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「高市トレード」円安に持続性はある?政策・政局の行方と警戒すべき米国要因

2025/10/8 17:00

 自民党新総裁に高市氏が選出され、政策期待などから「高市トレード」で円安が進行。この動きにどれだけ持続性があるかが今後の焦点です。政局・財政政策の不透明感に加え、米政府機関閉鎖や利下げ観測など米国要因も。ここからの円安は市場の警戒心が高まることが予想されます。

目次
  1. 「高市トレード」円安の持続性は?政策の先行きと米国要因が焦点
  2. 米政府機関閉鎖の悪影響と日銀の利上げ姿勢。円安のスピード調整にも警戒

「高市トレード」円安の持続性は?政策の先行きと米国要因が焦点

 10月4日、高市早苗氏が自民党新総裁に選出されたことから、週明けのドル/円は2円超のギャップオープンとなりました。「ギャップオープン」とは、前週の終値と翌週の始値に段差が生じて相場が始まることです。今回の場合は、円安方向でギャップオープンしました。

 高市氏の政策期待、すなわち、財政拡張路線、利上げに否定的、円安容認を背景とした「高市トレード」(円売り、日本国債売り〈金利上昇〉、日本株買い)が噴き出した動きです。

 日本株は、財政拡張・金融緩和路線による景気刺激政策への期待から2,000円超の急騰となりました。菅義偉、岸田文雄、石破茂総裁が選出された時は下落で始まったことと比べると日本の変化の期待が大きいようです。

 一方、新発10年物国債利回りは財政拡大懸念から前週末比0.02%上昇の1.68%と約17年ぶりの高水準となりましたが、自民党役員人事の要職には財政規律的な麻生派が起用されるとの期待から金利上昇幅は限定的でした。

 ドル/円は、高市氏の円安容認姿勢と日本銀行の利上げに否定的なことから、ギャップオープンの後も円安が進み、150円台を突破しました。

 そしてこれらの動きに持続性があるのかどうかが市場の焦点となっていますが、持続の一つのハードルとして最も注目されるのが政局、政策の先行き不透明感です。

 政府・自民党は首相指名選挙については15日で調整とのことでしたが、自公連立政権の確認や一部野党との連立拡大の協議に時間がかかるとして遅れる可能性がありそうです。7日の高市新総裁と公明党の斉藤鉄夫代表との会談で連立政権の継続について話し合われましたが、連立合意は持ち越しとなりました。

 相場にはあまり影響がなかったようですが、高市氏の首相指名までにどのような連立政権になるのか市場の波乱材料になるため注目です。連立拡大しても公明党が連立から離脱すれば、衆議院では過半数を取れない事態は変わらないことになるため、政府与党の思い通りの財政政策を取れない可能性があります。

 また、高市新政権が発足しても、高市氏は財政政策に関して、「責任ある積極財政」を唱えていますが、「責任ある」という言葉や連立の相手との調整で、市場が期待していたほどの財政政策にはならないかもしれません。

 行き過ぎた財政拡大には財政規律的な麻生派が抑制することも想定されます。その時は失望感から総裁選出時とは逆の動きになる可能性があるため注意が必要です。

 また、法案を通すために野党からの財政拡大要請を受け、財政を拡大し過ぎると財政拡大懸念の方が勝り、金利は上昇し、さらに円安になり、株は下落するというシナリオも想定しておく必要があります。2022年に英国で財政拡大懸念から金利が急騰する「トラス・ショック」が起き、ポンドが急落したような事態になるシナリオです。

 日本の変化に対する期待は大きいですが、時間とともに期待が変わる可能性もあるかもしれないことを考慮すると、ドル/円はやはり、米政府機関閉鎖による米国の景況感悪化懸念や年内2回の追加利下げ観測などの米国の要因によって影響を受けるのではないでしょうか。

米政府機関閉鎖の悪影響と日銀の利上げ姿勢。円安のスピード調整にも警戒

 米政府機関閉鎖による影響については、オバマ政権時の2013年(16日間)の時も、第1次トランプ政権時の2018年12月~2019年1月(35日間)の時も国内総生産(GDP)成長率を押し下げたといわれています。ベッセント財務長官は、2日、「連邦政府の一部閉鎖によって米経済成長、米労働者への打撃がみられるかもしれない」と述べ、米景気への影響を懸念しています。

 米政府機関閉鎖の影響は長引けば長引くほど米景気に悪影響を与え、米労働市場への下振れリスクを高めることになりそうです。3日発表予定の雇用統計は延期となりました。新規失業保険申請件数も延期となったことから、雇用状況が把握できなくなってきたため10月利下げ観測も揺れ動いています。

 1日の民間の調査機関が発表したADP全国雇用者数は予想の+5万人に対して▲3.2万人と悪化したことから、やはり、米国雇用市場は下振れているのかとの見方になったものの、1日の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況指数、3日のISM非製造業景況指数の雇用指数が前月を上回ったことから市場のかく乱材料となっています。

 しかし、政府機関閉鎖による政府職員の一時帰休が75万人といわれており、閉鎖が長引けば一時帰休が解雇に変わる可能性もあることから、閉鎖が長期化すればするほど雇用の下方リスクが一段と高まることも予想され、10月利下げ期待は高まることが予想されます。このことがドルの上値を抑えてくることが予想されます。

 高市新総裁は、金融政策について、「財政・金融政策の方向性を決める責任は政府にあるが、金融政策の手段は日銀が決めるべき」と述べています。利上げを決める責任は政府にあると明言していることから、市場の10月の日銀利上げ期待は、総裁選前の70%近くから30%近くまで下がりました。

 ただ、そもそも10月よりも12月利上げとの見方も多かったため、12月、もしくは来年1月の利上げ期待はくすぶり続けると思われます。市場では日銀は追加利上げがやりづらくなったとみていますが、10月会合で利上げ姿勢に変化がみられるのかどうか注目したいと思います。

 8日、植田和男総裁のパリ・ユーロクラブでの講演が高市新総裁選出後の初めての講演として注目されていたのですが、イベントが中止になったため講演は取り止めとなりました。

 16日の田村直樹日銀審議委員の講演、17日の内田真一日銀副総裁の講演、20日の高田創日銀審議委員の講演がますます注目されることになります。

 ドル/円は152円台に乗せましたが、150円超の水準は2月と8月に植田総裁とベッセント財務長官が電話会談した時の水準であり、米国からのけん制も飛んでくることも予想されるため、ここからの円安は市場の警戒心が高まることが予想されます。

 ご祝儀相場が一巡し、具体性を伴わない政策期待が織り込まれ、円買いポジションの巻き戻しがひと段落つけば、円安のスピード調整の可能性もあり注意が必要かもしれません。

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