ドル円一時146円台からパウエル議長発言で147円に戻す
あれよあれよという間に1ドル=146円台になりました。おそるおそるの円高ですが、先週末はドルが売られ過ぎたのか、経済は「堅調なペースで成長している」とのパウエル議長の発言をきっかけにドル/円は147円台に買い戻されました。
ドル反転のきっかけとなった市場の米景気後退懸念を一蹴するパウエル議長の発言でしたが、10日のダウ工業株30種平均は米景気後退懸念から、一時1,100ドル超下落しました。
9日のFOXニュースのインタビューで、トランプ大統領が米景気について「過渡期にある」と発言し、米景気後退の可能性を否定しなかったとの見方から株が急落しました。株安を受けて米債が買われ、米金利低下の中、ドル/円は一時1ドル=146円台後半まで円高が進みました。
米国経済は山火事や寒波、トランプ政策を懸念した駆け込み需要によって強弱が入り混じった経済指標が発表されていますが、これらの要因が今月発表される経済指標で一過性として確認されるのかどうか注目です。
雇用統計は予想より弱めの内容でしたが、悪くはないという見方もあり、大きくドル安にはなりませんでした。11日に発表された1月JOLTS(雇用動態調査)求人件数は774万件と前月(750.8万件)を上回り、予想も上回りました。
今週の見通し トランプ関税によるインフレ懸念高まる
今週は3月12日の米2月CPI(消費者物価指数)、13日の米2月PPI、14日のミシガン大学調査の消費者信頼感指数(3月速報)が注目指標です。トランプ関税によるインフレ懸念は高まっていますが、足元の物価も徐々に上昇してきているのかに注目したいと思います。
CPIはコアCPIも含めて前月より低下予想となっていますが、予想を上回った場合は今の相場地合いだと金利高、ドル高に反応しやすくなっているため注意が必要です。
また、ミシガン大学消費者信頼感指数は、このところ消費者心理の悪化とインフレ懸念の高まりを示しています。3月分でも同様の傾向が示唆されれば、スタグフレーション懸念が一層高まっていることが分かります。政府職員の人員削減がこれから本格化することを考えれば、足元の米景気失速が気になるところです。
パウエル議長は「米経済はしっかりしている、従って利下げを急ぐ必要はない」と明言しましたが、消費支出は2024年後半の急速な成長と比較してやや減速する可能性を示唆しているとも説明しています。雇用市場の悪化とトランプ関税によるインフレ懸念の高まりで景気後退が目に見えてきた場合は、パウエル議長の見方も変わる可能性があります。
NY株はトランプ大統領の発言前から続落しています。株安が続いていることから逆資産効果による消費意欲後退を警戒し、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げを急がない姿勢も柔軟で、ややハト派的なニュアンスに変わってくるかもしれません。
また、金利見通しが前回よりハト派になるかどうか注目です。3月18~19日のFOMC(米連邦公開市場委員会)までに出てくる経済指標によって、金融姿勢や金利見通しが変わるのかどうかにも注目したいと思います。
ドル/円は1ドル=146円台に入ってすぐに147円台に押し戻されていますが、トランプ大統領の円安批判や日本の賃上げ6%超の勢いが続けば、上値が重たい地合いが続くことが予想されます。
先週発表された3月4日時点のIMMのネット・円ロングポジションは13万3,651枚(約1兆6,700億円)と前週から約4割増加し、過去最大を更新しました。円ロングポジションは日米金利差による保有コストがかかるため、長期保有は避ける傾向があります。
従って、過去最大のポジションで積み上げペースが速いことから、何かのきっかけで円ロングの解消(円売り)が一気に起こることが警戒されています。しかし、昨年7月(ドル/円は160円台)は円ショートポジションがそれ以上の規模だったことを考えると、過去最高にこだわるのならば、まだ円ロングを積み上げる余地があるという見方もあります。
それでもIMMの円ロングが積み上がっているのは気になるところですが、3月18~19日の日本銀行会合までは利上げ政策を見極めたいという思いと、万が一利上げする場合を想定すると、円ショートは持ちづらいのかもしれません。
10日、日本の10年債利回りは一時1.575%へと2008年10月以来の水準に上昇しました。日銀の最終到達点(ターミナルレート)の水準が見えないため、投資家が買いにくさを感じているとのことですが、正常化の過程の動きだという見方もあります。
長期金利の上昇は日銀への催促相場の動きと捉えることもできます。ドル/円の円高地合いは長期金利の動きを見ている限り続きそうです。
ドル/円の円高は1ドル=147円台、146円台の局面ではおそるおそる進んでいるという状況です。円ロングポジションの過去最大の積み上がりを警戒していることもあると思われますが、ユーロ/円の堅調がドル/円の円高を抑制している面も強いようです。
ユーロは、ドイツの財政拡張路線への転換やEU(欧州連合)の軍備増強計画、ウクライナ紛争停戦への期待によってドイツ金利が上昇し、ユーロ高となりました。ユーロ/円も1ユーロ=155円台から円安に反発しており、その円安がドル/円の円高にブレーキをかけているようです。
ただ、欧州の軍備増強については、実際の経済活動に落とし込まれることが確認されるまでは、ユーロ高の持続性が一時的になるかもしれません。期待から上昇したユーロ高の動きが続くかどうか、また息切れになるとユーロ安、ユーロ/円の円高がドル/円の円高を後押しする可能性があるため、ユーロ/円の動きにも注目したいと思います。