トランプ氏の発言に相場も翻弄(ほんろう)されている中、先週行われた日米金融会合では、ともに政策金利の据え置きが決定されました。一方、日米両総裁の発言により日銀は6月利上げ、FRBは追加利下げを行うとの観測が高まっています。それぞれの記者会見の内容を振り返りながら、今後の注目点を見ていきましょう。
トランプ大統領、相互関税について柔軟性があると認識を示し、ドル高に
21日、トランプ大統領は4月2日に導入する予定の相互関税について「柔軟性がある」との認識を示したことから市場に安心感が広がり、下落していた株や売られていたドルは値を戻しました。
そして今週に入ってもその安心感は続き、24日にはトランプ大統領が「相互関税」について対象国を絞り込む可能性があるとの報道が伝えられたことから、一段と株高、ドル高が進み、1ドル=150円台後半へと円安が進みました。しかし、4月2日までに水面下で交渉が進み、どの程度関税が軽減されるのか依然不透明な状況であるため注意する必要があります。
トランプ米大統領の二転、三転する発言によって相場も翻弄されていますが、一方で先週19日の日米金融政策決定会合を受けて、6月の日本銀行追加利上げ観測、FRB(米連邦準備制度理事会)の追加利下げ観測が高まっています。そのため、ドル/円は上下動しながらも円安の動きは鈍くなりそうです。
19日の日銀金融政策決定会合は現状維持でした。声明文では「各国の通商政策」がリスク要因に加えられましたが、植田和男総裁は記者会見でトランプ関税の影響を注視しながらも「経済・物価の見通しが実現していけば引き続き政策金利を引き上げる」と利上げ姿勢を強調しました。
そして、トランプ関税の影響については「4月初めには通商政策の内容がある程度出てくる。次回の決定会合ないし展望リポートの中である程度消化できる」と述べています。
「4月初め」や「次回会合(4月30日~5月1日)」という時間軸を示したことや、2025年の春季労使交渉の第1回回答の集計で賃上げ率が平均5.46%となったことについて、「オントラック(想定通り)の中でもやや強め」と評価したことから、6月利上げ観測が強まりました。
一方、19日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では政策金利は現状維持でしたが、保有資産の規模縮小のペースを4月から減速(上限が月間250億ドルから50億ドルに減額)することが発表されました。
また、経済・物価見通しでは2025年10-12月期実質GDP(国内総生産)は下方修正(2.1%→1.7%)、物価見通しは上方修正(2.5%→2.7%)となり、金利見通しは前回12月同様、年2回利下げを維持しました。
FRBのパウエル議長は、FOMC後の記者会見で現状の米国経済について「健全で底堅い」と強調し、「利下げを急ぐ必要はなく、(経済状況が)より明確になるまで待つ体制は整っている」と従来の姿勢を述べながらも、トランプ政策の高関税政策を受け、「不確実性が異常なほどに高まっている」と指摘し、先行きへの警戒感を示しました。
今年の1月ごろは、FRBの年内2回の利下げ見通しもそのペースが遅くなるとの見方が大勢となっていました。しかし、米CPI(消費者物価指数)の鈍化が続き、消費センチメントも悪化したことや、トランプ大統領の関税政策という不透明要因が加わったため、足元の景気後退懸念と先行きの物価上昇懸念からFRBはスタグフレーションを警戒し、金利見通しでは年2回利下げ見通しを維持しました。
そしてGDP下方修正、物価上方修正見通しや、保有資産の規模縮小ペースを減速したこともあり、6月利下げ観測が高まりました。市場の見方も年3回利下げとの見方に変わってきています。
今後も弱気市場(株安、金利高、ドル安)が続く
今後もトランプ大統領の高関税政策が続けば、スタグフレーションがさらに進むことが予想され、市場に警戒心がまん延し、弱気市場(株安、金利高、ドル安)が続くことになりそうです。
逆に関税政策が緩和されれば、市場に安心感が広がり、強気市場とはならなくとも市場の弱気は後退しそうです。このように金融市場も経済もトランプ関税政策にしばらくは翻弄されることが予想されるため、FOMCの見通しもインフレ再燃を警戒しながらも、利下げ姿勢は続くのではないかと考えています。
先行きの米政策金利の織り込み度を示す米国CME(シカゴ先物取引所)のフェドウオッチによると、直近では6月、9月、12月の利下げ期待となっています。また、アトランタ連邦準備銀行のGDPNowは3月18日時点で1-3月期GDPは1.8%減の予想となっています。
トランプ関税発動前の前倒し輸入が増えたことによるGDP減速のため4-6月期には改善されるとの見方ですが、今後のトランプ関税の成り行きと経済指標をチェックしながら見極めていくことになりそうです。
今後のドル/円市場の見通し
まずは、今週28日のPCEコアデフレーターに注目です。上昇予想となっていますが、FRBの利下げ観測が後退するのかどうか注目したいと思います。
一方、日銀はトランプ関税の影響を注視しながらも引き続き利上げする姿勢を維持しています。植田総裁は記者会見で、春闘の賃金上昇はオントラックよりやや強めと認識しており、足元の食品価格の値上がりについては「一時的な供給ショック」との見解を示しつつも、「国民生活へのマイナスの影響を強く意識している」と説明しています。
食品価格の上昇により企業や消費者のインフレ期待が上昇し、物価抑制が後手に回るリスクも警戒し始めている様子がうかがえます。半年に一度のペースであれば7月利上げとなりますが、後手に回るリスクを避けるためにも6月利上げの可能性も十分予想されます。
6月か7月か、日本の政局も利上げの判断に大きく影響するとの見方もあります。日銀はこれまで選挙前の政策変更はほとんど行ってきませんでした。参院選の前哨戦となる東京都議選は6月22日が投開票です。6月の日銀会合(16~17日)は選挙の5日前になります。
一方、7月の日銀会合(30~31日)は参院選(7月20日ごろ)の後となります。参院選の結果で政局が混乱している中での7月の日銀会合よりも、選挙前ではあるが後手に回るリスク回避を優先し、6月会合で政策変更を行うとの見方がやや優勢のようです。
次回4月30日~5月1日の日銀会合では同時に公表される展望レポート(今後の経済・物価情勢見通し)にも注目です。トランプ関税の影響をどの程度消化しているのか明らかになり、次回の6月会合での利上げを示唆する内容となるかもしれません。植田総裁の記者会見での発言と合わせて次回会合にも注目です。
今週後半から来週初めは期末要因による予想外の実需によって相場は思わぬ方向に動くことも予想されますが、期末という一時的な材料が消化されれば、日米の金融政策の方向(利下げによるドル安・利上げによる円高)に相場は戻ることが予想されます。
FRBの利下げ、日銀の利上げ 日米金融政策の変更可能性が高まる
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