先週から続く関税問題や金融政策に加え、中東地政学的リスクの高まりや原油高などが新たな要因として加わりました。今週はドル高・円安要因が多く、中東情勢に影響される相場が続きそうです。
トランプ政権の動向とG7:中東リスクで政策判断は?
先週は米5月消費者物価指数(CPI)、卸売物価指数(PPI)がインフレ鈍化傾向を示唆する内容だったため、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ再開期待からドル売り地合いとなっていました。ですが、13日、イスラエルのイラン攻撃が報道されると、一時1ドル=143円割れの円高に反応した後は、有事のドル買い優勢となり、1ドル=144円台の円安になりました。
また、原油はウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)ベースで一時14%高の1バレル=77ドル台後半に急伸しました。14%の上昇率は5年ぶりとのことです。原油上昇も円安を後押しする材料でした。
イスラエルとイランは2024年4月に史上初めて交戦し、同年10月にも交戦しました。今回の交戦で3回目になるのですが、過去2回は双方とも抑制的であったため、戦火は拡大せず、短期間で終結しました。しかし、今回のイスラエルの攻撃はこれまでと違い、かなり本気の攻撃です。
イスラエルはイランの核施設と軍事施設や、軍司令官を標的に戦闘機で100カ所以上を攻撃したと発表しました。核施設への空爆は初めてとなります。イスラエルはイランの防空システムを破壊し、制空権を掌握したとのことで、核施設を完全に破壊するまでは攻撃の手を緩めない可能性があります。
イスラエルのネタニヤフ首相は「イランの脅威を排除するまで攻撃は何日でも続く」と明言しています。ただ、イランのウラン濃縮は地下施設で行われていて、イスラエル単独だけでは破壊不可能であり、米国の参戦が必須だという点には留意しておく必要があります。
今週は関税を巡るトランプ政権との貿易協議に加え、G7サミット(15~17日)、日本銀行金融政策決定会合(16~17日)、米連邦公開市場委員会(FOMC)(17~18日)と材料が多い中、新たに中東地政学的リスクの要因が加わったことから、相場は混乱する可能性があります。
G7サミットでは、トランプ政権の保護主義的な政策や関税引き上げによる世界経済への影響などが議論されると注目されていましたが、トランプ大統領はサミットを途中で切り上げ、16日夜に帰国してしまいました。中東情勢に対応するためと説明しています。
16日付のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙によると、米国がイランへの攻撃に加わらないことを条件に、イランがイスラエルとの軍事衝突の終結と核開発に関する協議の再開を探っていると報じました。
この報道が流れたことや、イスラエルによるイランの石油輸出インフラへの攻撃が限定的なことから、市場では早期終結に楽観的な見方も広がりました。株は戻り、上昇した原油も下がりました。しかし、17日にはトランプ大統領がイランに無条件の降伏を要求したとの報道や米軍のイラン攻撃も検討との報道から、株は再び重くなり、原油も再び上昇しています。
イランのホルムズ海峡の封鎖、米軍のイラン攻撃あるいは中東駐留の米軍への攻撃など戦火拡大懸念の悲観シナリオは一時後退しましたが、引き続き警戒する必要はありそうです。
ネタニヤフ首相は、イランへの攻撃理由として、「イランが極めて短期間に核兵器を製造する可能性がある」と主張し、イランの核の脅威の排除に動いたと説明しています。一方で、ネタニヤフ首相の支持率低迷、汚職疑惑など国内事情もあるとの見方や、15日の米イラン核協議で米国がやや譲歩してくるとの見方があったこともこのタイミングでの攻撃だったという見方もあります。
トランプ大統領の心中には、15日の核協議を待たずに攻撃に踏み切ったネタニヤフ首相への不信も残る形となりました。米国としては中東の戦火には巻き込まれたくないとの思惑もあるようですが、トランプ大統領の制御が利かない事態にならなければよいのですが…。
今週のイベント:日銀・FOMC、中東リスクで不透明感が増す
今週の日米金融会合では、中東地政学的リスクの高まりや原油高要因など不透明要因がさらに加わったことから、インフレには警戒的になることが予想され、日米とも慎重姿勢を続けることが予想されます。
日銀の金融政策決定会合(16~17日)では関税政策の影響がまだ見極められないことから、3会合連続で利上げは見送られました。
また、国債市場の不安定さを未然に防ぐため国債買い入れの減額ペースを緩やかにし、来年4月から四半期当たり4,000億円から2,000億円に削減することが決定されました。減額ペースの縮小は緩和縮小の先送りとなるため円安材料となりますが、すでに市場は織り込んでいたため、円安も限定的な動きとなりました。
ただ、会見では利上げの時期は明言を避け、タカ派的な内容ではなかったことから、当分、日銀材料は円高要因にはなりにくい状況が続きそうです。
17~18日のFOMCでは、経済の先行きの不透明感から、今回も政策金利の据え置きが見込まれますが、中東情勢の悪化は政策判断に大きな影響を与えるとみられ、FOMCの声明の内容や経済・金利見通しに注目です。
3月の経済・物価見通しでは2025年10-12月期国内総生産(GDP)は下方修正(2.1%→1.7%)、物価見通しは上方修正(2.5%→2.7%)となり、金利見通しは前回12月同様、年2回利下げを維持しました。
今回、さらにGDPが下方修正され、物価は上方修正されるのか、また利下げ見通しが2回から1回になるのかどうか注目です。
FOMC後の記者会見でも、パウエル議長は様子見姿勢を示すと予想されますが、中東の地政学的リスクについてどのように触れるのか注目したいと思います。原油高を意識して、インフレを警戒しすぎると、景気後退への対応が遅くなることを市場が懸念する可能性があります。
景気動向に敏感な市場がFRBの対応は後手になると見透かせば、株安やドル安の催促相場が起こるかもしれないため注意が必要です。
17日に発表された米経済指標は軒並み予想を下回りました。米国GDPの7割を占める個人の消費動向を表す小売売上高、製造業・鉱業部門の生産動向を表す鉱工業生産指数、住宅建設業者の景況感を示す米住宅建設業者協会(NAHB)住宅市場指数が予想を下回りました。
特に米5月小売売上高は予想を下回るマイナス0.9%となりました。前月4月も+0.1%からマイナス0.1%に下方修正され2カ月連続のマイナスとなりました。
関税を控えた駆け込み需要の反動による自動車販売の不振が影響したとのことですが、変動が大きい自動車、ガソリン、建設資材、飲食店を除いたコア小売売上高は+0.4%と堅調なことから、消費の動きは底堅いとの見方もあります。しかし、気になる動きではあります。
今週はドル高・円安要因が多い週になるかもしれませんが、原油が大きく動かない限り、ドル円相場もそれほど大きくは動かないと予想されます。しかし、中東情勢によっては大きな変動も予想されるため注意が必要です。ホルムズ海峡封鎖やイランの石油関連施設攻撃によって原油が急騰すれば、一段の円安に動くことが予想されます。
また、米軍参戦によってイランの地下核開発施設の攻撃に地下貫通弾(バンカーバスター)が投下されれば、株急落の見方もあり、場合によっては有事のドル買いよりもリスク回避の円買いが起こるかもしれません。しばらくは、関税問題や金融政策よりも中東情勢に影響される相場が続きそうです。
関税リスクより深刻な中東地政学的リスク。マーケットにさらなる難問が
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