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米ビール大手モルソン・クアーズを買い推奨!直近通期に営業最高益計上もPBR1倍割れ(西勇太郎)

2025/10/9 8:00

 モルソン・クアーズは世界4位のビール会社で、クアーズ、ミラー、ブルームーンなどを有します。保守的な事業戦略ゆえに業績が低迷していた同社は、2019年就任のハターズリーCEOの下で総合飲料企業へと転換し、2024年度には営業最高益を計上しました。他方、株価は過去実績比、同業他社比で割安感があり、投資判断を買い推奨とします。

目次
  1. まずはオリオンビール含め世界の主要ビール企業のROEとPBRの関係を比較
  2. SABミラーの米国事業買収を契機に米国でのビール中心事業から戦略転換
  3. 当期純利益は高水準継続見通しも、業績見通し下方修正に強く反応し、株価は赤字となった2020年度レベルまで下落
  4. EV/EBITDAが過去平均水準に回復すれば株価は70ドル
  5. ビール同業他社比でPBRに割安感があり、解消されれば株価は90~160ドル

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の西 勇太郎が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
米ビール大手モルソン・クアーズを買い推奨!直近通期に営業最高益計上もPBR1倍割れ

まずはオリオンビール含め世界の主要ビール企業のROEとPBRの関係を比較

 9月25日にオリオンビール(409A:東京)(株価1,548円:10月3日終値)が上場しました。同社を含めて世界の主要ビール企業10社につき、自己資本利益率(ROE)を横軸、株価純資産倍率(PBR)を縦軸とした散布図で比較すると、おおむね比例関係にあることが分かります。

 オリオンビールの2025年3月期のROEは33%で現在のPBRは3.8倍となっており、おおむねROEに見合った水準の株価となっていると思います。

<主なビール企業のROEとPBRの関係>

主なビール企業のROEとPBRの関係
出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

 ただし、2025年3月期のオリオンビールの利益は経常利益34億円にJR九州ホテル「ブラッサム那覇」の売却によって得た特別利益68億円が含まれた数字であることに留意が必要です。

 2026年3月期には「オリオンホテル那覇」の売却による特別利益10億円が見込まれますが特別利益の金額は前年より小さくなるため、当期純利益も2025年3月期の73億円から2026年3月期には33億円へと減少することが見込まれています。

 今回は、ROEとPBRの関係比較において割安感が際立っている米モルソン・クアーズ・ビバレッジ(TAP:NYSE)(株価46.18ドル:10月2日終値)を取り上げたいと思います。

SABミラーの米国事業買収を契機に米国でのビール中心事業から戦略転換

 モルソン・クアーズは、北米市場の統合とグローバル展開の加速を目的としてカナダのモルソン(1786年設立)と米国のクアーズ(1873年設立)が2005年に合併して誕生した企業です。

 2016年にベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(BUD:NYSE)が英国のSABミラーの買収を企図した際、米司法省が独占禁止法の観点からSABミラーの米国事業を切り離すよう求めました。

 そこで、すでに米国でSABミラーとの合弁会社、ミラー・クアーズを有していたモルソン・クアーズが米国事業の買い手となり、その結果同社の売上高は2倍以上に増加しました。現在は世界のビール市場で4位(市場シェア約8%)の企業となっています。

 保有する主要ビールブランドは、クアーズ、ミラー、ブルームーンなどで、軽くてすっきりとした、苦味やコクは控えめのビールが主力です。

 余談ですが、この2016年のアンハイザー・ブッシュ・インベブによるSABミラー買収の際に、SABミラーの欧州事業の一部を買収したのがアサヒグループホールディングス(2502:東京)です。買収の結果、アサヒグループHDの売上高は10%以上増加しました。

 モルソン・クアーズはもともと、製品はビール中心、市場は北米中心を堅持する保守的な事業戦略の会社で、2010年代半ば以降顕在化した若年層のビール離れなどによる北米市場の頭打ちの状況下、企業業績も伸び悩んでいました。

 そこに上記のSABミラー米国事業の買収が生じ、一気に事業規模が拡大しました。買収に伴う財務負担に苦しむ中、SABミラー出身でミラー・クアーズのCEOを務めていたギャビン・ハターズリー氏が2019年にモルソン・クアーズのCEOに就任しました。

 彼の下でモルソン・クアーズは、「ビール企業から総合飲料企業へ」という戦略転換を掲げ、社名も「Molson Coors Brewing Company」から「Molson Coors Beverage Company」へと変更しました。

 そしてハターズリーCEOはビールについてはプレミアムブランドのマドリやペローニ、ブルームーンに注力するとともに、ビール以外の飲料としてビジー(アルコール入り炭酸水)、ゾア(エナジードリンク)、ブルームーンノンアルコールなどを拡充。これらの戦略が奏功し、2024年度には営業利益が過去最高を計上するに至りました。

当期純利益は高水準継続見通しも、業績見通し下方修正に強く反応し、株価は赤字となった2020年度レベルまで下落

 モルソン・クアーズの調整後の利払い前・税引き前・減価償却前利益(EBITDA)は、2019年末からの構造改革に伴うリストラ費用や減損損失に加え、コロナ禍による需要減の影響で2020年度以降低迷し、2022年度には20億ドル近辺まで減少。

 しかしその後、プレミアムブランドの急成長やビール以外への多角化戦略が奏功したこと、さらにアンハイザー・ブッシュ・インベブのバド・ライトが米国でトランスジェンダープロモーションキャンペーンを行ったことに対するボイコット運動が起きたことに伴う代替需要などで、調整後EBITDAは24億ドルを上回る水準まで急回復しました。

 プレミアムブランド育成戦略に伴って他社からの委託醸造契約を2024年に終了したことから、2025年度の調整後EBITDAは減少するものの、23億ドル近辺のレベルを維持するものと見込まれています。

<モルソン・クアーズの調整後EBITDA推移>

モルソン・クアーズの調整後EBITDA推移
※2025年の調整後EBITDAはFactSetの調整前EBITDA予想から試算
出所:モルソン・クアーズ資料などより楽天証券経済研究所が作成

 他方、株価については2025年度の前年比減少に強く反応する形となっており、調整後EBITDAが底打ちした2022年度レベルを下回る状況です。

<モルソン・クアーズの株価推移>

モルソン・クアーズの株価推移
※2025年の株価は直近値
出所:モルソン・クアーズ資料などより楽天証券経済研究所が作成

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