プラチナ市場は常に変動しているが、年初から上昇しているプラチナ価格を受けて利益確定売りに動いている上場投資信託(ETF)の投資家もいる。しかし、ETFの売りが増えても、我々がこれまで予測してきたプラチナ市場の大幅な供給不足が目立って減る可能性は少ないだろう。

 その理由として、(1)今年上半期を通じて中国のプラチナ宝飾品とインゴット・コインの投資需要が予想を上回る強さであること、(2)関税リスクでNYMEX保管庫の在庫が再び増えていることが挙げられる。

 地上在庫はプラチナ不足を補うために過去2年間で約38%減った。我々は今までもETFはプラチナの供給源になりうると指摘してきたが、それは売却を促す価格があっての話だ。

 我々が推定する保有ETFの加重平均コストは1,100ドル/オンス(リンク)で、従って供給不足3年目で今後もさらに逼迫する予測の中、プラチナ価格が5割上昇し、1,400ドル/オンスで利益確定売りに走る投資家がいても不思議ではない。8月7日時点のETFの売りはネットで4.3トン、特に7月はネットで売りが7.2トンもあった。

 5月にプラチナ価格が上がり始める前は、『プラチナ四半期レポート2025年第1四半期』で述べたようにETF保有高はネットで3.1トンの予測だった。

 年初からの売りを考えるとプラチナ供給に影響し、我々が予測した30.0トンという不足量を下回る可能性はあるが、ETF保有高が減ったとしても、その影響で9月に『プラチナ四半期レポート』で発表する今年のプラチナ不足に大きく影響することはないと考えている。中国のプラチナ需要は予想を上回っており取引所在庫の水準も高いからである。

図1.2025年の投資需要全体はETF売却で下方修正される可能性

2025年の投資需要全体はETF売却で下方修正される可能性
出典:メタルズフォーカス(2025年予測)、WPICリサーチ

図2.中国はプラチナインゴットとコインの投資需要で世界最大の単一市場

中国はプラチナインゴットとコインの投資需要で世界最大の単一市場
出典:メタルズフォーカス(2019年〜2025年予測)、WPICリサーチ

 7月の上海プラチナウィークにてYueheng、Jin Zheng Long、Better Goldの各社を訪問したが、全社共に年初からのプラチナ投資商品の販売が大幅に増えていること、プラチナ宝飾品メーカーDarunfaも注文が倍増しているとのことだった。前年より販売が増えただけでなく、プラチナインゴットやコイン製造に20社、宝飾品製造には15社が新たに参入し競争が激化している。

 第2四半期の中国のプラチナ輸入は前年比で26%増え、SGEの取引量も増加している。メーカーによると6月〜7月にプラチナ価格が上昇したため需要は多少減っているが、それでも中国の投資と宝飾品需要の予測は今後上方修正することになるだろう。

 一方で、米国が通商拡大法232条に則って銅の関税を発表した後、取引所在庫は再び増加傾向にある。年初から約7.5トン増え、我々が予測した4.7トンを超えた。

 中国の需要と取引所在庫の増加が、ETF売却でプラチナ不足解消する可能性を打ち消し、供給不足3年目となる今年のプラチナ投資の魅力は衰えないと言えよう。

年初からプラチナ価格は5割ほど上がり利益確定でETFを売却している投資家もいるがプラチナ不足の解消には至らない

プラチナ市場は3年連続で大幅な品不足予測で、地上在庫で需要を満たす必要

投資資産としてのプラチナを支える背景

-WPICのリサーチによると、プラチナ市場は2023年から供給不足が続き、2029年までに地上在庫がなくなる可能性
-プラチナ供給は、鉱山生産、リサイクルともに課題が多い
-米国の関税で需要低迷のリスクも、宝飾品と中国の投資需要が補う可能性
-リースレートの上昇とロンドン先物市場のバックワーデーションがタイトな市場を反映
-プラチナ価格は長い期間過小評価が続きゴールドよりも大幅に安い

図3:2013年以降プラチナの投資需要は需要全体の約8%〜20%、他の需要分野よりも変動が大きい

2013年以降プラチナの投資需要は需要全体の約8%〜20%、他の需要分野よりも変動が大きい
出典:SFA(Oxford)2013年~2018年、メタルズフォーカス(2018年~2025年予測)、WPICリサーチ

図4:3年連続のプラチナ不足で地上在庫は2022年〜2025年で約55%減る予測

3年連続のプラチナ不足で地上在庫は2022年〜2025年で約55%減る予測
出典:SFA(Oxford)2018年、メタルズフォーカス(2018年~2025年予測)、WPICリサーチ

図5:7月のETF売却は恐らく利益確定売り、今後も続けば今年のETF保有高は予測の3.1トンを下回る可能性

7月のETF売却は恐らく利益確定売り、今後も続けば今年のETF保有高は予測の3.1トンを下回る可能性
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図6:年初からのSGEのプラチナ累積取引量は既に2023年と2024年全体を上回る

年初からのSGEのプラチナ累積取引量は既に2023年と2024年全体を上回る
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図7:NYMEX保管庫在庫は関税騒動で変動が大きく、現在は予測の13.1トンを4.7トンも上回っている

NYMEX保管庫在庫は関税騒動で変動が大きく、現在は予測の13.1トンを4.7トンも上回っている
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図8:2025年のプラチナのリースレートは高止まり、プラチナ市場がタイトであることを示す

2025年のプラチナのリースレートは高止まり、プラチナ市場がタイトであることを示す
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

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