけられている。中国の新たな輸出規制は、希土類鉱物だけでなく、米国の電力網で使用されている産業用リチウム電池も対象としている。
孫子の兵法:なぜ中国は米国に対する圧力手段としてレアアースを利用したのか?
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