4月の株価急落は「トランプショック」によるパニック売りが要因でした。ただ過去の歴史では、VIX(恐怖指数)が40超となった場面での「買い」は、後に高リターンとなる傾向が検証できます。関税ディールや景気動向を注視しつつ、積立(定時定額)投資と「ヒラメ型投資戦術」の併用が有効と考えています。
「恐怖心」に支配された相場にこそ「好機」は訪れる
米国株式市場の歴史を振り返ると、恐怖心で相場がざわつき、ニュースや悲観論が不安をあおり、多くの投資家が市場から手を引く「底値圏」こそが、大きなチャンス(好機)だった…という経験則をご存じですか?
実際、4月の株価急落は「大きな隕石(いんせき)が地球に衝突した世界の終末」ではありませんでした。想定を上回った米国の高関税率(相互関税)発表を受け、貿易秩序の変化と不況入りを警戒したパニック売りが重なった「トランプショック」が要因です。今回のような、一時的な混乱が「投資の好機」だったことが過去の歴史でも、うかがい知ることができます。
図表1で示すように、1995年以降(約30年間)で検証すると、市場心理の悪化度合いを示すVIX(通称「恐怖指数」=シカゴオプション市場で計算される株価変動予想)が「40」を超えた日それぞれにS&P500種指数に投資した場合、「半年後」と「1年後」の平均リターンが、1995年以降の全・半年後平均リターンや全・1年後平均リターンの「約3倍」となったことが検証できます。
図表1:「恐怖指数」が40を超えた日からの米国株リターン平均を振り返る

市場が恐怖感に覆われ、株価が急落するときに底値を狙う投資手法を、筆者は「ヒラメ型投資戦術」と呼んでいます。
ヒラメは、海の底に静かに身を潜め、嵐が来てエサが沈んでくると絶好のタイミングで動く──つまり、相場の恐怖が極まった場面での「買い」や「買い増し」がその後のリターン向上の源泉となったという市場実績に倣う投資戦術です。ショック安でも動揺せず、「逆風を好機に変える逆張り手法」として注目していただきたいと思います。
恐怖指数は「トランプショック」を受け急上昇した後に低下
ご参考まで、下段の図表2で1995年以降に恐怖指数が「赤信号」とされる40を突破して上昇を極めたショック(危機)の歴史を一覧にしました。
図表2:「恐怖指数」が40を超えて上昇した場面を振り返る(過去30年)

4月初旬に米国株が急落した後に底打ちしたのは、皮肉なことにトランプ大統領がSNSに「Be cool! This is a great time to buy!!!」(落ち着け!いまが(株式の)絶好の買い場だ!!!)と投稿した9日朝の前日でした。
大統領による発信の是非はさておき、相互関税(4月2日発表)を巡る悲観が極まった4月8日に恐怖指数は52.32(終値)に上昇し、今年前半最大の投資好機となった可能性があります。そして翌9日にNYダウ(ダウ工業株30種平均)は「史上最大の上昇幅」を記録しました。
高関税発表に応じた長期金利上昇(債券自警団による売り)、悲鳴を上げる産業界の陳情、スコット・ベッセント財務長官や、トランプ大統領の側近であるスーザン・ワイルズ首席補佐官(通称「猛獣使い」)による助言で、「中国を除く貿易相手国に対する相互関税発動の90日間停止」を含む猶予策が公表されました。
特に、表舞台に出ず、ホワイトハウス内の調整を担うワイルズ氏の水面下での影響力が、政権内の強硬派にブレーキをかけたとみられています。
結果的に、市場は「高関税を巡ってはディール(交渉)の余地がある」と冷静さを取り戻し、ハイイールド社債スプレッドは縮小し、VIX(恐怖指数)は24.7に低下。長期金利も4.1%台に下がり、S&P500は4月の下げをほぼ埋め戻しました(4月末)。
ナスダック(ナスダック総合指数)の主力株に選別的な買い戻しがみられ、金相場は反転下落。VIXが40を超えた「恐怖の瞬間」で買い増す「ヒラメ型投資戦術」は今回も有効だったといえそうです。
ただ、波乱が収束したとは言い切れません。4月30日に発表された第1Q・米実質GDP(国内総生産)成長率(速報値)は、マイナス0.3%に鈍化しました。関税発動前の駆け込み輸入増による純輸出の減少が主要因で、あらかじめ想定されていた成長率低迷です。市場がこうした足下の悪材料を「アク抜け」と捉えるか否かに注目が集まります。
「トランプ2.0」は高関税策を巡る恐怖だけで終わるのか
なお、イーロン・マスク氏が関与しているDOGE(政府効率化省)の歳出削減の影響で国家公務員の失業者が増え、企業景況感も悪化しています(*2025年4月30日、マスク氏は閣議に出席し、政権から身を引くことを示唆しています)。
5月2日に発表される4月・雇用統計の失業率は、3月実績(4.2%)から上振れる可能性があります。景況感の悪化を受け、トランプ大統領による利下げ督促発言が強まり、パウエル氏が議長を務めるFRB(米連邦準備制度理事会)に、利下げ圧力が高まる可能性にも注目です。債券市場の長期金利が低下すると、ナスダック主力株は選別的にバリュエーション面でプラスとなるでしょう。
実は、2020年の株価急落後の底入れ局面と類似する点が見られます。2020年初の波乱相場は「天災」(コロナショック)に起因しましたが、今回の株価急落は「人災」(トランプショック)といえそうです。
ただ、米国内の格差拡大、製造業の相対的な退潮、近年の物価高、不法移民の増加を受け、「自国ファースト」を求める多数の有権者が誕生させた第2次トランプ政権(トランプ2.0)の本質は再認識したいところです。
中期では来年(2026年)秋の中間選挙を見据え、同年春(任期2年の下院議員の選挙運動が始まる時期)に向けて、トランプ共和党政権がどれだけ公約実現による成果を「見える化」できるか…ディール(関税交渉)の成果、物価の安定、各種減税、規制緩和、内外からの民間直接投資(発表累計で4兆ドル)による効果と世論調査の支持率動向が市場動向に影響しそうです(図表3の右上に「2026年に向けた株式相場の復調期待要因」を記載しました)。
図表3:「トランプ2.0」は高関税策を巡る恐怖だけで終わるのか

実際、トランプ大統領は27日、関税収入を原資に「年収20万ドル未満を対象とする所得税減税」を打ち出しました。冷静にみると「トランプ2.0」が高関税策だけに終わらない点には要注目です。
長期視点に立ち、米国株式に「定時定額投資」(積立投資)を続けるドルコスト平均法を心がけたい方針に変わりはありません。また、ニーズと余裕資金に応じて上述した「ヒラメ型投資戦術」を組み合わせることが資産形成に寄与すると考えています。
米国株急落をチャンスに変える?今こそ試したい「ヒラメ型投資戦術」
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