関税によって米国でプラチナが今の価格で入手できなくなるとの懸念から、プラチナ先物価格は極端なフォワードカーブになり、NYMEX承認の保管庫には大量にプラチナが流れ込んでいる。貿易摩擦が続く間は取引所の在庫水準は下がりそうにもなく、摩擦が緩和されてこの在庫が大きく減らない限り、我々が予測している26.4トンという今年の供給不足が解消することはないだろう。

 ​関税への不安でプラチナ市場のバランスが崩れ、関税実施前に急いで米国へ輸入されるメタルが急増。NYMEXの在庫は昨年12月半ばから14.3トンも増え(+225%)、その大部分はEFPレートの高騰を利用した利を狙うショートポジションに関連していると見られる(図1)。先物価格とスポット価格の差であるEFPレートは、それが大きければ現物をロング、先物をショートすることで利益を出すことができるからだ。この差を利用した取引は1月に3ヶ月物先物が75ドル/オンス、3ヶ月間のリースレートが60ドル/オンスになった時にピークに達した。EFPレートを押し上げているNYMEXの極端なフォワードカーブ(図3)を見ても、向こう1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月にわたって、今の価格では米国でプラチナを購入できなくなるという不安が市場を支配していることがわかる。今のうちに先物を買って少しでもそのリスクをヘッジしようというわけだ。NYMEX承認倉庫へのメタルの流れは目にみえる動きで、その大部分はEFPレートの高騰を受けての動きだろうが、保管庫を通さずにエンドユーザーに直接流れたメタルも少なくないと考えられる。

図1.EFPレートの上昇が取引所在庫増加の背景

EFPレートの上昇が取引所在庫増加の背景
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図2.取引所在庫が大きく減らない限り、2025年の供給不足は現在の予測よりも増える可能性

取引所在庫が大きく減らない限り、2025年の供給不足は現在の予測よりも増える可能性
出典:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

 我々は取引所在庫の増減は投資需要の中で捉え、在庫増はネットで需要の増加、在庫減はネットで需要が減少という解釈をする。例えば、コロナ禍中の2020年は取引所在庫が大きく増えて供給不足になり、その後在庫が減った2021年と2022年は供給過剰になった。しかし今回注意すべきなのは、足元の在庫が増えたとはいえ、コロナ禍のピーク時よりも4.4トン少ない。その後在庫が流出し始めたのは国際流通網が回復してからのことで、今後の取引所在庫の動きが今年の需給バランスに影響するのは明らかだ。26.4トンの供給不足予測には4.7トンの取引所在庫が含まれているが、今の時点で取引所には既に10.2トンが流入している。従って、これから在庫が5.5トン減らないと我々の予測に合致しないが、それはプラチナに関する関税リスクが明確にならないと実現しないだろう(図2)。しかし、トランプ政権と南アフリカ政府の間の関係が悪化している今、PGM供給リスクはなくなりそうにない。米国はパラジウムに関してはほとんど自給自足できるが、プラチナはそのような状態にはなく(図6)、それがリースレートと取引所在庫に反映されている(図7、図8)。

取引所在庫が大きく減らなければ、今年の供給不足は予測を上回る可能性

それには貿易摩擦と関税懸念の解消が必要だが、今現在の状況ではどちらも望めない。

投資資産としてのプラチナを支える背景

-WPICのリサーチによると、プラチナ市場は2023年から供給不足が続き、2029年までに地上在庫がなくなる可能性
-プラチナ供給は南アの鉱山供給減とリサイクル率の低下で問題多い
-貿易摩擦がマーケットの流れを崩しタイト感を募らせている
-プラチナは世界のエネルギー転換に必要な水素経済に重要な役割を果たす重要鉱物
-プラチナ価格は長い期間過小評価が続きゴールドよりも大幅に安い

図3:リースレートに対して極端なフォワードカーブがEFPレートを押し上げNYMEXへのメタル流入の背景。1ヶ月もののバックワーデーションはスポット市場がタイトであることを示す。

リースレートに対して極端なフォワードカーブがEFPレートを押し上げNYMEXへのメタル流入の背景。1ヶ月もののバックワーデーションはスポット市場がタイトであることを示す。
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図4:投資家のネットポジションはショートとロングの繰り返し、EFPレートの変動はそれほど影響していない

投資家のネットポジションはショートとロングの繰り返し、EFPレートの変動はそれほど影響していない
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図5:我々のプラチナ市場予測では、取引所在庫の推移は投資需要として扱う

我々のプラチナ市場予測では、取引所在庫の推移はで投資需要として扱う
出典:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

図6:米国は、パラジウムはほぼ国内自給できるがプラチナは大幅に不足

米国は、パラジウムはほぼ国内自給できるがプラチナは大幅に不足
出典:シバニェ・スティルウォーター、メタルズフォーカス、ブルームバーグ、WPICリサーチ

図7:プラチナリースレートに市場が強く反応しているのは、パラジウムよりもタイトである証拠

プラチナリースレートに市場が強く反応しているのは、パラジウムよりもタイトである証拠
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図8:プラチナの取引所在庫はパラジウムよりも相対的に大きく増えている

プラチナの取引所在庫はパラジウムよりも相対的に大きく増えている
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

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