先週は米中協議で貿易摩擦が和らぐも、米雇用統計の下方修正などが背景にあり、ドル/円は1ドル=145円レンジから抜け切れませんでした。今後は、日米協議や米国5月CPIに注目。トリプル安再発の可能性も視野に、新たなドル安要因に警戒が必要です。
ドル/円は上昇したものの、1ドル=145円を抜けず。今週の日米協議も警戒
先週のドル/円は、米中首脳電話会談を受けて貿易摩擦の激化懸念が和らいだことや、5月米雇用統計で非農業部門雇用者数や平均時給が予想を上回ったことから米長期金利の上昇とともに1ドル=142円台から145円台に上昇しました。
米雇用統計の非農業部門雇用者数は前月比+13.9万人と前月(14.7万人)から減少し予想(13万人)を上回りました。また、平均時給は前月比+0.4%と前月(0.2%)から伸び率が上昇し、予想(0.3%)も上回りました。しかし、非農業部門雇用者数は過去2カ月分が▲9.5万人の下方修正となりました。
- 3月:+18.5万人→+12.0万人(▲6.5万人)
- 4月:+17.7万人→+14.7万人(▲3万人)
従って決して強い内容ではなかったにもかかわらず、ドル高に反応したのは2日前に発表されたADP雇用統計が悪い内容だったため、その反動でドル高に反応した要素が大きかったのではないかとみています。
市場が注目する雇用指標は、米国労働省が発表する雇用統計だけでなく、米国労働省発表の雇用動態調査(JOLTS)の求人件数、民間の調査会社であるADP社が民間部門の雇用者数の変化を推計する指標があります。これらはJOLTS求人件数→ADP雇用統計→雇用統計の順番で発表されます。
それぞれの指標で本丸の雇用統計への期待と失望の思惑が交錯するのですが、今月は、3日に発表された4月JOLTS求人件数が739.1万人と予想(710万人)も前月(720万人)も上回りましたが、4日に発表された5月ADP雇用統計が3.7万人と前月(6万人)から低下し、予想(11.2万人)も大きく下回ったことから雇用統計への期待が後退しました。
ところが、6日の5月雇用統計が予想を上回る内容だったため大幅な悪化は回避、その反動で上昇したとみています。しかし、上述したように過去2カ月分が▲9.5万人の下方修正となり、修正後の3カ月平均は+13.5万人となって3カ月連続で平均15万人以下となり、低下傾向になっています。
ドル/円の動きも、1ドル=145円は節目であり、145円台の滞空時間は一瞬だったため、1ドル=140~145円のレンジを抜け切る勢いはなかった印象です。
今週は、9日、10日にロンドンで行われる米中閣僚級協議で協議進展への期待からドルは1ドル=144円台で堅調な動きとなっています。11日の東京早朝、ラトニック米商務長官は「米中協議ではジュネーブ合意実施の枠組みで合意」と述べ、「トランプ大統領が承認すれば実施され、レアアースを巡る問題は解決されると見込む」と発言しました。
この発言を受けて、ドル/円は1ドル=145.15円近辺まで円安に行きましたが、それ以上の勢いはなく145円を挟んだ小動きで推移しています。合意内容を持ち帰って両首脳の判断待ちとなっていることから動きづらいようです。
トランプ政権にとっては、ロシアとのウクライナ和平交渉でウクライナに埋蔵されているレアアースを獲得したいというシナリオを目指していましたが、プーチン大統領が和平交渉には全く興味を示さなかったことで頓挫。今度は中国に対してレアアース輸出規制緩和を狙っているようですが、実際にその思惑通りの合意になったのかどうか注目です。
また、中国にとっては、中国への半導体輸出規制の緩和が満足のいく内容であったのかどうか注目です。両首脳の反応を見極めて、一段のドル高になるのかどうか注目したいと思います。
一方、日米通商協議は、米国にとって日本との交渉の重要度は低下してきており難航しそうな気配です。7月9日の相互関税一時停止期限まで交渉が進まない可能性もあるかもしれません。交渉難航に業を煮やした米国が為替問題を出さなければよいのですが、交渉に時間がかかればかかるほど為替問題に警戒しておいた方がよいかもしれません。
新たなドル安要因、トリプル安再発の可能性も
新たなドル安要因にも留意しておく必要があります。
トランプ大統領は米連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長について早期指名することを示唆しました。4月にトランプ大統領はパウエル議長の解任圧力を強めましたが、市場はトリプル安の動きとなり、ドル/円は1ドル=140円割れの円高になりました。
その後、トリプル安を警戒したトランプ大統領はパウエル議長解任を否定し、柔軟姿勢を示したことからトリプル安はいったん鎮まり、ドル/円も円安に動きました。この教訓からトランプ大統領はパウエル議長に対して利下げを要求しても、解任は口にしなくなりました。その代わり、次期FRB議長の早期指名によって「影のFRB議長」をつくろうとしているのかもしれません。
そうなれば、パウエル議長が何を言おうが誰も聞かず、金融政策の混乱を招きかねない事態になるかもしれません。金融市場はこの混乱を嫌気し、トリプル安が再発するかもしれません。
パウエル議長が選出された時の指名時期は2017年11月でした(前議長の任期は翌年2月まで)。そして続投の指名も2021年11月でした(任期は翌年2月まで)。
つまり、過去2回は任期切れの3カ月前の指名でした。パウエル議長の任期は2026年5月までですので、従来のように3カ月前の指名なら、来年の2月ごろになるのですが、もし、数カ月以内に指名となった場合は、金融市場の混乱を警戒する必要があります。
もうひとつは、トランプ大統領がロサンゼルスでの移民抗議行動に対応するためカリフォルニア州に州兵2,000人の派遣を発表したことです。
カリフォルニア州知事の反対を押し切って派遣に踏み切りましたが、抗議活動が他州へ拡大しており、その時も州兵を派遣するのかどうか注目です。抗議行動による経済活動の停滞だけでなく、米国からの資本流出など米国への信任問題にも波及する可能性があるため、警戒する必要があります。
9日、州兵の派遣は7日の2,000人からさらに2,000人の追加派遣が決定され、連邦軍である海兵隊700人の派遣も決定しました。カリフォルニア州のニューサム知事は、知事の指揮下にある州兵の派遣は違法だとしてトランプ大統領を提訴しました。抗議デモの拡大や他州への波及だけでなく、国内分断の火種にならなければよいのですが、事態の成り行きには注視していく必要があります。
14日には、米陸軍創設250周年の軍事パレードがワシントンであります。トランプ大統領は軍事パレードを巡り、抗議活動を行わないように警告しています。抗議活動が行われた場合、「強力に対応する」と発言しています。14日は、トランプ大統領の誕生日でもあります。
足元では、11日に米国5月消費者物価指数(CPI)が発表されます。トランプ関税の影響を受けて前月より上昇予想となっています。関税による影響は数カ月かかるとの見方もありますが、17~18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の判断材料になるため注目したいと思います。
予想通りであれば、FRBの利下げ期待が後退し、ドル高の後押しになりそうですが、予想通りに上昇するのかどうか注目です。
米中協議後も抜け切れない1ドル=145円。新たなドル安要因にも警戒
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