米国株を中核に据えたグローバル分散投資は、2025年上半期も波乱局面を乗り越え堅調な成果を維持する傾向にある。特に欧州株、中でもドイツ株が相対的堅調を示し、リスク分散の有効性を実証した。米国市場では第2次トランプ政権下での景気刺激策や、AI関連を中心とする大型民間投資が進展することで、年後半の相場堅調にも期待が高まっている。
過去30年にわたるグローバル分散投資の成果とは?
2025年上半期の世界市場は、「トランプ関税ショック」(4月の相互関税発表による景況感悪化)や「中東紛争危機」(6月の原油価格急騰)といった波乱を乗り越え、オールカントリー株式を象徴するMSCI ACWI指数(ドル建て)は6月に史上最高値を更新しました。
特に米国株式は5月以降に回復基調を強め、主力テック株を象徴するナスダック100指数は6月下旬に6日連続で最高値を更新。S&P500種指数も、6月末に向けては4カ月ぶりに連日で最高値を更新しました。
関税協議の進展、中東情勢の落ち着きに伴う原油相場沈静、年後半の利下げ期待、「人工知能(AI)革命の第二幕入り」を受けた主力テック株の業績拡大見通しが株価復調の支えとなっています。6月はエヌビディア株が史上最高値を更新し「世界の時価総額ランキング1位」に再浮上したことも注目されました。
図表1は、1995年初を起点とする米国株式、世界株式、日本株式の長期推移(月末値)を示したものです。長期的な視野で振り返ると、米国株式を中核に据えた世界株式の堅調トレンドを明確に示しています(2025年6月末時点)。
図表1:米国株式がリードし世界株式は堅調トレンドに回帰した

なぜ世界株式は堅調な推移を続けているのでしょうか。図表2は、国際通貨基金(IMF)が2025年4月に発表した「1980年から2030年までの世界名目国内総生産(GDP:米ドル換算)」の実績と予測です。
世界経済は長期的に拡大基調を維持しており、2030年には144.6兆ドル(約2京円)に達する見通しです。特に米国は、世界GDPの約25%を占めており、人口動態の安定、技術革新の進歩、資本市場の規模と効率性が寄与し、今後も持続的な成長が期待されています。
米国株式市場は大手テック株を中心に、自己資本利益率(ROE)が18%超と世界トップにあり、「株主資本主義」の代表格とみなされています。こうした資本効率の高い市場に長期視点で投資し、世界の成長機会を享受する手段として、米国株式を軸にしたグローバル分散投資は有効と言えるでしょう。
実際、S&P500を構成する多くの大手グローバル企業は世界各国でビジネスを展開しており、全体として利益が成長し企業価値を拡大させています。だからこそ、時価総額加重平均株価指数を象徴するS&P500が長期で優勢を示してきたと言えます。
積み立てなどの時間分散と合わせて長期投資を継続することは、リスクを抑えながら安定的な資産形成を目指す一助になると思われます。
図表2:世界の名目GDPは今後も拡大基調が続く見通し(1980~2030年)

ドイツ株が示した欧州株への分散投資効果に注目
2025年上半期の年初来リターンを比較すると、ドイツ株(DAX)は+20%と、米国株(S&P500:+5.5%)や日本株(東証株価指数(TOPIX):+2.4%)を大きく上回りました(6月末時点)。
米国株が「トランプ関税ショック」を起因に一時急落を余儀なくされた一方、欧州株、特にドイツ株の堅調がグローバル分散投資の効果を際立たせました。すなわち、ドイツ株の相対的な堅調が米国株の低調を補い、世界株式全体としての投資成果の安定化に寄与したことが特徴です。
図表3:2024年にドイツのGDPは日本を抜き世界3位となった

図表3は、IMFが公表した「主要国の名目GDP(米ドル換算)規模」の推移と予測(2025~2030年)を示しています。最大規模と成長ペースを維持しているのが米国であることは明白です。
注目したい点としては、ドイツが2024年に日本を抜き世界3位となり、2025年にはインドが日本を抜いて4位に浮上する見通しです。なお、最近のドイツ株堅調を支える要因としては、
[1]防衛・インフラ分野での積極的な財政出動
[2]テクノロジー投資や規制緩和への期待
[3]通貨ユーロの安定性
[4]米国のMAGA政策を回避したい資金の流入
[5]欧州中央銀行(ECB)の利下げ効果期待
[6]ウクライナ復興需要への期待
などが挙げられます。
特にドイツ政府は、長らく続けてきた財政均衡主義を転換し、防衛費やインフラ投資の大幅拡大(財政拡張策)にかじを切りました。これにより、ドイツ経済の先行き成長期待が高まり、欧州市場全体の評価向上にもつながりました。
今後もグローバル分散投資においては、米国株に加えて、欧州株を戦略的に組み入れることが、リスク調整後リターンの改善につながると考えられます。ただし、短期目線では7月に控える米国と欧州連合(EU:ドイツを含む27カ国)の関税交渉の行方とその影響をリスク要因として注視するべきでしょう。
対米直接投資増加を受けた景気と米国株価の行方に注目
米国市場については、関税交渉、景気減速、インフレ再燃といった懸念が依然残っています。特に7月9日(水)に期限を迎える「相互関税の猶予」措置を巡るディール外交の行方には、市場の警戒感が根強くあります。
とはいえ、先行き景況感を下支えする要因も複数あります。6月に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)では、2025年の実質GDP成長率を+1.4%、2026年を+1.6%と予測し、「年内2回の利下げ」の可能性が示唆されました。債券市場における長期・短期金利は安定傾向で、利下げが進めば住宅市場、設備投資、個人消費などに好影響をもたらすと市場は期待しています。
さらに、トランプ共和党政権は、2026年11月3日に実施される中間選挙を見据え、大型減税法案(One Big Beautiful Bill)や金融・テック分野の規制緩和などの景気刺激策を推進する構えです。足元の株価上昇による「資産効果」も、消費や投資活動にプラスとなりそうです。
注目すべきは、1月の第2次トランプ政権発足後に公表された、内外からの対米直接投資プロジェクトの増勢です。
中東諸国(サウジアラビア、UAE、カタール)、日韓企業、米国内のテック・製薬関連企業などにより、累計総額で約5兆ドル(約725兆円)規模の対米投資プロジェクトが立ち上がっており、AI半導体製造やデータセンター建設、医薬分野への投資案件が急増しています。
トランプ政権は、前・バイデン政権での「官僚主導」を削減し、「民間主導」による投資活発化を目指しています。こうした対米投資は、技術革新の進歩と雇用創出に寄与し、米・製造業復興と経済の底上げを後押しすると期待されています。
図表4は、バンク・オブ・アメリカ(BofA)が毎月実施している「世界ファンドマネジャー調査」の結果における「世界経済見通し」(予想平均)の推移を示したものです(6月調査は6月6~12日の期間に実施:全体で222人の機関投資家が参加。運用資産総額は約5,870億ドル≒約85兆円)。
4月に減少した「ソフトランディング」(景気の軟着陸)や「ノーランディング」(経済成長の持続)の予想が5~6月に2カ月連続で急回復し、「ハードランディング」(景気後退)予想が急低下したことを示しています。2025年後半は、米国を中心とする世界景況感の改善に応じて、市場参加者の投資マインド改善が続くかどうかに注目です。
<図表4>機関投資家の「世界経済見通し」が5~6月に急改善

米国とドイツが世界株高をけん引、やっぱりグローバル分散投資が王道!
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