米雇用データの陰りと過去分の下方修正を受け、景気は以前から想定以上に弱かったという見方が出ています。しかし現時点で、この評価には違和感があります。関税の悪影響や雇用悪化が進むにしても、景気が底堅いうちに利下げが推進されるケースは、株式にとって最善の中期シナリオになる可能性があります。
サマリー
●米雇用指標の陰り、過去データの下方修正を受け、景気は悪いとの評価は短絡が過ぎる
●株価は、雇用悪化で下落と、利下げで上昇のはざまでも、中期では上昇トレンド優勢
●ただし、雇用悪化と利下げの交錯が、相場に波風を立て、割高なAI相場にかく乱も
雇用者数の陰り
米雇用データの最近の陰りと過去のデータの下方修正を受け、景気はかなり前から弱かったという解説が目立ちます。しかし、現時点で、この評価には違和感があります。雇用の伸びが鈍化していることは、雇用関連データで確認されていました。また、景況感は数カ月ごとに強弱に振れても、通年での経済成長はしっかりで、景気は良好とされていたはずです。
最近の雇用データの陰りについて、整理します。8月初め公表の非農業部門雇用者数の伸びが低く、さらに、その前2カ月分が大きく下方修正されました。それまで、米雇用は堅調と評価していた市場も政策当局も、ここで一気に雇用の陰りを意識し始めました。そして9月初め公表分も弱めでした。
さらに9月10日には、非農業部門雇用者数の統計の年次改定が行われ、今年3月までの1年間について、当初公表値から91.1万人下方修正されました。月割平均で7.6万人ほど減る勘定です。公表値からの減少幅を、図1の棒グラフの白抜き部分で示しています。
<図1>米非農業部門雇用者数(月次増減)と失業率
これら一連の数字を確認した市場は、米連邦公開市場委員会(FOMC)が0.25%の利下げを、9月17日から始まって年内3回弱、2026年にはさらに3~4回を織り込むに至っています。
景気は弱いのか
実は、雇用の陰りは2024年から、ADP雇用統計、雇用動態調査(JOLTS)、ISM企業調査の雇用項目、失業保険継続受給件数などの関連データで確認されていたことです。しかし、政府集計の統計が強めに出る場面が多く、雇用は堅調、景気もしっかりという認識が、結果的に優勢なままでした。
しかも、2024年の間は、雇用の鈍化がインフレ抑制に必要であり、関連データを含む統計に確認される程度の陰りは良い兆候とさえ考えられていました。
図1には失業率も並べて表示しています。米連邦準備制度理事会(FRB)は、失業率4.2%を完全雇用の状態と判断しています。4.2%は、これ以下になると、雇用市場は過熱気味で、賃上げによってインフレを促進しかねない、また、インフレ抑制を求める時には、これより高い失業率まで雇用の伸びを抑える必要があるという分水嶺(れい)の水準になります。
失業率は2022年から2024年もしばらく3%台後半でした。同年後半から最近まで、完全雇用の失業率かやや低い4.1~4.2%で推移し、この9月5日公表の8月分でようやく4.3%になったところです。
また、失業率4.2%は、FRBが国内総生産(GDP)の巡航成長ペース+1.8%とバランスするものです。2024年のGDP成長率の実績値は、四半期ごとの前期比年率で+2.9%、+3.0%、+2.7%、+2.5%と、巡航ペース+1.8%を上回っていました。これと整合的に、失業率は4.2%より低かったといえます。
雇用者数の伸びについても、失業率を変化させない中立ペースが、長らく16±3万人程度とされていました。労働人口の増分から、16万人前後を雇用に吸収すれば、失業率は上がらないという計算になります。しかし、2024年から2025年3月分までの雇用者数が下方修正され、月当たり+7.1万人となっています。それにもかかわらず、失業率は大半の期間4.1~4.2%のままでした。
ここから読み取るべきは、もはや毎月10万人未満の雇用増でも、失業率が高まらないことです。推測される背景には、労働市場の構造変化があります。例えば、移民労働者の国外退去など伸びの鈍化、団塊世代の離職など、労働力の供給が減少して、雇用需要の陰りとバランスが取れていたということです。
パウエルFRB議長は、雇用の需給がともに減少して均衡するという難しい状況にあること、それがどちらかといえば、経済の悪化リスクになり得ることを、ジャクソンホール会議での講演で認めています。
要は、雇用の伸びの鈍化、下方修正を見て、単純に景気は想定していたより悪かったと結論付けるのは、短絡が過ぎるでしょう。筆者は、雇用に陰りはあるものの、現時点での景気はまだ底堅い、ただし向こう数カ月は、関税の悪影響が米国内にも及ぶことを注視し、雇用の悪化具合をここから確認していく入り口にいるという情勢判断です。
米国株のシナリオ
株式相場については、雇用悪化が景気悪化に至って逆業績相場の下落になるか、雇用悪化が利下げやトランプ政権の政策を促して金融相場的な上昇になるかを、シナリオの両極として、たたき台に乗せます。
両シナリオは、同時期に対峙(たいじ)するものでなく、時間差で捉えるべきものです。つまり、雇用悪化で景気悪化が懸念される状況に応じて、利下げは進みます。そして、この利下げは雇用が改善するまで続けられるでしょう。そして景気・雇用が改善するより早く、株式相場が利下げを好感して金融相場の上昇を開始するのが、通常のサイクル・パターンです。
最悪シナリオとして、雇用・景気が悪化するのにもかかわらず、関税インフレが長引いて、利下げが遅れるケースがあり得ます。スタグフレーション(不況=スタグネーションとインフレーションの同時進行)と呼ばれる事態です。
逆に、株式相場にとっての最善シナリオは、景気が底堅いうちに、雇用の陰りに先手を打って利下げを進める展開でしょう。逆業績相場を見ないうちに、金融相場の上昇が進むイメージです。現在の政策金利は4.25~4.5%であり、FRBメンバーが中立的と考える中央値3%からすれば、引き締め的です。従って、雇用の陰りが続けば、関税インフレが一過性である可能性を踏まえて、利下げを進めるとの読みが妥当と判断しています。
筆者は、米国の雇用・景気指標に陰りが広がる一方で、景気後退とされるほどに悪化するリスクは相対的に小さいとの見方をベース・シナリオとしています。この状況での利下げの進行は、株式相場にとって最善のシナリオになり得るでしょう。
この最善シナリオにおけるリスクは、すでに割高とされる株式相場が、雇用悪化への懸念と利下げへの期待が交錯する中でかく乱され、波乱含みの地合いとなり、テクニカルに不測の崩落事故を起こす事態です。しかし、これを投資の実践に落とし込むなら、リスクを常時留意しながら、最善シナリオにもなり得る相場を、慎重に前向きに取りにいくことに尽きます。
*本稿は個別銘柄を推奨するものではありません。投資はご自身の判断と責任において行ってください。
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【米国株】雇用悪化 vs. 利下げ、ここで白黒つけよう
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